犬の話(番犬ですな)
そういや昔、犬に追いかけられたことがあった。あれはとても怖い思い出だ。
部活が終わって電車移動し、駅から自宅までチャリンコを漕いでいた学生時代。
道すがら、夜になっても街灯が灯っていない区間があり、ある日そのエリアのどこの御宅か分からないが、番犬を放し飼い状態にしていたのである。番犬ってのも一応ペットのくくりになるんかね?
その御宅の近くを通りすがった私に、番犬が「ワンワン!」と吼えたてた。それはそれは、かなりの大きい声だった。
驚いた私は、加速度をつけてその場をやり過ごそうとしたのだが、なんと、吼えていた犬が、吼えるだけでなく、その敷地から飛び出し、私を追いかけてきたのである。本当に放し飼い状態だったことにその時点になって初めて気がついた。
<まずいっ! 噛みつかれる!>
一生懸命にペダルを漕いで全力でその場を走り去ろうとした。
気がつくと追いかけてくる犬の声が複数に増加していた。追いかけてくる犬は1匹だけではなかったか?
背後を振り返った私はそこで愕然とした。概ね4~5匹ではないだろうか、複数のポインター系の犬が追いかけてくるのである。
<何故こんなに放し飼いになっているんだっ!!>
そんな疑問を解いている余裕はない。相手はポインター系、さすがに走るスピードは格段と速い。瞬く間にペダルを漕ぐ私の足元に犬の顔が、吐く息の猛々しい、歯ぐきを剥き出しにし、鋭い歯の脇からはだらりと長い舌をこぼれさせてる犬の顔が今にも噛み付かんばかりに迫ってきた。
<このままでは命にかかる…!>
本当にそう思った。
どうにか状況を好転させなければならない。自転車を走らせながら、足元に迫ってくる犬の頭を私は思い切り蹴飛ばした。ひるんだ犬はバランスを崩し、一度はラインから外れたものの、直ぐに体勢を立て直してきた。私の足元には次の犬が接近してくる。更に不幸な事に、一度蹴られた犬は更に逆上して追ってきた。
<くそっ!上手く自転車が走ってくれない。>
無我夢中とはいえ、体力は次第に消耗して行く。こちらのスピードがダウンしている事は明らかだった。
その時、咄嗟の思いつきが私を救った。私は両手に慢心の力を込めてブレーキ・レバーを握り、体が前に飛び出さないようにハンドルを切った。
自転車は道路を滑る様に急停止した。
その「変化」に犬の反応が遅れた。
彼らは自らの脚をその能力をもてあますことなく直進し続けることに注力していたのだ。結果、自転車を追い越し、ほんの数秒で10メートル以上の「間隔」が開いた。
<さぁ逆だ!来た方向を逆に行くぞ!>
私は再び、ペダルに力を注いだ。
漕いで漕いで必死になって漕ぎまくった。
そうして最初に犬に吼えられた「当初の場所」を通り過ぎた。
件の犬達は最初、それでも私を追おうとしていた。が、「当初の場所」に差しかかった時、何が彼らを萎えさせてしまったのか分からないが、彼らは次第に戦力を消失し、三々五々に其々の「自宅」に帰って行ったのである。
結局私は遠回りして帰宅の途につくことになってしまった。。
いやぁ、とんでもない経験だった。
そんなわけで、私は犬にはちょいと苦手意識があるのです。