その名前が出てこない
おっさんたちと飲みに行くことになった。
今回のメンバーは気分が良くなりそうなので、一発返事でOKを出した。
「これは楽しい飲み会になるに違いない」
私は、テンションをあげる準備をして戦場(居酒屋)に赴いた。
最初に軽くビールで乾杯した後は、お約束の普段のねぎらい合戦。そして、とりあえずの日頃話題を数分間でさっさと切り上げて、いきなり小説&映画の話題にシフトとなった。
「最近通勤途中で読んでいる本は何ですか?」
この話題で最初に出てきたのがF・フォーサイス。この作家、私もかなり好きである。
それを同席上司が「今のめりこんでいる」と言うので一気にその話題に火が点いた。
仮称)石川「『ジャッカルの日』は名作だけど、それだけじゃないよね」
私「そうそう、『オデッサ・ファイル』とか『イコン』もいいですよね!」
石川「あ、きみ、そういう世界好きなの?」
私「ええ、まぁ。」
石川「じゃぁ、T・クランシーなんか、好きでしょ?」
私「!おっと! 大いに!レッドオクトーバーなんか、サイコーっすね。」
仮称)大森「映画も良かったよね」
石川「君も観たの?」
大森「いやぁ、あれ、傑作ですよ。主演の・・・」
石川「主演の?」
大森「えっと…なんだっけ、ホラ、あれ」
石川「ああ、彼ね、…・えーっと、」
私「シ・・・あれ?」
しばし沈黙…。
仮称)近藤「ショーン・コネリー!」
石川「そうそう!ショーン・コネリー!」
大森「何で出てこないんだろう、ショーン・コネリー!」
私「まぁ、ショーン・コネリー、そんなもんですよ」
これで漸く、話が再び進み出す。やれやれ。
石川「コネリーといえば007だよね。」
大森「でも歴代007で一番長くボンドをやっていたのは彼ではないんでしょ?」
近藤「そうだね、2代目の彼のほうでしょ?えっと…」
石川「あれでしょ?」
大森「そう、たぶん、それ」
私 「ああ、”カレ”ですね」
沈黙
私 「ゲイリー・ムーア」
石川「誰?それ」
私 「ロック・ミュージシャンです」
石川「おまいは、オレをおちょくってんの!?」
私 「い・いえ、そうではないです、確かそんな名前に近かったかと…」
大森「あ、そうだ、ロジャー・ムーア!」
近藤「そうそう、そうだ、ロジャー・ムーア」
石川「なぁんだ、簡単じゃないか、ロジャー・ムーア」
しかし、なんだね、シラケているわけではないけれど、飲んでいる最中の一時沈黙と言うのは実に気分が妙になる。
でも、名前が出てきたので再び懇談会は始まる。
石川「そういや、さっきの話に戻るけどさ、ショーン・コネリーって言えば、彼の出てた映画で「ザ・ロック」ってのあるんだけど、知ってる?」
私 「勿論知ってますよ!、アレ、いい映画でしたね」
石川「私はあの映画に出ている、米海軍の歴戦の英雄ハメル准将が好きでね」
私 「エド・ハリスでしたっけ?シブイところ突いてきますね、石川さん」
石川「そ・そうかな?…でもさ、あの映画ではショーン・コネリーも主演じゃなかったよね、主演はさ、えっと…」
私 「彼ですよね?えーっと…」
近藤「えーっと、…あうー!くっそー!!ここまで出ているのにー!」
沈黙
大森「えーーっと、…ケ・ケ・ケ」
近藤「ケイジ!」
石川「ニコラス・ケイジ!」
(とほほーい)
名前が出てきたところで、再び会話がスタートだ。
近藤「アクションものでは、私は『ランボー』が好きなんですよ」
私 「3作目でしたっけ?『怒りのアフガン』っての。筋肉見せ付けられちゃいましたよ」
大森「『コブラ』なんてのもあったよね、彼の作品」
石川「あれぇ?…またかな?」
大森「まずいですよねぇ…出てきません」
私もここまで来ると焦り出す。
しかし、顔は出てきているが、やはり名前が出てこない。
いけない!
何とかこのくらいは思い出さなければ、早くも老人の仲間入りだ。
焦れば焦るほどに名前が出てこない。
一生懸命に思い出そうとして、漸く何とかピンそばまで来た。
私「ビリー・ジョエルに似ている人でしょ?」
大森「そう、ビンゴ!」
石川「じゃぁ、そういうことで!」
そういうことになった。
大森「アクションと言えば、さっきのT・クランシーじゃないけど、『エアフォース・ワン』が好きだな」
石川「『インディー・ジョーンズ』の彼が出ているやつね?」
大森「そうです、『スター・ウォーズ』があまりにも有名だけど、こっちの方が好きなんですよ」
私 「私なら『逃亡者』の方が好きですよ」
近藤「結構色んな映画に出ているんだね、彼」
私「(おそるおそる)名前、出ますか?」
近藤「みんな知ってるよね、敢えて言わなくても!」