大学に行きなさい!
「お父さん、今日本当は大学あったのに嘘ついたよね」
晩ご飯のカップ麺をちょうど食べ終えて、割り箸をフタの上に置いたときのことだ。またしても娘の鋭い一言が胸に突き刺さる。
未紀の手には、俺のスマホが握られていた。その画面に映しだされているのは、俺の今日の時間割。一体どうやってパスワードを突破したのだろうか。
いや、そんなこと今はどうでもいい。未紀は眉を吊り上げて怒っている。俺の娘は怒っている顔も可愛いなあ、なんて呑気なことを言ってる場合ではないのである。これはピンチだ。なんて言い訳すればいいだろう。考えろ俺。頭をフル回転させてみるけれど、嫌な沈黙の間が広がっていく。
「明日から大学、絶対に行かせるからね」
それは俺にとって死刑宣告も同様だった。なんとしてもそれは回避したい。必死の言い訳をしてみる。
「こんな途中から学校に行き始めたって授業の内容に着いて行けないし、単位なんて取れないってば」
「そんなこと言ってたら一生行かないままだよ。授業料払っているんだし行くだけ行こうよ。単位だって頑張れば全部とは言わないけど、1つや2つは取れるかもしれないよ」
未紀は優しく諭すようにそう言った。
「それにさ、周りはリア充だらけで友達もいない俺なんて居場所がないんだって。絶対浮くし、そんなのは嫌なんだ」
正直、勉強とかよりもこっちの方が問題なんだよね。たくさんの人に囲まれていると、みじめな俺が皆に見られているような気がして疲れてしまう。
「そんなの誰も気にしてないから、大丈夫だよ。お父さん」
「でもでも……一人は無理だってば……」
幼児みたいな言い訳を、よりによって娘にしてしまうなんて恥ずかしいことこの上ない。なんだか自分で自分が嫌になってきてしまう。
「それなら、私も一緒に大学に行きます!そして、お父さんの彼女…ってことで隣に座ります。そうすればお父さんも周りから見ればリア充に見られる…はず」
「へ?」
未紀も一緒に大学に?それに俺の彼女役?
「私も一緒ならお父さんも大学で落ち着いて授業を受けられると思うのですが……どうでしょう」
正直未紀とはこうして普通に話したりも出来るし、一緒にいると安心もする。これは血が繋がっている家族だからなのだろうか。でも、一緒に大学って可能なのか?
「未紀も一緒なら俺も心強いけど、大丈夫かな……」
「侵入には自信があります!」
胸を張ってそう答える。でもな未紀。問題はそこじゃないんだよ。
「いや、大学に入ることは容易だと思うけどさ。問題は未紀が大学生に……その、見えないってこと」
未紀は小柄で、まだ少女らしさが残っている。胸の方の成長もまだ期待出来るな。今のままでも一部のマニアにはたまらないのだろう。それに、顔のパーツも整っているし、きっと成長したら美人になってさぞモテるだろうな。…なんて考察してる場合じゃない。
「私がまだ幼いってこと……? 私こう見えても16よ!」
「って16だったのか! 俺と2つしか違わないじゃん! 2つ差の親子とかどんなんだよ……」
「そうだよ、お父さん。2つしか違わないの。だからちょっと童顔の大学生として通用するよ!」
「そうかな……。でも、一人で行くよりはいいし……。ま、もしバレたらバレただ!」
「じゃあ、決定ね! 明日一緒にお父さんの大学へごー!」
「ゴー!!」
「そうと決まったら歯磨いて、早く寝ないとね」
「おう!」
ウキウキで歯を磨き、ベッドに入る。当然のように未紀も入ってくる。くすぐったいって。
初日は疲れていたからそんなこと考えなかったけどさ。俺、女の子と一緒に寝てるじゃん。しかもこんな可愛い子とだぜ?こんなの客観的に見たら超絶羨ましい展開なのでは……? 胸の鼓動音が響く。未紀はもう眠ってしまっているようで、吐息が俺の首元に当たっている。胸が破裂しそうだ。
すっかり茹で上がってしまった俺はベッドから抜け出し、座布団をかき集めて床で寝ることにした。あんなんじゃ眠れない。明日は大学だからちゃんと寝ないとな。
そういえば、最初はすごく嫌だったのに、なんで未紀も一緒に大学に行くってだけであんなノリノリで返事しちゃったんだ……。