別れても好きな彼
「……ぅうう…なんだょ」
まだ眠たいのにうるさい携帯だな……。
休みの日ぐらいゆっくり寝かせてくれよ。
夏休みって事で遅くまでゲームやって自堕落に過ごしてたから、眠い…。
しかし、長いコールだ、諦めわりぃ奴だな。
「はい」
『おっやっと出た』
「今何時だ?」
『今は〜朝8時!』
俺は電話を切った。ナメんな。
電話の相手は町田由那。
中3の時に付き合って卒業で別れた。
俺は高校から一人暮らしで、由那の家から電車で2時間かかる。ちょいとした遠距離恋愛と考えればできない事じゃねーが、俺には無理。
中学生だったしキスまでしかしてないから、勘弁してくれ。
由那は明るくて可愛いかったけど、面倒臭がりの俺とこの距離じゃ、アイツが可哀想だ。
別れ話をした時アイツは、
『おーわかったよ!でも友達でいてね、あっつん!』
そう言って笑いながら泣いてたな。
俺は藤井篤人、で由那はあっつんなんて呼ぶ。
また……か。
しつけーなぁ……。
『切んないでよ!今からそっち行くから、出掛ける準備しといてねー』
は?……電話切れてるし。
今から?何言ってんだアイツ。このあちーのに外なんか出るかよ。
由那とは卒業以来電話でしか話してなくて、会ってない。
高校入って結構すぐ俺は彼女出来たしな。
俺はちょっと前に別れたけど、由那は彼氏いるらしい。いつの間に出来てたのか知らんけど。
まぁいい。寝よ……。
……………………………………。
うるせぇ……。
「なんだってんだよ!」
『お、怒んないでよー駅ついたー』
「は?お前マジで来たの?」
『おーよ、早くきーてーよ〜』
「馬鹿か、彼氏と遊んでろ」
『その事で話あんの!いーよ住所知ってるから迎えいく〜』
…………切れた。
普通に電話切れないのかね、人の事言えないけどさ。
つーか、面倒嫌いなの知ってんだろ。恋愛相談なんぞするか!
俺は寝続けた、が……インターホンが鳴りやがる。
無視、だな。
「おーい!あっつーんあーそーぼ!」
「……てめーは小学生か!」
怒りに任せて玄関のドアを開けると、最後に会った時と同じ髪型と笑顔の由那がいた。
「エヘヘへ。久しぶり」
「……なんだ、あんま変わんねーな」
「久しぶりに会ったのにそりゃねーぜ!相変わらず可愛いなとか言え〜」
「髪型すら変わってねーし」
「あっつんセミショート好きじゃん?」
「好みは今の彼氏に合わせろよ」
「彼も好きなんだってー」
「あっそ」
どーでもいいわ。俺は眠ぃんだ。もう少し寝て、また自堕落な夏休みを続けるんだい。
「まだ着替えてないの?早くしてよー」
「誰が出掛けると言った」
「2時間もかけて来た女の子に言うかね!?」
「勝手に来た、オマエ」
「待ってるから着替えてよ〜」
……シツコイ。めんどくせー。か、え、れ。
「パンツ見せたら付き合ってやるよ」
フン、帰れ。
「う〜ー……わぁ!!」
――――ッ!………マジか?
勢いよくスカートを捲り上げた由那の、薄黄色のパンツがかなりの至近距離に!!!
「どーよ?」
真っ赤な顔した由那が、ドヤ顔ではあるが、顔は引きつってやがる。恥ずかしいならやんな。
「……お前にゃ負けたよ」
仕方なく俺は着替えて由那と出掛けた。とりあえず話は聞いてやるか。
俺達は近くのファースフードに行った。腹減ったし。
「付き合ってやんだからお前の奢りな」
「オケ!商談成立だね」
俺はチーズバーガーのセットと単品で2つバーガーを頼んだ。
「相変わらず良く食べるねー」
「人の金だしな!」
席に着いて、食べながら俺は言った。
「五分だ。五分でまとめろ」
「うん!あのね、彼氏が浮気してムカついたからそのデートの内容をナイフチラつかせて洗いざらい吐かせたのナイフは嘘ねそしたらすごー色々やらかしてやがってホントムカついたからあっつんに電話してここまで来てあのバカ彼氏と同じ内容のデートして復讐してやろーと思ってそれあっつんに付き合ってもらいたくて!」
……おお、そうか、よく分かんなかったぞ!
まぁ、大体わかった!
「そうか」
「うん!」
「断る!」
「えーそりゃねーぜ〜」
何でそんなめんどくせー事せにゃならんの?他を当たってけろ。ケロケロ。
「全部終わったら最後にお尻見せたげるから!」
「今日だけだぞ」
「良し!商談成立!」
次々と商談が成立していく。いい営業マンになるぜ、お前。枕営業だけどな!
「で、最初はどーすんだ?」
「えとね、まずは公園に行きます!」
俺達はミッション1をこなすべく、近くの公園を探して辿り着く。
「着きましたー」
「はい!それでは、ベンチに座ります!」
えーとベンチね。
「はい、座りましたー」
「うんうん、いいよ!」
うーん、暑い。もう、帰りません?
その彼氏のデートってそもそもミッションいくつまであんの?二桁いったら問答無用で尻見て帰る!
「あっつんと公園なんて久しぶりだねー」
「それ、ミッション関係ある?」
「会話までは知らないし?」
「だよね」
「でもさ、浮気したんだから口説いてたんじゃないのー?」
まぁな、ワンチャン狙ってた訳だからな!
てか浮気ってどこまでの浮気なん?
それによってミッション変わるよね?
「だからーあっつん口説いて!」
「脳腐ってる?」
「うん!」
そうね!ちょっとね!
「由那」
「なーに?」
……なにそのリアクション?やる気なくすわ!
やれって言ったの君だよね!
いや、ナメんなよ。
「暑いな、でも夏の暑さだけじゃない。お前が隣にいるからかな?お前見てると目眩がすんだよ、どんな季節でも」
俺は由那に顔を近づけて、少しどっちか動けばキス出来るぐらい接近してやった。
「で、ここで彼氏キスしたの?」
「し、してないけど…する?」
「は?してねーのにするかよ?てか本当にはしねーから!で?」
「はい?」
「何すんの?」
「えとね、膝枕!!」
「暑いからヤダ」
真夏ですよ?そんな事すんのバカちゃいますのん?
「商談は成立しとりますけん!」
「………あい」
まぁ、俺は頭乗っけるだけだから暑くもねーか。由那が暑いんじゃねーか?
言われるままに俺は由那の膝に頭を預けた。
「何見てんだよ」
「そーいうシナリオですけん」
「その喋りは?」
「ノリっす」
そーですか。安定しないキャラ作りですこと。
暫く俺はそのまま膝枕に甘えた。楽だし。このまま終わりでも全くいいね!
「寝ていーすか?」
「いいけど、キスするよ?」
「バカなの?」
「うん」
「――ッ!?ぶわっ!おま、何考えてんだ!?」
「あはははー」
コイツ、マジでやりやがった!
何?何なの?
「ここではキスしねーんだろ!?」
「アドリブっす!」
「シナリオに忠実に再現して!」
この監督あかんわ。キャストがついて来ませんねこりゃ。
「キスしたの久しぶりだねー中学以来だ!」
「ハッ!お互いその後他の相手と最後までやってんだろが」
「そだねー痛かった〜」
「生々しい!!」
流石にそこまで聞きたくねーわ!
元カノの初体験なんて聞きたいですか?逆に俺のも聞きたかねーわな。
「もういーからさ、次どーすんの?いい加減にしないとアタシこのドラマ降りますよ監督さん」
「そー言わないでよアツコちゃ〜ん次!いいシーン撮るから!」
ほ、本当?ジャーマネに言うわよ!
「次はね、ゲーセンに行きます!」
「え〜ベター」
文句を言いながらも次のミッション2に向かった。
夏休みでまぁまぁ混んでいたが、かんけーないね!(何とか刑事風)(詳しくないけど)
「この、フレンドパーク的なホッケーをやります!」
「ほぅ、地元ではホンジャマカと言われたこの俺と?」
愚かな。女子供に負けるかよ。
当然……
「全く相手になりませんなー」
「普通ちょっと手加減するよね!?ホンジャマカもやってたもん!テレビ的に!」
おやおや、今はリアルですのよ?視聴者のいないホンジャマカの実力を思い知るが良いわ!
「ううぅ〜あ!アタシに勝ったらチューしていいよ?」
「懐かしいな!広末か!」
俺はパックを全力で自陣地に叩き込む。
連続のオウンゴールを決めてやったぜ!
「そこまでやられると引くわー」
引けば!?
「ゲーセン終わり?」
「プリクラを撮ります!」
「ヤデス」
「おいおいアツコちゃん。このシーンは飛ばせないよ〜」
何かあるに決まっとる。見え見えの罠に飛び込むよーなMじゃねーんだよ。多分。性癖って変わるらしいよ?こわ!
「言っとくけどまたキスとかしたら無理矢理尻見て帰るから」
「分かった!ふつーに撮るだけにするよ」
その言い方って自白じゃない?
すったもんだでプリクラマッシーンに入る。
由那が腕組んできて撮影開始。
「おっぱい当たってますよお嬢さん」
「デッカくなったでしょー」
「育てられたか、いい彼氏じゃねーか」
「右のが感じるんだよね〜」
聞きたくない!……でもないか?逆に聞いたろか?ウヘヘヘヘ!俺の女じゃねーしな!
「そうか、それで?1番感じるのはどこだね?」
「え?そ、それは〜」
「うんうん。それは?どこでイッチャウノ?中?外?」
「そ、そんなの言えないもん!」
「自分から言っといてそりゃねーぜオネーチャン!1日最高何回したの?白目剥いちゃった?」
「こ、このおじさん変なんです!」
そうです。私が………
………店員に追い出されました。
「はい、これあっつんの!」
「あ?ああ」
出来たプリクラを由那が切って渡して来た。
楽しそうにしやがって、こっちは危うく婦女暴行の冤罪……でもないか。
「じゃ次はねー」
「おい、ミッションいくつまでだ?」
「もう半分ぐらい?」
てことはミッション4、5ぐらいで終わりか。仕方ねぇ乗りかかった船だ。最後まで付き合ってやるか。
「ボーリングをします!」
「そんなの近くにねーぞ」
「ボーリングをします!」
「うるせぇ!」
仕方なく、電車に乗って移動する。……めんどくせーここに極まる。
「あ、あっつん……」
「あ?どした?」
「ちょっと……助けて、誰か私のお尻触ってる」
「あ、それ俺」
……痛い。思い切り頬っぺたつねられた〜
こんなめんどくせー事させられてさっ!これぐらいの追加報酬さっ!あるさっ!
ボウリング場に着きました。
さぁ、とっととやりましょう。
「ルールを説明します!」
「ほぅ。聞こうか」
「スコアで勝負しても負けるので、ストライク1回私が出したらあっつんにデコピンします!」
「俺は?」
「あっつんはストライク3回で私が痛んだ額にチューしてあげるー」
「お前が全然ストライク出なかったら俺の痛んでない額にキスするだけだろ?」
「ば、ばかにしないでよー(百恵ちゃん風)」
「ていうかこれ彼氏やった訳?」
「ボーリングの内容までは分からんやん?ほなアドリブやん?」
随分と破綻してきたな……。
かなり前から感じてはいたがな!
「追加ルールだ、由那がストライクを出してデコピン1発でもされない限りおデコにチューは無しだ」
「てゆうかさ?こんな可愛い子がしてあげるっチューのによ?」
「チューをかけました?由那さんスベってます!」
「……始めましょう」
最初のゲーム。由那選手ストライクゼロ。俺5回。
第2ゲーム由那選手ストライクゼロ。俺6回。
第3ゲームも最後、ここまで由那0。俺4回。
「くぅ…大学で痛めた肩が……」
「高校生だよね?」
由那選手最後のプレイです。
「考えるな、感じろ!由那、いっきまーす!」
コイツバカだな。
しかし、
スットラーイク!
「きゃー!!やったよあっつん!」
「抱きつくな1回ぐらいで」
「はいデコピンバーン!」
「うおっ!」
ちゅ×5
「よく覚えてたな」
「数えてたもーん」
3ゲームを終えてボウリング場を出ました。
楽しくなかったです!……そうでもないか。
「そろそろ終わりだろーな」
「それでは元の駅に戻りますが、電車で痴漢したら貴方の終着駅は警察署です」
面会来てね!
電車に乗り、戻る。どーせ俺は戻らにゃならんし良いけどさ。
「さぁミッション4です!」
「はーい」
「コンビニでテキトーにご飯買ってあっつん家で映画を観ます!」
「やーです!」
「ダーメ!」
お前、彼氏と別れれば?
もっと良いやついるって!多分!
「映画館でいーじゃん?」
「忠実に再現してって言ったよね?」
「撤回します!」
「拒否します!」
…………ついに来やがった。
もう、尻とかいいから帰れよ。
「コレを観ます!」
「なんだそれ?」
「感動の恋愛映画、らしいよ?」
「観たことないのね?」
仕方なく観る事にした。由那が映画は雰囲気!と言って常夜灯にして。
…………………………。
まぁ、感動の物語だな。
由那をチラ見すると泣いてやがるし、女の子はこういうのに感情移入しやすいのねぇ。
ラストシーンが終わり、エンドロールが流れる。
まだ泣いてるよ、この子。
「お前、いつまで泣いてん……ッ!」
由那の……唇が俺の唇を塞ぐ。
両腕を俺の首に回して、頭を包むように。
短いそれとは違う、求め合うキスをして、ゆっくり唇が離れると、腕を回したままそして、吐息を感じる距離で、蕩けた顔をした由那が、
「最終ミッションです。……私を、抱いて下さい」
「………帰れよ」
「ヤダ」
「彼氏への当てつけでこんな事すんな」
「して」
泣く……なよ。
お前、何に泣いてんの?
浮気された彼氏にか?
それとも……俺……な訳…ないよな……。
「俺とやってもいい事ないぞ」
「してみないと、わかんない」
由那がまたキスしてきた……さっきより濃厚で……
理性を飛ばすキス………
そのまま…………………
…………………………………………………
…………………………………
……………
「あっつん」
「………騙しやがったな」
「うん」
由那……処女じゃねーか!!
「……彼氏の名前は?」
「設定してなかったー」
………ふざけんなよ。
「最初からいねー訳か……」
「今は居るよ?……藤井篤人!」
………ふざけんなよー
「今度は逃さないからー」
ふざけんなよ?
「約束のお尻、見る?」
全部見たわ!
「好き。 別れてからも……ずっとだよ?」
…………仕方ねぇ、乗りかかった船だ。
最後まで、付き合ってやるよ。
読んで頂いた方ありがとうございます!
気に入ってくれたらブクマ、評価、感想等頂けると嬉しいです^ ^
連載中の『胸に咲く二輪の花』の方も良かったら読んで頂けると嬉しいです^ ^
続編の『別れても好きな彼 〜えっ? 別れてなかった? 編〜』も書いてます〜^ ^