夢を見た(彼女の家にお見舞いに)
惜しい夢を見た。
僕は彼女が寝ているベッドの脇に置かれた椅子に座って、彼女の様子を眺めていた。
彼女は、熱があるせいか顔が紅潮してボーっとしているけど、意識して普通な振りをしようとしている。けなげでキュン。
実は今朝、僕が学校に行った時、彼女が風邪で今日は学校を休むということを担任から聞いたんだけど、その時に、明日までに提出しなければならないプリントを渡す必要があるから、隣の席のよしみでお前が彼女の家にこれを持て行ってくれと言われたのだ。
もちろん、このオーダーは僕にとっては願ってもないチャンスだった。
先日、席替えでたまたま彼女が僕の隣の席にやってきた。もちろん、前から気になっていた子だし、当然のことながら声をかける勇気も持ち合わせていなかった僕だ。今回の席替えは天が僕に与えてくれたご褒美のようだと思っていた。
折しも衣替えで生徒は皆夏服に変わったばかり。夏服というのは、不思議と異性を意識することに開放感をプラスしてくれる。
さぁ、声をかける土壌は整った。と思いながらも、中々きっかけを見つけることが出来ず、いたずらに何日かを過ごしてしまっていた。きっかけなんて、自分で作れよ。
そういう中での今回の案件である。
浮足立つ感情を押し殺して、さも面倒くさそうな態度を演じ、学校が退けるや、件のプリントを携え地図を頼りに全力疾走でここ、彼女宅にやってきた。
玄関でピンポンすると、奥の方から彼女のお母さんと思しき方の「はーい」という声が聞こえてきた。「こんにちは」の挨拶もそぞろに、伺った要件を手短に話すと、家に上がるように促され、ラッキーなことに彼女の部屋に通してもらうことに。(ふつう、こんな無警戒なお宅はありませんな)
彼女の部屋は2階。そこはまさに女の子の部屋といった感じで、全体的にピンクの色調をベースに、ところどころイチゴやらチョコレートのアイテムがちりばめられているような、そんな柔らかさがある。この空間に僕がいる。なんてパラダイスなんだ。
開け放たれた窓から吹き込んでくるそよ風が、初夏独特のさわやかさを伴っている。
どう切り出したらよいのかさっぱりイメージが湧かず、とは言え黙っているわけにもいかない。
「…体調は、どう?」
渾身の一言だ!
これ以上ベストな言葉はどこを探してもあるまい。
「心配ないよ、…大丈夫だと思うな。」
「あ、あの…」
舞い上がっている、舞い上がっているぞ僕は!!
熱があるのは実は僕の方じゃないのか?
で、眼が覚めた。
ここから大事なところだというのにトイレで目が覚めた。
誰か思春期のかけらでいいから分けておくれ。