ボロボロさん2
「御嬢さん。どっかで見たことあるけど、気のせいかな。僕の名前はフランっていうんだけど」
「フランさん……。私は最近、家と鍛冶屋くらいしか行ってないから、人違いじゃないですか? 」
「うーん。僕は武闘派でもないし、鍛冶屋には行かないから人違いかもしれないね」
こんなボロボロのお兄さんに見覚えがあったら、忘れないと思うんだけど。若いのに、こんなにボロボロになるって何があったらこうなってしまうのだろうか。肌や洋服は綺麗でボロボロになってないあたりを見ると、ここ数日でボロボロになってしまったのかもしれない。こんなにボロボロばかり言っていたら、間違えてボロボロさんって呼んでしまいそうだ。
「誰の紹介で来たんだい? 案内所のことはまだ有名じゃないと思うんだけど」
「鍛冶屋の親方の娘さんに教えてもらってきました」
「なるほど。鍛冶屋か……弟子になれなかったから来た感じ?」
「鍛冶をするつもりはありません。私はぬいぐるみを作りながら細々と生活したいんです」
「ぬいぐるみ……ねぇ」
フランさんは、手を顎に当て、斜め上を見上げた。手に付けているブレスレットのようなものについている宝石がこちらに見える。片目を閉じ、少しだけ渋そうな顔をしている。
値踏みされているような、うさんくさいものにあったような顔をしている。ボロボロになるまで従順に職業に従事している人だから、正直に話してもいいかなと思ったが、逆だったらしい。仕事には厳しい人のようだ。
「そんなおいしい話あると思う? あったとしても何か失ってようやく就ける仕事だと思うよ」
「わかってますよ。今私のできることで最善の策を考えたくて案内所に来たんですよ」
「うーん」
真面目に考えてくれているとは思うのだが、どうもふわっとした感じが抜け切れないように感じる。掴みどころがないというのか。
私の前に立ちはだかるのは職場の環境がよろしくなさそうな(個人的な意見なので本当は違う可能性もある)人だった。自分と同じ境遇に置かれないと満足しないのか。そうだよね、紹介している自分よりもいい環境の職だったらなんか悔しいよね。
「ぬいぐるみにどれくらい賭けられる?」
私が不真面目に考えているのとは対照的に、フランさんの声は真面目なトーンだった。静かだけれども、どこか怖い――大きな海原に独り残された時のような不安を感じた。
私のこれからすべてをぬいぐるみにかけてもいいのだろうか。最初に言ったようにぬいぐるみを作りながら、何か仕事をしていくと答えるべきか。
私の全てって――そもそも……。