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ネクロダイド会戦

ーー弟は。

ラムス王朝執行皇帝ハクライである。つまりは、タルジオン帝国最高権威と権力を賜る天上支配者……で、あるが長兄リハランの我が身は士官学校出の平民であり、血筋では王家であるが立場は産まれながらの貴族家臣以下である。それで良いと考えている。この身は決して、皇帝家としての血以上を見せてはならず、その血も表に出さぬ。権威は割られてはならぬ、それを徹底した。

我が弟達、皇帝権を喪い、我が身と同じく落とされた弟達は叛乱を引き起こした。帝国を裂き、自らの領土を切り取り小皇帝として成る為に。我が身は……皇帝たる弟についた。いかな身とはいえ、我が身は『タルジオンの血の者』であり刃向けるのであれば弟といえどこれを斬らねばならぬ。

現皇帝ハクライが率いる隻数六〇万。叛乱軍隻数八〇万。平面宇宙を透過する重力波からの推測では、我が身の寄る帝国軍は劣勢であった。

平らな宇宙、広大な宇宙空間を二次元状に変形させた空間では立体的な機動はできず紙の上で動けるものが全て。箱庭の小さき宇宙なれど、この領域が宇宙を縮尺したものである。平面宇宙の進む距離は比例せず現実宇宙と繋がり、今まさにこれは全宇宙を巻き込んでいる艦隊戦と言って過言ではない。

平面に立体が存在などできない、各艦は泡宇宙で自らを包み圧壊から身を守る。平面宇宙での死は熾烈である。艦の防御磁場が崩壊し、平衡を失った泡宇宙中心の艦からプラズマジェットを噴射し圧壊、まず助かることはない。勝利か死か。

我が身は突撃艦隊として、艦隊各艦と境界融合し巨大な泡宇宙を形成、叛乱軍前衛も同様でありじわじわとにじりよりながら、宇宙と宇宙が融合する重力波が発する。

我が口から、超近接戦にしか役に立たぬ、しかし一撃で有人惑星をしかし死に変えるプロトンビーム主砲を命じる。すでに敵は泡宇宙境界面を連結しており、荘厳であり、ロッシュ限界で小型艦を引き裂く大質量が我が身の宇宙に侵入しておるのが見える。我が身、巡洋艦ティパーが先制したプロトンビームは敵巡洋艦の多層防御磁場を貫き、分厚い装甲に直撃、対消滅反応の一方で鉄よりも遥かに重い原子が作られるエネルギーが巨大な重力波と波紋する。一撃では沈まず、それはそびえ続け、次弾チャージの間に反撃がくる。衝撃、中和装置でも消せない運動エネルギーが構造を引き裂かんと荒れ狂う。だが星の一や二を殺すごときで沈むものか。

全力砲撃戦、あらゆる火器が開き小さな瞬きが雨の如く飛び交う。単極子散弾が自己崩壊と強反発で空間に攻撃的な網をかけ、対艦反応弾が重々しくブースターに火をつけ、砲術管制奴隷の合図で砲門を開くと同時にレーザーランスがプラズマ雲を砲煙に泡宇宙内を切り裂く。正面から殴り合い、シールドが局地的に結晶化すれば装甲板は次々と削られる。しかし質量の半分以上を装甲であるのが戦艦なのである。

我が身は不器用である。機動戦のように、一方で防ぎ迂回しつつ誘引、罠に嵌める知能はない。耐え忍び、押し出し、敵を潰す。より単純な戦いが最も理解しやすく、戦力維持に必要なもの、限界は感覚的に理解する。世の天才にはない愚かな戦いであろう。

敵艦の艦長の癖は掴んだ。焦り攻撃一辺倒である、プロトンビームのチャージが完了次第撃つ。我が身は発射タイミングに合わせチャージサイクルと防御磁場の出力調整を組んだ。敵艦がプロトンビームを撃ちこれを酷く弱体化させ、こちらはエネルギーダウンしている敵艦にプロトンビームを撃ち込む。

我が身は不器用であるが、敵艦の磁場強度が低下しつつある。我が身の影に隠れた従者船団、武装商船で構成された艦隊を出し、弱体化した敵艦を我が宇宙へと引きずりこむ。逆進を選びエネルギー配分を誤った敵艦はプロトンビームのチャージを乱し、我が身から放たれるプロトンビームの直撃弾を喰らう。

削岩された装甲を貫き動力炉を貫通された敵艦は、小太陽を封じる磁場が崩れ開いた穴からジェットが艦体を突き破り噴き出す。プラズマの超高温が暴走し、焼き、蒸発しながら爆発を起こすと泡宇宙を維持する力を失い空間は圧壊を始める。我が身の泡宇宙に、圧壊した泡宇宙からの吹き込みが装甲を刻もうとする。

平面宇宙の恐ろしさは艦隊規模の泡宇宙の維持は難しく、一隻の轟沈が下手をすると連鎖圧壊で全艦が破壊される可能性があることである。

圧壊と泡宇宙消滅の重力波に臆した叛乱軍最前衛は、独自判断で境界面を分離させる。巨大な一つが、バラバラと無秩序に崩れていくのは愚かである。哀れなのは高い士気をもつ、あるいは戦闘に盲目的な艦から連鎖圧壊に対応できず潰れていく。前衛艦隊の一つを撃破、しかし我が身はまったく嬉しくない。

劇的な物語が全ての戦いにあるわけではない。ネクロダイド会戦は極めて大規模な会戦であり、帝国の運命を決めるものであったが、奇策によらず撃ち合い、策を絞り、叛乱軍は自壊した。騎兵艦隊が敵泡宇宙を串刺し、従者艦隊となった武装商船団が正規艦の影で使命をまっとうしただけの偉大な勝利、それだけであるが、しかし我が身にはタルジオンの血の勝利として刻む。

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