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七拾八 帰路 2

 東山道の名取付近。街道脇に少し開けた原に、千方を待つ古能代達の姿が有った。

 追分おいわけから駆け出して行ったので、誰もがすぐに追い着いて来るかも知れぬと思いながらの道中であったが、名取まで、二人は現れなかった。

 しかし、休息を取ってから半時もしないうちに、並足で、互いに言葉を交わしながらやって来る千方と朝鳥の姿を、夜叉丸が最初に目に止めた。

「お見えになった」

「おお、左様で御座いますな」

 夜叉丸の言葉に反応したのは、多岐葛良たきのかずらだった。

 秋天丸が街道まで出て行って手を振る。気付いた千方が早足になってひとり駆けて来る。

「待ったか? 」

「いえ、先程着いたばかりです」

 秋天丸が答える。

「途中で追い付けると思うたが、多賀城で随分と待たされたわ。陸奥守様もお忙しい身ゆえ、仕方無いがな。小鷺殿、子らに変わりは無いか? 」

「はい。日高丸は、はしゃぎっぱなしですし、高巳は寝てしまいました」 

 成る程、高巳丸は草の上に坐った小鷺の腕の中で眠っているし、日高丸は古能代の周りを走り回ってはしゃいでいる。

「殿のご機嫌はいかがでしたか? 」

 多岐葛良が尋ねた。

「うん? 至って良かったぞ。…… 何か機嫌が悪くなるようなことでも有ったのか? 」

「いえ、特に…… 」

「陸奥守・鎮守府将軍と言えば、気骨の折れるお勤めで御座いますゆえ、時にはご機嫌の悪いことも御座いますのでしょう」

 遅れて着いた朝鳥が、葛良に助け舟を出した。

「さ、左様で…… 」


 一刻(三十分)ほど休むことにした。馬を木に繋ぎ、千方も草の上に腰を降ろす。

 少しの後、秋天丸が

「六郎様、早く芹菜に会いとうなったのでは御座いませぬか」

と言った。

「うん? いきなり何を言い出すのか」

 千方は、そう言って少し照れたような表情に成る。

 そして、

「犬丸にも竹丸にも、鷹丸、鳶丸にも、早く会いたい。皆に会いたいぞ」

と続けた。

 夜叉丸と秋天丸は、一度、互いに目を合わせてから笑った。

「そう言うそのほうら、陸奥で良き女子おなごでも出来たのでは無いのか? 」

「いえ、我等六郎様のようにはもてませぬゆえ。のう」 

と夜叉丸に同意を求める。

「そうでしょうか? 」

と口を挟んだのは小鷺だった。

「え? 何のことでしょう? 」

 秋天丸が小鷺の方を振り向く。

「毒矢に当たった時、一晩中付きっ切りで頭を冷やしていた女子おなごがおりましたな、夜叉丸…… 」

「え? いや、熱に浮かされておりましたゆえ、良う覚えておりませぬ…… 」

「吾に付いていたキリと言う女子おなごです。後で聞いたら、まんざらでも無い様子でした」

「こら、その女子おなごと何か有ったのか? 吾に隠れて」

 秋天丸が突っ込む。

「何も無い、何も無い。…… あれ以来口を利いたことも無いわ…… 第一、こんな恐ろしげな顔をした吾を好きになる女子おなごなどおるものか…… 」

「そう思っているのは自分だけ。…… このお方も恐ろしげでしたよ」

と小鷺が、古能代の顔を見て微笑む。

女子おなご男子おのこの、顔だけを見る訳ではありません」

「もう、やめて下され…… 」

 夜叉丸はどう反応して良いのか分からないといった素振りだ。

「キリもその気であれば、何とかしてやりたいものだな」

 古能代が呟く。

「一度、ふたりが目を合わせ、キリは恥ずかしそうに、夜叉丸は慌てたように、すぐに目を逸らすのを見たことが御座います。吾が見たところ、互いにその気が有ると思えました」

「小鷺殿。そのキリという女子おなご、小鷺殿に付いていたのであれば、そなたに取っても好都合。胆沢に居る間に聞いておれば、陸奥守様のお許しを頂いて、一行に加えることが出来たかも知れませぬ」

と千方が言った。

「六郎様申し訳御座いません。今でこそ、間違い無いと申せますが、ふたりの気持ちを確かめた訳では無いので、胆沢におる時は、それほどの自信が持てませなんだ。それに、吾に付いていた女子おなごゆえ、連れて行きたいと言えば我儘と取られるのでは無いかという想いが御座いました」

「分かった。父上に相談してみよう。陸奥守様と都留儀殿にふみを送って頂けば何とか成るかも知れぬ」

「六郎様。そんなことまでして頂かなくても。吾のことで大殿様のお手を煩わす訳には参りません」

「良い。郎党は身内じゃ。気を使う必要は無い。任せておけ」

「しかし…… そう言われましても…… 何と言うか…… 」

「夜叉丸らしくも無い。何をうだうだ言うておるのか。もし、竹丸がそんな言い方をしておったら、なれは殴っておろうが。それに、麿は、芹菜のことで、そのほうらには借が有るでのう」

 秋天丸が笑いながら、肘で夜叉丸の肩を突いた。普段であれば 

「何するんじゃ! 」

と喧嘩になるところだが、夜叉丸は

「痛ってえなあ」

と言っただけだった。

「六郎様、古能代様、それに夜叉丸まで。皆楽しいことが有って宜しゅう御座いますな。あ~ああ、吾ひとり、何も御座いません」

 秋天丸が大声でそう言うと、皆笑った。

「麿にも今、女子おなごがおらん。秋天丸。今宵こよいは、麿とささでもくむむか? 」

「あの、女子おなごのことで、さすがに朝鳥殿と一緒にされとうは御座いませぬ」

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