お寿司屋さんと重金属
私の勤務している会社の近くに雑居ビルがありまして、その地下にお寿司屋さんがありました。夜のお寿司屋さんは、天麩羅屋さんと並んで金額的な未知数が大きいので利用していたのは専ら昼だったんですが、そのお店がこの度閉店すると言う情報を聞きつけ、会社の先輩と一緒に「普段から利用していたから、最後は夜にでも遊びに行きますか」ということで、その最終営業日に足を運んだのであります。
閉店近くまでそのお店で飲み食いし、板さんとひとしきり話しているうちに、お店の奥の方からもう一人の若い板さんが登場。
「今まで色々とお世話になりました、お昼時によく来て下さっていましたよね。」
板さんはそのように仰ってくれた。
お昼時「しか」伺っていませんでした。いや~、すまぬ。
しかし、それでも覚えてくれていたことには大変嬉しいものがある。
ところでこっちは若い板さんに見覚えがない。
「いつもご馳走になり、ありがとうございました!」
無難に感謝の辞。
「いつも朝早くから夜遅くまで大変じゃないですか?余暇は殆ど無いですよね?」
そんな質問をしたら、
「中々時間は取れないけど、息抜きで音楽聴いたりしているから、それで何とかストレス消してます。」なんて答えが返って来た。
若い板さんは果たして、どんなのを聴いているのだろう?
やはり日本の食材の王道を行くお寿司屋さんなのだから、ニッポンの演歌とか…割り引いても歌謡曲なんてところかな~?などと思いを巡らせ再び尋ねてみる。
「板さんは、どんなのを聴いているんですか?」
「メタルですよ。」
メタル?
ぬなっ!?
これにはいささか驚きを隠せない。
お寿司屋さんにしてメタル。このミスマッチにピッ!ときた。どうせ、お寿司屋さんなのだから耳あたりのよい軽メタル(そんなジャンルってあるんか!?)辺りであろうとタカを括り、ちょうどウォークマンを持ち合わせていたので、悪戯心も手伝って鞄から取り出した。
かつて、私がお世話になった友達に、とってもロックが大好きな方がいました。
それはそれはヘヴィなのが好きな方でした。
私の知らないアーティストを随分と教えてもらったものです。
その中に「それ」がありました。最初、私が耳にした時(自分が今まで聞いていたのはかなりハードだと思っていたのだけど)、根底から叩きのめされてしまうような衝撃を覚えただわ。
ノイジーで、もう完全に「一線」を越えてしまっていると確信した「それ」。
最初聴いたときは「これはいくら何でも聴くに耐えない」と思ったものですが、人間の耳と言うのは非常に順応性があるもので(汗)、何度も聴いているうちに「かっちょええ!」と感じるようになってしまったのです。今じゃ、全くフツーだし。(笑)
本当に恐ろしいもんだ。
で、それを寿司屋の板さんに聴かせてたらどんな反応を示すでしょうか?
「メタル」と言った手前、退く事ができないだろう。
でも、こいつは煩いぜ。
さぁ、耳に痛い音に触れてみるがいいっ!
「これなんかどです?」
なるべくポーカーフェイスをキープして、何気なくイヤホンを手渡す私。
「どれ、ちょっと聴かせてもらっていいかな?」
<再生開始>
『これはちょっと酷い』の言葉を期待していた私は彼のノリノリになっている雰囲気を見て、唖然とした。
そうか、本当にメタルが好きな板さんというのは、…実在したのか。
その格好でヘッドバギングするってのはいかがなも…
似合ってます(^^;
え?
何の曲を聴かせたかって?
実はね、Panteraの「Cowboys from Hell」ってやつです。僕これ、結構好き。
考えたら、Dopeとか、Meshuggarとか、もっと危険な匂いのするやつあったよなー。
もっと攻めるべきであったと、ちょっと残念がった私。