混乱
「お父さんを救いに来たの」
真剣な眼差しで彼女はそう言った。俺を救いに…?近い将来、俺は死の危機に直面するのだろうか。漂うシリアスな雰囲気に息を呑む。
「俺の身に何か起こるのか……?」
「ううん、もう起こっているわ」
既に起こっている……? 俺が気づかない内に何かが動き出していたというのか!
「このままじゃ取り返しのつかないことになってしまう」
取り返しのつかない事? 一体何なんだ?
「このままじゃ、お父さん……」
ゴクリ。唾を飲み込む音が静かな部屋に響く。
「引きニートになってしまう」
引きニート……だと。
引きこもりニート……。
いやいや、散々ためてニート言いたいだけだったのかよ!
「私はお父さんを今のこの堕落した生活から救いに来たの!」
おいおい、俺にはすごい使命があって世界を救うとか、暗殺者に狙われていてそういうのから守るのが目的だと思っていたのに……。
「しょぼすぎるだろ……。未来から来た目的……」
「なっ、大事なことだよ!私の未来がかかっているんだから!」
「そうか、俺がニートになってしまうと結婚出来無い。そうなると当然未紀も生まれなくなるってことか?」
「そういうこと!」
「でもさ、未紀が生まれて未来から来てるってことは、俺がこのままでも結婚出来ているってことじゃないのか?」
「それは……きっと未来の私のお父さんのところにも未来から私が来たんだよ。うん!」
未来の俺のところにも未来の未紀が来た……。これからの未来を既に体験した俺がいるってことなんだよな?これって時間のずれた複数の世界線が存在しているってことになるのか……?ダメだ。頭が混乱してきた。もう考えるのはやめよう。
「よし、未来から来た目的は分かった。じゃあ次、俺と結婚する相手は誰なんだ?」
「そ、それは言えません……」
俯きながら小さな声で答える未紀。
言えない?一番大事なことじゃないか!
「どうしてなんだよ!」
声を荒げて叫ぶ。
「そ、それを知ってしまうと結婚するまでのやり取りに支障が出てしまい、結婚出来なくなってしまうかもしれないから……です」
なるほどね……。確かにこの人と結婚するって分かっていたら安心感からか暴走してしまいそうな俺が想像出来る。
あり得ないことに頭が混乱してるのか、久しぶりに会話をしたからなのか分からないが、疲れて来た。すごく眠い。
「未紀、なんだか眠くなってきたから俺そろそろ寝るわ…」
「実は私も眠くて……」
「じゃあ一緒に寝ようぜ。起きたらまた続きってことで」
「はい、そうします……」
俺は立ち上がり、あくびをしながらベッドに横たわる。そういえばベッドはシングル。ゴミが散らばっていて他に寝る場所はない。未紀はどこで寝るのだろう。そう考えていると、未紀がこちらに向かってきた。
「ちょちょちょ、未紀はどこで寝るんだ?」
「そんなの決まってるじゃないですか。お父さんと一緒にですよ」
「や、確かに一緒に寝ようぜって言ったけど…」
俺の次の言葉を待たずにベッドに潜り込んで来た。
眠れるかな……?
未紀はすでに寝息を立てていた。