ホカロン
疲れた身体を引きずって電車に乗ったら、ラッキーなことに一人分だけ座席が空いていた。
(よっしゃー!)
と、そこに行ったら、シートの上に使用済みホカロンが一つ置かれてた。
(これって、座席キープじゃないよね?)と思いつつも、そのホカロンをずらして座ろうかどうか悩んでいるうちに横から小太りなおばちゃんがやってきて「さっ」とホカロンをどかして「ぎゅっ」と座ってしまった。
手際の良さというか、行動力に舌を巻く。うーむ。
ってか、そもそものホカロンの持ち主のことが気になる。
仮に、自分が座っていて、その隣に奇麗なOLさんが座っていたとして(大体、そういう仮定自体が歪んでいるが)、駅に着いてOLさんが立ち上がったとき、「ぽろり」とホカロンが落ちたとしましょう。
この時、「落ちましたよ」と声をかけることができるだろうか?
ハンカチだったら、するとは思う。しかしそれはホカロンだ。
ホカロンというのはやや秘密性を内包するアイテムであり、それだけに取扱いには注意を要する。
間違いなく本人のものだとしても、「いいえ、違います!」などと怒られちゃったりしないだろうか?
親切が仇になっちゃいはしないだろうか?
そんな事情は知りもせず、ホカロンはユーザー様に尽くしていたことは間違いあるまい。
…哀れホカロン。
同情の昼下がり。