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トランぺッターに遭遇

何処からともなくトランペットの音色が聞こえてきた。

それは戦時中の起床ラッパのメロディーだ。


「何処かに右翼の街宣車でもいるのかな?」


そんな風に思って、辺りを見回してみたのだけれど、何処にもそのような気配が無い。

そのうち、トランペットは「七つの子」のメロディーを吹き始めた。

右翼が「七つの子」を流すとは思えない。これはきっと、誰かがトランペットのCDか何かを大きなボリュームで流しているのだろう。しかし、ここはビジネス街、何故?

イージー・リスニングを店頭で流すと言うようなことなら何とはなしに理解できる。しかし、聞こえてくるのはトランペットのソロである。ヘンである。


そうこうしているうちにメロディは「ジングルベル」になった。

タイムリーと言えばタイムリー。でも、選曲に一貫性が無いよー。

…ってことは、CDではないのか。


「ジングルベ~ル、ジングルベ~ル♪、ス『じ』が~鳴る~♪」


や!

今、確かに一箇所、音を外したぞ!?

絶対外した!


トランペットは「何事も無かった」かのようにしらっと演奏を続けた。

でも私の耳は騙せませんよ。

「確かに」一箇所、音を外しましたね?な?ね?


しかし辺りを見渡してみるものの、トランペットの出所がつかめない。

もともとペットは結構大きな音の出る楽器なだけに、至近距離にいなくてもそれなりの音は辺りに広がるし、届くもの。


何処にいるのだ?


これは、CDでもテープでもない、間違いなく生身の人間が吹いているに違いない。

私は確信していた。


ビジネス街にストリート・ミュージシャンってのも怪しいが、トランペットと言うところが更に謎だ。

私の住んでいるところの近くにも、ストリートはいる。ギター演きの若い面々が殆どだが、ときどきジャミセンとか、謎のアンデス・バンド(彼らは事あるごとに「コンドルは飛んでいく」を演奏している)がいるくらいで、トランペッターは見かけたことが無い。ただ一度だけサックス奏者に遭遇したことがあるが、それにしても駅前のひとつの光景だ。


翻って、現在、私が遭遇している場所は、駅前でもなければ、一般的雑踏でもない。ビジネス街のど真ん中である。近くにデパートなどがあるわけでもない。ほとんど金融街といっても過言ではないポジションだ。ショー・ウィンドウをアレンジするためのBGMならまだしも、この界隈にそんなものを必要とするようなところは、見当たらないんだよね…。

なんで、ここで演奏するのだろう?


そんな私の疑念をほったらかすように、姿の見えぬトランペッターは次の曲に移った。


「津軽海峡冬景色」


…なんで?


……どして?


演奏者の選曲で私は更に好奇心が高まった。


時間の許す限り、近くを散策した。

そいつの顔だけでも拝んでみたい。(拝んだところでどうなるものでもないが、若いやつなのか熟練なのかだけでも、風貌の確認をしたくてたまらなかった)



いた!



実は私の予想は裏切られてしまった。


先ず、日本人ではなかった。

外人だった。

ひょうひょうとした外人さんでした。中東系。

民族衣装ではなく、スーツ。

その顔立ちを遠めに見ながら、私は更に「何故?」で頭がいっぱいになっていた。


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