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人形使いハルカ  作者: いつき
無職のハルカ
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一枚の紙

 秀でたものが無くても、経験さえ積めばどうにかなる。そう、母に言われたことは覚えている。天才でなくていい、平凡でもどうにかやっていけるという意味だと捉えていた。だからこそ、私は自分の好きなことに没頭しながら、食べていけるような何かをおいおい探すつもりでいた。

 私の人生計画が崩れたのは紙切れ一枚のせいだ。


 目の前のテーブルにポツンと置いてある。一緒に暮らしている兄が今日の朝は家に帰ってきていたらしい。でなければこんなものがテーブルに置いてあるわけがない。


「資格を取得し、仕事に励むべし――」


 この国での職業が資格制度になったらしい。資格がただのステータスというわけではなく、資格を得ることで国から補助もされ、支給される給料も高くなる、と大きく書かれている。資格によっては国からの補助で宿代の免除を受けることもできると書いてある。


 利点だけ見れば、これから働く私にとってはお金が多くもらえるようになることはいいことだ。しかし、国の定めた職の技能を磨き、国のために働けと書いてあるその紙の端には「※資格として定められていない職に関しては、国の意思から外れるものとみなし、税を課す」と書いてある。この言葉に気づく人はどれくらいいるのだろうか。


 私のやりたかったことは資格に――お金になるのだろうか。部屋の片隅の棚に置いてあるくまのぬいぐるみを見つめた。一つの趣味としてやっている手芸。この趣味で生きていくことは難しい。恐らく世間で必要とされるのはぬいぐるみではない。洋服を作り、刺繍し、人々の衣食住に寄り添った――いや、国にゴマをすれるような技術であれば生きていける。


 国王にご利益のあるぬいぐるみだと売りつければ、やっていけるかもしれない。幸運のライオンのぬいぐるみなんてどうだろうか。凛々しい姿が、煌びやかなたてがみが、まるで国を象徴しているようではないか。ぬいぐるみを作るよりも、煌びやかな刺繍の模様の入ったハンカチのほうが民衆に受けるのではないか。お守りのような効果をうたってみたらどうだろうか。


……。


 私はクッションの端とハンカチの端に刺繍をし、伸びていた。実験程度に少し派手な刺繍をしてみたが、普段そんなに好きでもないことをしたせいで疲れた。余計なことをせずに真面目に働け、という神の思し召しなのかもしれない。


 今日の朝帰ってきていたのだったら、暫く兄は帰ってこないだろう。国のために働いているらしい、くらいしか知らないが、兄が家に帰ってくることは月に数回程度だ。それくらい忙しいらしい。

ご飯の準備をしなくてもいいからあとは適当に自分のご飯さえ食べておけばいい。


私の求める職業は刺繍関連ではない。私に何ができるのだろうか……。少し硬いパンを齧りながら、揺れる蝋燭の火をじっと見つめた。

2020/05/06 矛盾が出そうなので一部修正しました。

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