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オールト雲の戦い

彗星達の眠る宙域で最初の決戦が、戦団長アフリカヌスの決断的行動により準備された。太陽系防衛線の先鋒である重力波ピケット分艦隊が、高速で侵入する非自然物体の発する重力波を捉えたことであらゆる宇宙港から、戦闘艦隊が集められた。

過剰ともいえる反応はしかし、かつて地球軌道まで侵略された地球人類にとっては平常である。

太陽系外縁に最初に到達したのは、プルートベースより出港した戦闘艦隊アンドルフ。そして、最初に触接した地球人類である。


戦闘艦隊アンドルフの二〇隻のマーズ級巡察艦は高速データリンクにより、ほぼ同時に敵艦隊を捕捉していた。艦隊統合型光学システムが画像処理し現れたそれは、間違いなく地球人類軍の艦隊だ。戦闘艦隊アフラ、シリウスで消息を絶った艦隊。だがしかしそれは明らかに偽装されていることを、戦闘艦隊アンドルフ各艦は正確に見抜いていた。

切り刻まれた装甲を貼り合わせ、醜い巨体を隠すそれはスペースビーストの腫瘍のような肉塊。

誰何は問わぬ、射程に入り次第戦闘艦隊アンドルフは全力斉射でスペースビーストの浸透艦隊を迎え撃った。

剥がれ着られた相転移装甲に電力が触手のような血管から供給され、相転移した分子が艦隊砲撃を弾く。蒸発することも、衝撃で割られることもない相転移装甲技術は不幸にもスペースビーストに使われてこそ高い効果を発揮する。

スペースビーストの反撃は熾烈だ。小型有機艦群が塔のような管、着る装甲の隙間から蝿の群れの如く射出され宇宙を黒く染め、襲いかかる。爪と牙、酸が装甲へと食い込み、シールドを張ろうとも小型有機艦は文字通り全霊を焼いての放電でシステムを飽和させんと吸いつく。

最初に轟沈したのは、戦闘艦隊アンドルフで最も強大な砲火を浴びせていた旗艦マグランだった。幾万もの蛸の如き生体艦にシールドへ直接取り付かれ、視界の一面が破滅的な猛砲火でも全滅させられなかった時、シールドは落ち、瞬間、荘厳なマグランのデッキには無数の小型艦が直接抉りこみ、装甲を噛み砕き艦内へと侵入を果たした。鋭い白兵戦、艦内戦闘は巨人よりなお巨大な怪物であり、勇敢なマグラン戦闘要員は最後の一兵に至るまで立ち向かい、遂には艦と運命を共に轟沈した。

開いた死角を埋める間もなく、小型生体艦の群れが決壊した堤防に流れ込む濁流の如く迫る。堰き止めるものなど何もない。切り刻まれ、艦内のあらゆる生命が微生物の一匹に至るまで捕食され尽くした時、戦闘艦隊アンドルフの残骸だけが虚空を漂う。

前哨戦を制したソレはいまだ飢えを満たされず、有人惑星へと首先を回し航宙を再開。だが戦闘艦隊アンドルフの英雄的犠牲が稼いだ時間で防衛線を築いた戦団長アフリカヌスの防衛艦隊が痛烈な一斉砲撃で迎え撃つ。


一方的な砲撃は三日間も続いた。宇宙には肉片と胞子状物体が満ち、防衛艦隊の破壊的なレーザーランスの猛火を減衰させ始めた時、突如としてバイオシップのキチン質の外骨格ではない、人類由来技術の装甲鉄塊が打ち出される。それは幾千もの装甲を醜く溶接し、小惑星以上の巨大にしたものであり、レーザーが減衰する中で防衛艦隊の一斉砲撃を物ともせずに突破、轢き潰した。

防衛線は濡れた紙のように引き裂かれ、かつてない規模の小型生体艦群が押し寄せる。数万単位で突き進むそれは、例え数千個体が屍を晒そうとも、慣性だけで戦艦の装甲へ質量攻撃する恐ろしい精神性に支配されていた。自爆特攻攻撃とも言える激烈な攻撃には流石の歴戦防衛艦隊も耐えきれず後退を始めるが、下がれる筈がない。

何故、自らより速い存在から逃げれる?

鋼鉄よりも遥かに頑強なキチン質の大質量であるティラノシップの突撃に艦体は砕け散り、フジツボのような口をもつハイブスローンがいかな巨艦の分厚い装甲をも食い破り、内部から捕食した。戦団長アフリカヌスと護衛は、照明が死んだ艦橋で火炎放射器の猛火に照らされながらサイススピッターの大群に包囲され、全身をバラバラに引き裂かれ死んだ。


我々は敗北したのだ。通路を走る悍ましい獣の足音が聞こえる。鉤爪がかけられる音が、貪られる肉片と骨、啜られる脳と臓器の音が。逃げられる場所などもはや手遅れなのだ。聞こえる。奴らが来る。

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