職さがし3
「今、ごたごたし始めているから約束しといたほうがいいよ?」
「約束? でも親方は、弟子は取らないって――」
「違うよー。ウィルのお・よ・め・さ・ん」
「え?」
「はあああ?」
私の反応よりも強く、前にいたウィルが反応している。そんなに慌てるものかなと思うけど。年齢的に若干早くないかなと思ったが、そうか、嫁いでしまえばガンガン稼がなくてもいいってことか。
ちらっとウィルを見るとこちらの顔を少し見て目を逸らした。
「お父さんウィルは将来、いい鍛治屋になれるって言ってたよ。お金もいっぱい稼げるようになると思うよ。ウィルも髪さえ切ればそこそこだし、約束しちゃえばいいじゃん」
「やめろって」
フィラムはウィルの前髪を上に引っ張った。おでこが見えるのが嫌なのか、ウィルはフィラムに噛み付きそうな勢いで嫌がっている。目の前の二人が仲好さそうな様子を見ていたら、親方の跡継ぎの件も考えてフィラムとウィルが結婚してしまえばいいのではないかなと思うけど。
「結婚うんぬんはまだ早いじゃないかな……。それより私の職探しの方が先だと思う」
「そっか……」
フィラムは残念そうだが、私は今は、それどころではない。
「そうだ、ウィルに今度頼みたいことがあるから頼んでもいい?」
「お、おう。任せておけ」
親方に頼むよりも、ウィルに頼んだ方が彼の経験になる。頼むのもほぼ針ばかりなので今度はピンでも頼んでおこうかと思う。針よりも難しいだろうし、ウィルに嫌がられそうな気がする。でもウィルの事だから、難しいとは一言も言わないと思う。優しいというか、お人よしというか。
私がずっとウィルの事を見ていたので顔を逸らされてしまった。ごめんね、先に心の中で謝っておくから。
「ハルカ、仕事決まってないんだったら、一度職業案内所言ってみたらどうかな? これもらったから、職に詳しいと思うよ」
「何それ」
フィラムは一枚の紙と分厚い本を持ってきた。赤色の布でできた表紙に金色の文字が刺繍してある。職種一覧と書かれているが、この本に入りきるだけの職しか国に認められていないのか。いや、分厚さを見る感じだと、町で人気のカツサンドよりも厚いので、こんなに職がありそうだと喜ぶべきなのか……。
「最近できたばかりのところらしいよ。資格が必要な仕事がたくさんあるから、その仕事を紹介してくれるところらしい」
紙には職業案内所が出来たことを知らせる文章と場所が書いてある。町の中の真ん中あたりにあるらしいけど、そんな場所空いていただろうか。立地的にもいいのに職業案内所なんて置いてしまっていいのだろうか。少しうさんくさい気がするのは気のせいだろうか。
「この本に職業に関することが書いてあるんだって。国が職業がたくさんありすぎるから案内する人がいるんだって」
パラパラと本をめくると、職業と必要な資格が書いてある。資格には受けることができる保証も書いてある。
本にしおりが入っているページを見ると鍛冶屋のページだった。親方クラスであれば鍛治に使う道具を少し安く買えるらしい。道具を買いに行くのは親方の仕事になってしまうが、それでいいのだろうか。弟子にこき使われる親方の様子を想像してしまう。制度が始まったばかりだから、おかしなところや抜け道が多々ありそうな気がしてならない。
「暇だし、行ってみるよ」
「ハルカ、もし仕事見つからなかったら俺のところに来いよ」
「ん? 弟子から、わざわざ親方に口きいてくれるの? ありがとう」
二人に手を振って鍛冶屋の扉を抜けた。私の仕事が見つかるといいなと思う。
いや、見つからなかったら、私の将来が恐ろしくて仕方ない。不安が心の中で渦巻いていた。
2019/08/20 文章を修正しました。多少見やすく変更しました。