公衆電話物語
これだけiフォン・スマホが普及してしまっているのだから、公衆電話の話しをしてもあんまりわかんないでしょうね。でもする。
その昔、ケータイが殆ど普及していなかった頃、部屋に電話を引こうとすると「電話加入権」をNTTから購入しなければならなかったんです。それ、結構高かった。
そうなると、友達に電話をするにはもっぱら公衆電話に頼ることになる。私の下宿の近くに「その公衆電話」は存在したんだ。
投入する硬貨は10円か100円。
100円硬貨を入れると例え数秒の通話でもおつりが返ってこないというアコギなやつ。
ただ、遠距離電話をするとなると10円では非常にテンポ良く「カチャン・カチャン」と「落ちて」いくので、かなりの枚数を事前に用意する必要がある。さすがにそれ程用意周到にはなれなかったので、私はよく100円硬貨を使用していた。
それは冬のとても寒い夜だった。
(さぁて、電話をかけに行ってこよ!)
小銭入れを携えて、20m程歩いたところに存在する公衆電話に足を運んだのです。
(さてと、100円硬貨を入れて・・・っと。)
100円を入れるつもりが、入れる瞬間にそれが10円硬貨であることに気がついた。しかし、勢いの方が上回ってしまい10円玉は中に「カチャン」と入ってしまった。
(いけね!)
…ところが、返却口から10円玉は帰ってこない。何ということだ。
10円玉はまんまと公衆電話に食べられてしまった。
(ま、しょうがない。間違えちまった私がいけないんだ。)
素直に「損失確定」し、今度はしっかりと100円玉を確認して挿入口に硬貨を運んだ。
そしたらどうしたことでしょう、力みすぎたのかその100円玉、途中で引っかかってしまったのである。何としても中に入って行かないのだ。
(やや!・・・困った!)
私は、もう一枚100円玉を用意して、詰まっている100円の上から押し込むように公衆電話の中へ詰め込んだ。
入りました。2枚とも。
合計で210円。
最初の10円は無効としても、200円分は通話で元をとりましょう。
そんな風に考えながら、受話器を耳に当てた。
「・・・」
「シーン」なのである。無反応なのである。
(おっかしいなぁ。。)
私は、受話器を置くスライド・バーを「ガチャンガチャン」と動かした。
それでも一向に事態は変わらない。
(ちょ、ちょっと!)
10円ならあきらめもつくけど、210円では泣けません。
私は公衆電話をゆさゆさ揺らした。
それでも状況に変化は見られない。
電話ボックスに記されている「故障時のお問合せ先」とかをみると、
「○○○までご連絡下さい」
とあった。
連絡しようにも、「連絡する手段」が壊れているんだってばさ!
誰か通行人に声をかけてみようかと思ったけど、人通りの少ない、しかも深夜。車すら通らない道路脇なのである。公衆電話も静かだが、辺りも静まり返っていた。
くっそぉーーーっ!
頭にきた私は、公衆電話にエルボを食らわした。
「210円、返せッ!」
ガッ!!
<ザシャーッ!>
異常事態が発生しました。
返却口に20枚以上の100円玉が落ちてきましたー。
同時に受話器は「ツー」と、『スタンバイ、OK』の音を鳴らし始めた。
(20枚以上が落ちてきて、尚且つ会話OKとな??)
不気味に思った私は、一旦受話器を置くことにした。
サイド・バーに受話器をかけて、「ガチャン」とやったところ、
<ザシャッ!>
と、これまた今度は10枚以上の100円玉が落ちてきた。
・・・。
その日、私は電話をかけることも無く、さっさと酒屋に行きました。