寝付けぬ夜の怪電波
中々寝付けない夜なんてのがありますよね。。
頭の中で色んなことが次から次へと姿を現し、それに囚われてしまうといよいよ眠れなくなっちゃうってあれです。
こういう時、外で雨でも降ってると結構眠れるもので(豪雨はべつね)、そんなこんなで「ゆらぎ」とか「α波」なんてのがもてはやされた一時期は「砂浜の波」とか「雨だれ」なんていう怪しいCDを購入してきては聴きながら眠りを誘導しようとしたことがありました。中でも「四万十川のせせらぎ」というCDが特にインパクトがあってね。ひたすらせせらいでいたですよ。
「その内、カエルの鳴き声とか、水鳥の鳴き声などが聞こえてくるんだろうか…」という私の期待を見事に裏切り、部屋の中をせせらいでいったですよ。
・・・
「10分経ったのだから、そろそろ何か別の聞こえてこないかなぁ…」、
・・・
「20分も経ったし、聞こえてこないかな…」、
・・・
「25分。まだかなっ?」、
・・・
「をいっ!」
待つこと30分。ライナー・ノーツは語っていたっけ。
『このCDに収められた大自然の息吹に触れることで、きっと貴方は四万十川の虜になることでしょう』うそだっ。
眠りに誘えるかどうかはさておき、「やすらぎ」・「癒し」をテーマにした照明器具というものも購入したことがありまして。
水の入っているタンクが半透明のボックスになっていて、そのボックスの下には電球が備え付けてあるやつ。下からそのライトを光らせると、透過光が部屋の天井に映し出され、水の動きに揺らぐ怪しげな文様が仰向けの私の眼前に展開されるのだ。加湿器が働き、ある一定のリズムで「コポン・コポン」とタンクから水が噴霧口に運ばれる。その振動でタンクの中の水が踊る。それをライトアップすると、反射した水の文様が更にゆらゆらと天井にリフレクションするのだ・・・が、落ち着くどころか気になって仕方ない。
このテのアイテムには怪しいものが実に多いという結論。
だからと言って、テレビじゃ見てしまうし、気に入ったCDでもかけようものなら聴き入ってしまう。となれば、「ラジオ」という選択肢が俄然脚光を浴びてくる。
ラジオで何を聞きながら子守唄にするか。
そんなこんなを考えながら、私はある日、ラジオで眠りにつこうと行動した。
FM放送という選択肢は、音楽の選択肢でもある。流れてる曲にバリバリに興味を示したら聴き入ってしまう。さりとて、全然つまんない音楽では子守唄にもなりゃしない。
ってなわけで、AMをかけてみることに。
民放も色々なチャンネルがあるが、眠ろうとしているときに盛り上がっているトークは邪魔なだけだ。チューニングのダイヤルを一生懸命に、かつ、静かに回し始めた。
いの一番に受信したのは我らがNHK。
ここは深夜ともなれば、「ラジオ深夜便」という、とてつもなく深夜便のコンテンツが襲ってくる。対象年齢がかなり高いところに設定しているのであろうか、懐かしの名曲のコーナーで、「白い花の咲く頃」とか、「サンフランシスコのチャイナタウン」とかいう気の遠くなりそうな大過去の曲が流れ始めてしまった。
時代が時代だったなら、FMのあの銘番組「ジェット・ストリーム」がお誂え向けであると確信する私にとって、このNHK様の選曲は更に20年以上昔へジェットストリームしてしまう。これではさすがに理解の限界を超越してしまった。
仕方なく、チューニングのダイヤルをまた回し始める。
次に登場したのはNHK教育放送だった。
釈迦の生涯のシリーズ、第3話である。
この上なく高尚なテーマである。
睡眠時の難解な内容は、睡眠誘発のオーソドックスな手法の一つであるらしい。
とりあえず、この番組に付き合うことにしてみた。数十分後には眠りの世界へいざなってくれるであろうコトを期待して。
聞いてしまいました。しっかりと。
釈迦は29歳の時に周りの反対を押し切り、髪を剃って城を出て修行生活に入ってしまう。そして6年間色々な苦行をおこなったが、苦行だけでは「悟り」は得られない事に気づき、苦行から離れてしまう。
勉強になりました。
(こういう内容は、寝ながら聞くのは失礼かもしれない・・・。)
NHKのレギュラー(総合第一)もイレギュラー(教育第二)もさすがに視聴率を取りに行かないだけあって、リスナーに媚びていない。ゴーイング・マイウェイだ。こういうのにツボにはまれば最高なんだけど、この時は私の眠りを誘導することが出来ず、あえなくMy選局対象外となってしまった。
はたと気がつけば、深夜も2時を回ろうとしている。
これではいかんと、早々にチューニングを切り替える。
ところが、民放のそれらは依然としてテンションが高く、いくらボリュームを低くしてもたまらないトークのオンパレードだった。皆、深夜なのに、元気で凄い。私は眠りたい。
…どうにもこうにも煮詰まってしまい、謎の放送局にたどり着いた。
北京放送。(だと思う)
スピーカーから聞こえてくるのは中国語のようだ。
「イ~サンスゥシィ…」
みたいな言葉のテンポで何やらドラマをやっているようである。しかし、私は中国語はまるでわからない。
まてよ、、。
判らないからこそ単語を音で捕らえてしまうのだから、返ってこの方が「聞き流す」にはうってつけかもしれない。
耳を傾けてみると、その番組の舞台は何処かの家の中でのやり取りであることが伺える。
男と女が何だか言い合っているではないか。
『ジャジャァーン!(効果音:サプライズ系)』
や! 何か不吉なことが起こったらしいぞ!
男:「レンホゥ、ティンピェイ…」
意味は分からんが、男が女に言い訳をしているようだ。
(言葉を理解できないので、カタカナ表記してある中国語は私が耳にした雰囲気です。)
『がたんっ!(効果音:席を立つ系)』
女:「シャオミェイ。」
何か、啖呵を切ったようだ。
『カッツ、コッツ、カッツ、コッツ…(効果音:歩いて去る系)』
男:「チュンホァ!」
男は呼び止めようとしているに違いない。しかし、
『バタンッ!(効果音:ドアを閉める系)』
行ってしまいました。
・・・(間)・・・
翁:「ルースーミェン…」」
男:「ホィコゥロゥ!」
おっと、ここに至るまで登場人物は男と女の二人だけかと思っていた。何処に潜んでいたのだ?謎の翁。
翁:「リィチ、ツモ、リャンペィコゥ、ドラドラ」
翁は諭すように、一言一言を噛み砕くように呟く
男:「パンダ!」
翁:「コアラ…」
男:「オォォォ・・・ウッウッ(泣き崩れる)」
どうも話は佳境に来ている。
とうとう盛り上がり系のBGMが流れてきたし。
…と思っていたら、受信の電波状態が悪いせいで、どうも他局の音声が紛れ込んできてしまったようだ。BGMと思っていたのは、実は他局のニュース番組か何かのオープニング・テーマだったと思われる。
翁と男の会話が続く中、何故かハングル語が割り込んできた。
ナレーター:「イボン!クルスムニヘ、ヨボニエン、コムタンチゲナベ!」
ちなみに私はハングル語もわからない。
翁:「チンジャオロゥスゥ」
ナレーター:「カムサムニダ」
男:「リンリン」
混信極まりない。
とにかく言葉がわかんないんだから、ひたすら想像の世界だ。映像無いし。
想像するのは楽しいけれど、ここまで混迷を極めるといい加減億劫になって、とうとう眠りにつくことが出来た。
これ、結構いいかもしれない。。