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熱中症対策と梅ゼリー

 五月も後半に差し掛かると、暑い日が増えた。

 その中、服をどうすればいいのか迷うし、もう冷房を入れていいのかも悩むし、食べるものにもとことん悩む。

 熱中症対策っていうのは、本当に年々言っていることも研究も変わってしまうから、なにを信じればいいのか困ってしまう。

 昨日に真夜さんが炊いていた麦茶も、ふたりしてそこまでたくさん飲んだ覚えもないのに、もうピッチャーが空になってしまった。


「なんかいきなり暑くなったよねえ。年々、春と夏の間がなくなっていくというか」

「せやねえ。昨日炊いた麦茶ももう品切れやし、また炊くからちょい待ちぃ」

「はあい」

「代わりに梅ジュース出すけど、あんまりカパカパ飲んだらあかんで? これ砂糖の量が馬鹿にならんのやから」

「わかってますってば」


 出してくれたのは、最近出回りはじめた青梅でつくった梅シロップを、水で思いっきり割ったものだ。

 青梅を水に浸け込んであく抜きしたあと、それを凍らせて、氷砂糖と一緒に漬け込んでいたら、一週間ほどで出来上がった。


「私、てっきり梅シロップってひと月くらい漬け込んでおくもんだと思ってたんだけど」


 大変そうだなあと思ってつくったことがなかったけれど、花梨ちゃんからシロップの話を聞いていた。それを聞いてとてもじゃないけど気力が持たないと思って、つくるのを諦めたもんだ。


「なんでもかんでも、凍らせたら細胞や繊維が壊れるから、早うエキスが出るようになんねんな。きのこやって、凍らせたら早う出汁になるやろ。あれと一緒」

「なるほど……」


 相変わらず冷凍庫には、定期的にきのこを凍らせては使っているし、他の野菜や果物でも使いやすくするために凍らせるって手法は使えるんだろう。

 出してくれたものには、喫茶店のジュースのように氷は入れていない。ぬるくはないけれど、キンキンに冷たいものは真夜さんが「体を急速に冷やしたらあかん」と言ってあんまり出してくれない。

 水を飲み過ぎたら体液が薄くなるから、スポーツドリンクを飲みましょうと推奨していたのが一転、飲み過ぎると糖分摂り過ぎで糖尿病になりましょうとか言われる。

 塩分摂り過ぎはよくないって言われているけれど、夏場は汗と一緒にミネラルが流れてしまうからと、やれ塩飴舐めろとか、やれ塩タブレット持ち運べとか言う。

 年々言っていることが変わるから、本当統一してほしい。

 冷房を入れる入れないどうしようと思った結果、結局は冷房を本当に緩くかけて、扇風機も緩くかけることで落ち着いた。


「でもさあ……麦茶がないときって、なにを飲んでおけばいいの? 毎日毎日暑い台所に立って炊くのもしんどいけど」


 真夜さんが炊いてくれるとは言っているものの、夏場の台所は本当に暑いのだ。私のために炊いてくれているからって、真夜さんが熱中症になったら本末転倒だろう。

 私が突っ込むと、真夜さんは「せやねえ」と言う。


「最近やったら、甘酒もスーパーやコンビニでよう売ってるけど。酒粕のじゃなくって、米麹の奴な」

「体にいいとは言われているけど、私あれ苦手」


 どうもあの甘さが苦手なんだよなあ。お米の発酵した甘さが苦手というか。飲む点滴とか言われているらしいけど、いくら熱中症対策とはいえど、苦手なもんを飲み続けるのはなあ……と躊躇してしまう。

 真夜さんは私のげんなりした顔に苦笑を浮かべる。


「苦手なもんは、いくら体にええって言われても続かんかったら、意味はないわなあ。家やったら、梅干しやきゅうりの浅漬け食べて、普通に水飲んどきゃええけど。あと風通しをよくするとか、日差しを避けるとか、ほんまに普通のことやねえ」

「あー……最近よくきゅうり買ってきて、浸けているなあとは思ったけど」

「夏野菜は普通に体温を下げるし、塩分も摂れるから。塩分を摂らなくても摂り過ぎてもようないから、基本的には普通の健康管理やねえ。いつもよりも水を摂ることだけ考えときぃ」


 文明の機器はいろいろできていても、健康管理だけは自己管理なんだから、いろいろ大変だ。


「なぁんか、本当に大変だよねえ……」

「なるちゃん、普段からズボラな癖して、考え込んで帳尻合わせようとせんでもええで? 普段通りでええ。まあ、あの生活続けとったら、普通に熱中症で倒れるから、ほどほどにしいってだけで」

「あはははははは……」


 そりゃひとり暮らしのときは、出先は冷房がガンガン効いているから熱中症対策よりも冷え性対策をしなかったら体がもたなかったし、熱中症対策について考えたこともなかった。

 今はそうじゃないから、ズボラで考えていなかったことも考えるようにしようとしているけど。なかなか難しいから、こうして健康オタクの真夜さんに頼りっきりになってしまっているというわけだ。

 台所からは、麦茶の香ばしい匂いが漂ってきた。


「まあ、前よりも考えるようになったのはええんちゃうのん?」

「そうかなあ?」

「せやせや。まあ、ちょっとはご褒美は必要かなあ」


 そうぽつんと言うと、真夜さんはガサガサと台所の棚を漁りはじめた。

 漬け込んでいた梅シロップの瓶が出てきた。

 真夜さんはシロップを入れていた瓶に菜箸を突っ込むと、さっさと梅の実を取り出した。


「これどうすんの?」

「んー、そろそろシロップだけにしたいっちゅうのがひとつ。もうひとつはお菓子づくりやねえ。梅の実でゼリーでもつくろうかと思て」

「甘いもん食べ過ぎるなーって、普段から怒るのにぃー」


 私が揶揄混じりに言うと、真夜さんが「阿呆」と言う。


「今更やろ、そんなもん」


****


 梅ジュースをありがたく飲み終えた私は、台所で真夜さんとゼリーをつくることにした。

 取り出した梅の実と、梅シロップを水で割ったものを小鍋に入れる。少しだけ冷やすから、味が落ち着く分、気持ち甘めになるよう調整してから、粉寒天を投入する。


「ゼリーってゼラチンだと思ってたんだけど」

「んー、寒天でもゼラチンでもどっちでもええけど、寒天のほうが早く固まるからかなあ。ゼラチンは冷やさな固まらんけど、寒天は常温でも固まるから、扱いやすいと思うで。ほら、鶏炊いたあとのゼラチン質、冷めたらすぐ固まる癖して、熱入れたらすぐ消えるやろ」

「あー……たしかに」


 ゼラチンはコラーゲンだから、肌にいいとか言われているものの、ケースバイケースって感じだなあ。

 粉寒天が完全に溶けたところで火を止め、ゼリー液と実をごろごろと調整させながら、器に盛る。


「実がこうしてごろごろ入っていると、売り物みたいだよねえ……」


 前に買ってコップとして使っていたゼリーの器に梅ゼリーを入れると、本当にそう見える。


「それは褒め過ぎやろ。梅自身、夏にはええもんよう入っているから、積極的に食べたほうがええってだけや。これなら食べやすいやろ」

「うん。梅ジュースもおいしかったし、ゼリーも楽しみ」

「ま、冷めたら冷蔵庫に入れて、夕飯のデザートにしようか。今晩は冷蔵庫の中のもんの掃除かなあ……」


 そうのんびりと言う真夜さんに、私は釣られて笑った。

 まだ本格的な夏にはなってないし、湿気もまだそこまでない。

 きっと今くらいしか、この暑さを楽しめる季節はないんだろうなあと思う。

 でも、今はそこ暑さを楽しめる余裕を味わおう。

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