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風車革命

星が巡り、月が巡り、陽が巡り、したらば栄光が斜陽と消えるは必然であり、冬の風に色を奪われよう。


実り垂れた穂が消えた凍る大地を踏み砕くのは軍靴ではなく、只の靴であり足音は革命の音であるが、革命とは、反乱以上でも以下でもない。だが多くの人民は、王家打倒、新世界樹立の夢に酔いしれ、照星の定まらない銃口で敵を撃つ。


鉄林林立する歩く森は王都にて銀弾の剪定を受けるが、この歩く林は剪定者を喰い殺す為に来たのだ。


音楽家が、鍛冶屋が、画家が、詩人が、司令官として徴集兵を指揮し、革命の熱で王家を、キングダムという歪んだ冷めた鉄を正さんと起こしたのが、王国解体戦争だった。


「強く新しいユーコンの為に!」


知らぬものを革新であると思い違うは若さであり、若さゆえの盲信に当てられた熱風邪の者共により王都の街道という街道はバリケードで封鎖され、キングダム正規軍と革命軍の衝突する戦場と化していた。


あらゆる建物には武装した兵士が詰め、震える住民を脇に追いやり、窓硝子を割っては上に下に銀弾の風が荒れる。


革命という、自らの手が王国を変えるという美酒が革命軍をどこまでも酔わせ、精強なキングダムガードと銃火を交わさせた。技能は未熟、覚悟もいっときの熱意のみ、体力もなく、痛みに耐性がなければ、生き残る手段を何一つ持ち得ない革命軍が唯一つ、その身に持つものがあるとすればそれは、


「革命を!市民が国家を担う最後のチャンスだぞ!」


向日葵畑の花に手を伸ばせる場所に立っているのだ、手を伸ばせば届く場所に、見えている、触れている目の前に、例えそれが血塗られる地獄の底であったとしても眼前の夢に抗えるわけがない。


それは、数百年、千年の悲願なのだ。






(略)






王都義勇市民軍、向日葵連隊の連隊旗が翻り、革命軍第一連隊を自称する暴徒の前に立ち塞がる。


義勇市民軍の装備は、正式小銃であるベリルではなく、猟銃がその主力だ。だが彼らは日頃から猟銃を撃つ熟練の猟師であり、戦時の選抜射手であり、射撃の技術、この一点においては大陸軍最精鋭と肩を並べられ、また一部は凌駕している程の猛者衆であった。


「王都に血を振り撒く酔いどれの大馬鹿連中の目を覚ませてやれ!」


向日葵連隊連隊長ミレが指揮剣を振り回し、くたびれた軍帽とマントがトレードマークである連隊の息子達の尻を、敵である革命軍以上に叩いてまわった。ミレの怒りの炎は冷たく、しかし激しすぎるまでに燃え上がっており、思想が肥え太りすぎ、頭を垂れた稲穂のような革命軍諸兄を刈り取るには鋭い農具として暴風する。


四本柱の議事堂前での戦いは、武器保管庫からベリル、そして充分な数の機動砲である軽量臼砲が革命軍によって多数投じられ、連隊防御魔術である対砲爆結界に青の閃光を波打たせ続けていた。


革命軍臨時砲兵は練度不足により、射撃間隔こそ間延びしていたが、数を投じることにより連隊付結界魔術師達の疲弊を確実に蓄積させ続けていた。一手の妙策よりも、十手の物量が凌駕しうるものであり、向日葵連隊は鉄壁の意思を持ってはいても、無敵であり不死身の勇者とは違うのだ。


「障壁展開交代!急げ、そして間断なく、乱れは私達を議事堂の瓦礫と運命を共にさせるぞ」


痺れを切らせた革命軍青年兵が、私服にベリルと軍帽で、しかしもっとも頼りにされるべきベリルはスリングで背中に回し、両手で擲弾を抱えて四本柱の議事堂前を走ってきた。


ミレは一切の躊躇いなく、リボルバーで、一撃で、青年の眉間を撃ち抜き、散る脳漿と頭蓋の破片に石畳へと引き倒された革命軍兵士には、同じ革命軍からまるで勇者のように拍手と称賛が舞いあげられた。






(略)






燻る煙の中で、革命軍が四本柱の議事堂に突撃してくるのが聞こえた。だが、煙を吸わぬよう口を覆う向日葵連隊諸兄にはそれが見えない。白い闇の中で、時折耳元を過ぎる銀弾の羽音、どかどかと石畳を踏み鳴らす雑多な靴の足音だけで、何も見えなかった。


「持ち場を離れるな、乱戦になる。私の息子達、勇気と共に、自身の持ち場を守ることだけに集中するのだ」


果たして、向日葵連隊の築いた陣地に革命軍が乗り込んだ。サーベルと怒号、拳銃が撃たれ、原始時代から続く棍棒による殴り合いと何ら変わることのない獰猛な近接白兵戦だ。


血人形に沈む敵か、味方かわからない肉塊を踏み、銃床が幾度となく馬乗りになった相手の顔を打ち、打ち、打ち、頭蓋が陥没し、体液か脳漿か鼻水か涙かさえもわからないものが糞尿を垂れ流すそれと混じり、弾けた頭部からは中身が撒き散らされた。


白い闇の中で、渇き飢えつづける石畳が強欲に血肉を飲んでいる。






(略)






王都の各地では、銃撃戦よりも寧ろ、ベリルを短槍に格闘戦が多発した。火薬の火器の時代に、全時代の冷器であり刀槍による雌雄が決せられる奇妙な戦場の様相を描かれていたのだ。


王都守備隊第一一大隊の中隊長は、頭上から降らされた花瓶で頭蓋をカチ割られ戦死し、同大隊の士官や兵士は銀弾に貫かれ、砲断片に切り裂かれるよりも、投石や棍棒での鏖殺が横行していた。


組み付かれた指が眼球を押し破り、人間の、人間の犬歯が首を喰い千切り、首を絞める指は力が入り喉を裂き首の骨に親指が挟まれる……狂気が蔓延していた。


「躊躇うな!市民と思うな!アレは敵であり、獣に落ちた悪魔と思えば引き鉄は軽い!」


人海の波は、僅かな防波堤を飲み込んでは触れた全てを引き裂いた。革命軍の大半は統率らしい統率はなく、しかし、しかし、巨大な、何か悍ましい集合意識に突き動かされるような、あるいは昆虫の群れのような、群れとしての原始的な、そして完成された動きと流れで王都の白い街並みに流れ込んでいた。


革命軍、あるいはそれは獣の群れに包囲された白鴉の銃士、傭兵隊はアパートメントに押し込められ身動きがとれなくなっていた。


白鴉の銃士を指揮していたのは、メドべ人傭兵隊隊長スートラだが、彼らに与えられた任務は王都各所の破られた陣地の火消しだった。しかし彼らは革命軍の波濤に逆に包囲され、撤退を続け、遂にはアパートメントの中へと最後の抵抗戦を始めていた。






(略)






ガリバー砲が躊躇いなく火を吹き、散弾を群衆に撃ち込んだ。糸を断たれた人形のように薙ぎ倒された大通りいっぱいの市民戦列は血風に沈んだが、血溜まりの肉塊を踏み越え、あるいは先頭を肉盾に後列が間合いを詰めてくる。


「次弾装填急げ!奴らはもう目の前だぞ!」


王立砲学院の白髪混じりの教官が、学生を引き連れ戦列に参加していたが、学生の動きは遅々進まず、革命軍の狂気に当てられ手元が震える者が大多数の有り様であった。


死兵は死そのものであり、死を理性を保ったまま見つめるには、新兵未満である学生諸兄の心にはあまりにも過酷な現実の一角すぎたのだ。


通りの反対では、立て籠もっていたキングダムガーズメンの一隊が切り刻まれ、窓から通りへと捨てられ、石畳に叩きつけられ果実のように潰れ染みた。






(略)






王都が燃えていた。風に運ばれる喧騒と硝煙には、肉が焼ける臭いが混じっていた。王都へ続く青草と整備された道の美しい続きは、大軍が踏んでいく泥と重量で砕かれ、血が引かれ汚れきっていた。


第八旅団を引き連れ駆けつけたネルブ旅団長は、「これがあの王都か」と驚愕を隠せなかった。


澄ませた耳に届くのは悲鳴と、怒声と、狂気に満ちた音叉の混じる戦場音楽の伴奏コーラス付で。


王都守備隊の数少ない生存者を救出しながら、第八旅団の各中隊は各所の革命軍部隊を打ち砕き、逃走を許さず撃滅してまわった。


太陽も流れた血を飲み干した赤い陽に差された王都は赤く染まり、革命軍主力は王都攻略と、王家一族を断頭台で処刑することを諦め戦線を下げた。


王都攻防は、無数の血山血河を作り出しここに終結を見たが、それは、キングダムの長い内乱の夜、その序章でしかなかった。

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