赤い本
「――てことが昨日あったんだけど」
「そのフランさんだっけ? 暇だったんじゃないの」
昨日の出来事を話すためだけに私は朝、鍛冶屋に立ち寄った。ウィルは私の話を聞きながら剣を磨いている。どうやらお客さんに頼まれて親方が作ったのものを磨きながら店番をしているらしい。比較的時間に余裕がありそうな時間にきてよかったようだ。
剣は私の片腕くらいの長さで、刀身も細めのつくりをしている。柄の辺りには爪くらいの大きさで、濁ったオレンジ色の丸い石が埋まっている。装飾が華美でないところを見ると、儀式用ではなく実戦用なのかもしれない。
「その剣って、お客さんからの注文品なの?」
「うん。剣っていうけど小さいし、斬りかかるものじゃないらしい。親方曰く、剣よりも石が重要なんだって」
「濁っている色だし、そんな高くていいものには見えないけどね」
石が重要というのならば、指輪にして相手を殴ってしまえばいいのでは? と思ってしまうあたり、私の思考回路が安直な気がする。剣の形をしている以上、形と石が組み合わさって意味を成しているのかもしれないけど。
「ウィル、今磨いている剣持ってこっちにこい」
「わかりました。 ――あ、ハルカ。そこの赤い本見ながら待ってて」
親方に声を掛けられたので、ウィルは部屋の奥に下がっていった。
私の目の前にあるのは昨日の赤い本だ。職業一覧の本だが、この高そうな本がどうして鍛冶屋にあるのかよくわからない。フィラムはもらったと言っていたけど、間違いなく価値は高いはずだ。
パラパラと中のページを捲っていると、フランさんの職業の職業案内士のページが目に留まった。職業の説明が書いてあるのだが、「迷える者を導きし、灯火~案内士~」とタイトルが書かれている。前のページと見比べるとタイトル部には単に職業名が書かれているだけなのにこのページだけ、何か怪しい。「時に闇となり光となり―」「本の虫、いや職の虫とも言える―」「導き手として―」など怪しい単語が並んでいる。要約すると、職に関する知識を持ち、職業を案内するという職業名称とほぼ変わらないことが大げさに書かれていた。フランさんってこの謳い文句に惹かれて職業案内士になったのだろうか。いや、この本ができる前からフランさんは職業案内士だったから違うはずだ。あと考えられるのは、この本の作成にフランさんがかかわっているかもしれないということだ。
このページだけやる気に満ち溢れていると言ったらいいか、あからさまな罠が張っているかのように見えるかどちらにも見える。この小説の作者の本当に言いたかったことは何でしょうか? そう問われたとしても正解者がほぼゼロに等しいのではないだろうか。中身の書き方はかっこいいが、受けれる保証に関してはあまり書かれておらず、少しハズレの職業のような気がしてならない。