奈良の話
取引先さんの一つに、新聞媒体の広告代理店さんがいらっしゃる。そこを通して某有名紙朝刊や夕刊に企業広告を打たせて頂いているのだが。先日、担当者が異動になったということで、新しい担当者が挨拶にいらっしゃった。
その方、ひょうひょうとした出で立ちで、ちょっと髭を蓄え、くたびれ加減がいい按配のジャケットを羽織り、「あ、ども、飯塚(仮称)といいよります」ときた。何処の人だろ?
私「どちらさん?」
先方さんのイントネーションに引きずられて、右肩上がりのトーンで聞き返してしまった。
飯塚「あ、先般電話でお話しさせていただきました広告代理店の新任です?」
私「そうっすか?」
どうも右肩上がりのイントネーションは連打すると、関東圏ではみょうちきりんになっちゃうよね。(決して、会話上では両者とも疑問文をキャッチボールしているわけではありません)
私は、いつもより増して「標準語」を意識して話をするようにした。
私「飯塚さんは、関西方面の方なんですか?」
飯「いえ、東京です。ただ、今まで勤務していたところが奈良でした。」
ほほぉ、奈良か。私ったら修学旅行くらいでしか行った事ないし。
私「奈良は如何でしたか?」
飯「いいところですよ!」
私「どんな風にいいところ?」
文化芸術に関しては、さすが歴史の国だ。中々素晴らしいところなのだろう。飯塚さんは仕事のこともそっちのけで奈良の話を熱く語ってくれた。こっちも熱心に聞き入ってしまう。仕事してない。
飯「奈良は日本の文化の発祥地としても素晴らしい功績があるんです」
私「ふぅん、なるほど確かにそんな気もするが、文化の発祥地なの?」
飯「古くは神代の土地でもあったほどなんですよ」
んー?
にわかに信じ難い。僅かながらの知識ではあるが、反論攻勢に出たくなった。
私「ちょと待って。神代の時代ともなると、アメノミナカヌシノカミがおわす高天原になるよね」
飯「え?(ちょっとびっくり)、ご存知なんですか?」
私「あんまりご存知ではないけど、うる覚えで、ちょっと気になったものですから」
飯「高天原の所在地については、日向とか出雲とか、諸説あるんですが、奈良もその一つなんです。 (間) しかし、残念なことに最近は日向説が有力で…」
飯塚さん、ちょっと寂しそうな表情を浮かべたので、話題の切り返しを急ぐ私。
私「と、ところで、奈良ってお酒が美味しいですよね。」
飯「え?(ちょっとびっくり)、ご存知なんですか?」
飯塚さんの頬に赤味が戻ってきた。おっけ。
飯「そうなんですよ、奈良って、日本酒の発祥地なんです。奈良のどんな銘柄がお好きですか?」
私「い・いや、銘柄と言っても、具体的に名前が浮かんでこないんだが…」
かつて居酒屋で飲んだ奈良の酒は、何と言う銘柄だったっけ?
美味かった記憶はあるが、銘柄名までは思い出せない私に、飯塚さんが詰め寄ってきた。
飯「飲むのでしたら、是非とも、『春鹿』をお勧めします!これぞ、起源の蔵元銘柄なんですよ!」
私「へぇぇ。」
飯「もともと、日本の清酒というか、お酒は「お神酒」が始まりと言われています。そこで、一番最初に作り上げたのは、神社系になるんです。春鹿の蔵元も元を正せば神社なんですねぇ。」
そんなこんなの話を聞いていたら、俄然『春鹿』が飲みたくなってきた。
担当者が戻り、帰社時間になると、私は日本酒が一番揃っていると思われるお店に足を運んだ。
どんな銘柄のお酒でもそうだが、ひとえに「○○という銘柄」と言っても、種類は沢山ある。本醸造もあれば山廃もあるし、純米もあれば吟醸もある。彼の言っていた春鹿はそのどれに当たるのだろう?
実は、大凡の見当は付いていた。彼もそれ程日本酒通ではないようだし、ビンの色とラベルの模様、概ねの価格を聞いていたので、その情報を元に探しに出たのである。
ふふふふ、見っけた。
『春鹿・純米・超辛口』、これだ、これに違いない。
お財布にやさしい価格ではなかったが、なにか日本の歴史に触れることができるような、そんなモチベーションが購入意欲をかきたててくれた。
さっさと購入
自宅で一人試飲大会開催す!
初めて開封したお酒をコップに注ぐ時の「コッコッコッコ…」という音には毎度の事ながら胸踊るものがある。さぁ、試してみよう。彼の薦める「春鹿」を。
お世辞抜きに語ります。
この銘柄のこのお酒、かなり辛口です。キリッとした締り具合にはむしろ清々しさまで感じます。私は常温で飲みましたが、程ほどに冷やすと更に効果倍増かもしれません。
舌の上でころがしてみれば、ほのかに香るフルーティーな吟醸香。純米酒でこの水準は素晴らしい。単に辛いだけの酒ではない。日本酒度+12と記載されていたので、キリキリを連想していたのだが、決してそんなことも無く、むしろすっきりと飲める印象があった。美味しいです。確かにこのタイプは初めてだ。吟醸吟醸している酒は香りは良いけど飽きが来る。かと言って喉越しを楽しむだけのお酒は御免だ。ただ味が良いだけの酒ならその辺の大手酒造に任せておけばよい。個性のある余韻を楽しむのなら、このお酒は一つの選択肢になり得る!
ご馳走様でした♪
ところで補足事項。
清酒の起源は灘と言う話があります。
もともと清酒って、正宗「マサムネ」の読み方を「セイシュウ」とも読めるところから転じて、
正宗→マサムネ→セイシュウ→セイシュ→清酒
となったようでして。
で、正宗って命名があるのは灘が始まりだそうなんです。。
なので、あれだ、今度は灘の正宗銘柄と比較検討してみる必要があるな。。
呑兵衛の理屈だな。
人生、先ずはアリバイありきってね。
じゅるり...