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フォークストン駅の銃撃戦

駅長がロッカーに閉じ込められ、アウトローが機関車を待つ。煤けた風が砂を運び、屋上の貯水タンクから染み出した水が床に滴る。太陽は赤く、今日もまた血が流れた暗示を不吉に照らす。太陽は月と出会い、夜の揺り籠が流れた血を受け止める時刻。

煩い蝿を銃身の中に閉じ込め、羽音を聴きながら男は機関車を待つ。男達はーー武装している。ライフル、リボルバー、コート下には予備弾薬を詰めたベルト。レバーアクションライフルに、ベルトから抜いた弾が込められる。

煩い暑さの中、機関車はやってきた。男達は立ち上がり、駅に待つ。列車に乗るわけではない。乗客が男達を見ていた。高貴さを感じさせる瞳に、軍人のような瞳、向こうも、こちらも武装がある。列車の中と外、だが違いがある。

男達にはーー『牙』がない。

駅の待合所から壁を貫き乱れ撃ったのは、ガトリングガンの連発音!ドーナツのような穴の空いた弾倉からは銀弾が落とされ列車の薄い壁を易々、兎の皮のように射抜く。

ダン、ダン、ダン、ダン、ダン!

規則正しく弾詰まりさせず回されるハンドルにリズミカルに黒色火薬の破裂音。

だがそんな簡単に全滅させられる敵ではないーー吸血鬼なのだ。黒色火薬の白い闇の中で、騎馬に乗っているわけでもなく時代錯誤なサーベルを構えるヴァンパイアの抜剣兵が腕の筋肉骨を盾に男達を切り刻んだ。列車からも撃たれ、たちまちのうちに駅は戦場とかす!

銀弾が飛び、血飛沫と灰と崩れたヴァンパイアが飛び交う!

銃剣がヴァンパイアの鋼鉄よりも硬く長い爪と火花を散らし滑る一方で、リボルバーを両手に持つヴァンパイアが飛び跳ねる姿をガトリングガンが追えず腰のサーベルが抜かれる。

くすんだ太陽を血風が影し、血が満ちたる。

駅長のフィッシュハートは職場を戦場に変えた連中を、狭いロッカーの隙間から見ていた。影が染め走る姿、擲弾の破裂と銀の破片が無数全周に飛ぶのを身を異常に捻り躱すヴァンパイア、ヴァンパイアをボルトで撃ち抜きチェーンで拘束するアウトロー。

「アイゼンファウスト家に盾突くとはな、恩知らずのダンピールども!」

将軍のように着飾ったヴァンパイアが大きく首を丸ごと噛めるほど、大きく開き叫ぶ。ダンピール、人間と吸血鬼、両方の血を流す混血。アウトローはダンピールだった。

その時、全ての闘争を中断させる、そしてそれがフィッシュハートには何故なのかわからない事態が起きる。ヴァンパイアとダンピールの銃撃戦の最中、固く閉ざされていた客車が突如開け放たれ、中からはあまりにも美しい姫のような、恐らくはヴァンパイアが現れた。荒野にはあまりにも不釣り合いな美しい、しかし毒花が香る。

成り行きを見守っていただけのはずのフィッシュハートの手にはいつのまにか猟銃が握られ、全ての弾を銀弾に変えさせた。

「花嫁殿の御目通りか」

ダンピールが決して、決して銃口を下げることなく、だが先程までヴァンパイアとの戦いの最中でも乱さなかった心臓が早鐘に変わるのを聞く。

「円卓の評議員だけだと聞いていたが……」

花嫁、と呼ばれるアイゼンファウスト家の者はただ一人、ルシアーナという乙女だ。フィッシュハートも何度か見たことがある。とても冷たい女性で、機関車のスチームエンジンも熱にうなされ永遠の眠りにつく機械破壊者。

「騒がしいと思えば雑種が吠えているのか」

ルシアーナ……噂では魔女、そして溶融の魔女と呼ばれる。ダンピールの全ての銃器武器がルシアーナに睨まれ、グズグズのスラッグに変わった。流れた鉄に手を体を焼かれ、しかしダンピールは顔色を変えず、骨まで達していても苦痛で呻くことはない。傷は既に再生していた。

「っ!」

ダンピールの一人が、コート下に隠しルシアーナの視線から逃れたリボルバーを抜くなり六発全てを瞬き一回とかからず全て撃ち込む!だがそれは溶かされ、ルシアーナの肌を雨粒のように、焦がしもせずに、ただ流れていく。

「まったく、顔にかけるとは下品な」

苦しみ、熱さにも顔色を変えなかった筈のダンピールの半数が苦悶し、口からは何か、溶けた肉塊のようなものを吐き出し倒れ伏した。


肉が焦げるような腐ったような、あれはダンピールの溶けた肉塊であり内臓だ!

ダンピールにはとても勝ち目がない、ただ一人の花嫁、ルシアーナのひと睨みですでに負けている。フィッシュハートが怪物に歯を鳴らし、ルシアーナと目があい、あるいは心臓が止まりかけるほど息を潜めていても聞かれたか。

ルシアーナは死にかけたダンピールを前に、呆れた声を漏らし興味を失ったのであろう。穴だらけの客車に帰り、窓から「行くわよ」とだけ先を促す。

「よかったわね、銀兵器がなくて。吸血鬼は銀で死ぬもの、殺すものよ」

機関車が白煙を数度吐き、ゆっくりとレールを加速し、次の駅へと消えていった。

死したヴァンパイアとダンピールの灰は風に流され、血のひとしずくも残さず攫われていく。残されたのは弾痕、破壊された駅、だが……そこにいた者は何も残されず消えた。まるで霞と幻であったかのように、しかしフィッシュハートの感じたものが全てだ。それはいたのだ、あったのだ。アウトローのダンピールもどこかへと去り、フィッシュハートだけが残された。銃を抱えて、ぎぃぎぃと響くロッカーを開けてみてもやはりそこには、嵐が吹き抜けた……たったそれだけというには大きすぎる爪痕だけが残り、残ってはいなかった。


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