ファーストキスの証明
「お父さん!」
なんて言ったか聞き返そうとした刹那、この美少女ちゃんはなんと笑顔で俺に抱きついて来たのだ!
「会いたかった……」
その声には喜びの余りか、泣いているようにも聞こえた。
「え、や、あ、ちょっ……ちょっと」
テンパる俺。一体なにがどうなっている。何で俺は面識もない美少女に抱きつかれて泣かれているんだ。
「お父さん……お父さん……」
そう繰り返す彼女。
「いや、人違いじゃないかな。俺、君みたいな子知らないし……」
顔を上げ、俺の瞳を覗いてくる彼女。
「ううん、間違いない。やっぱりそうだよ。私のお父さんだ」
「へ……? お父さん……?」
何かの冗談だろうか?
いや、新手の詐欺か何かなのか?そんな考えが頭を駆け巡る。すると、外から音が聞こえてきた。
まずい、未成年の少女とこんなやり取りしているところを他のアパートの住人に見つかったら大変だ。
「と、とりあえず、中に入ってくれ」
彼女の腕を引っ張る。汚い部屋に入れるのもどうかと思ったが、緊急事態なのだから仕方ないよね。
部屋に散らばったゴミをかき分け、なんとか2人座れる場所を確保する。不思議と彼女は嫌がっている様子はないようだ。
「えっと、まずはだな……。俺のことお父さんって言ったよな?それは本当なのか?」
「うん、間違いないよ。私のお父さん!」
彼女は身を乗り出してハッキリと答えた。もしこれが演技だとしたら、名女優になれるだろう。だがここは冷静に対処しなければ。
「いいか? 俺には彼女なんて居ないし、生まれてから出来たこともない。だから娘なんていないし、お前は俺の娘なんてあり得ない!」
「うん、そうだよね。急にこんなこと言っても信じられる訳ないよね…」
「何か証明出来るものはあるのか?」
「今は証明出来るような物はないんだ……。でも、もし望むんだったらDNA検査したっていい!」
「ふむ、DNA検査ねぇ。じゃあ仮に俺の娘っていうなら俺のこと知っているはずだろ?なんでもいいから言ってみてくれよ」
彼女は目を逸らし、言いづらそうな、困った顔をしている。ほら見ろ、やっぱり分からないじゃないか。
なんだかこの少女を虐めているような気分になってきた。
「えっと、じゃあ……お父さんは現在大学生で絶賛不登校中。寝る、ゲーム、食べるの堕落した生活を送っている。バイトなんてしていないから生活費は全て親が出していてその生活費をゲームの課金に使っている。小学生の頃は南小学校に通っていておねしょは小学5年生までしていた。中学校は
明東中。ダークインフェルノっていう中二ノートを作って……」
「あー!もうやめやめ!」
驚いた。見事に当たっている……。そしてなんだか恥ずかしくなってきた。
「ま、まぁ、今のことは俺のことを詳しく調べたりすれば分かってもおかしくはない。何か決定的に俺の娘だと分かるようなことがあればな……」
「ごめんなさい、今そういうものは持っていなくて……」
申し訳なそうな顔をして答える彼女の顔をちらりと見る。うーむ、可愛い。本当に俺の娘だとしたらなんて幸せな父親なのだろう。こんな少女にお父さんなんて言ってもらえるなんて場合によっちゃお金払わないと言ってもらえないだろうな。
そんな事を考えていると、俺の変態的な閃きが頭を過る。
『娘なら俺にチューしてくれるんじゃね?』
うん。親子でチューなんて海外じゃ当たり前のスキンシップだ。こんなキモオタ系の俺にチューが出来るとしたらそれは証明になるんじゃないのか?
「あのさ…」
「どうしたの、お父さん?」
「もし、本当に親子だと思っているなら…」
「うんうん」
「俺に……」
「俺にチューできるよなぁ!?!?」
言ってしまった。静寂がこの部屋を包む。なんとも言えない気まずさが全身に走り、思わず目を瞑ってしまった。
すると、
唇に柔らかいものが触れる。驚いて目を開くと彼女の顔が目の前にあった。
あれ?? これって……
キス……してる……?
「これで、信じてもらえましたか…?」
彼女は顔を真っ赤にしながらそう言った。
俺は開いた口の形からそのまま出てきた声を出すことしか出来なかった。
「あ、ああ……」
ファーストキスだった。
どうやら、俺の娘が未来からやって来たようです。