せっかくの
あれから何回か探してみたけどいない。
なんであいつ名前知ってるんだろ。
でも、なんか嫌われてることは確かだな。
振り返ったけど、ニコりともしなかったし。まぁいっか。
友達に聞く勇気なんてないし、ただただ毎日が過ぎて、いつものバイトに行って卒論書いて、就活する。あーいやなこった。それから宇佐美と出かける約束が出来たからその毎日に宇佐美とのデートが追加されるんだろ、どうせ。
彼の誘い方はふつーすぎるくらいふつーだった。
『二人で遊びに行きたいのだけど、どうかな。』
はい、予想通り〜。
驚く理由もないし、分かってたから、今度の土曜日に行くことになった。
いつものように可愛い格好して、背が高過ぎないヒール履いて少し可愛いメイクして。はい、完成。あざとい小春ちゃん。
宇佐美の方を見ると少し緊張してそうだった。まぁそうだよね、きっと告白するんだろうし、がんばれ。
うわ、他人事だな、わたし。
こういう普通中の普通タイプはきっと無難に少しオシャレなお店を選ぶ。
「小春ちゃん、イタリアン、大丈夫かな?」
「うん。むしろ好きだよ。」
ほら、喜んでる。
イタリアンって、本当に普通中の普通の男ね。
さぁ、告白しなさいよ、早くしたらいいわ。
けれど、彼は待っても待ってもしなかった。
勇気がないんだろうな。しょうがないな。
「宇佐美って話してると楽しくて時間忘れちゃうね。」
さぁ、コクりなさいよ。
ついに彼は口を開けようとした。
その瞬間、冷たい感触が太ももを伝った。
「お客様、大変申し訳こざいません。こちらで乾かしますのでいらしてください。」
わたしの頭の中は冷たいワインの感触より告白のことより久々に聞いた彼の声で埋め尽くされていた。
でも、どう考えてもわざとだから問い詰めてやった。
「どういうつもりですか。」
「今すぐ鞄を持って来い。」
「何様ですか」
「早くしろ。」
「デート中です。無理。」
「さっきまでの出来上がった可愛い子はどこへいってしまったんでしょう。」
急に優しい声で言ってきたので、はっと我に返った。
「どういうつもりですか。」
「好きでもない男とお前は付き合うのか。」
と聞かれて何も答えられず、大人しく従い、バイト上がりのこいつとタクシーに乗った。
「どこへ向かうつもりですか。」
「さぁ、どこでしょう。」
あーはいはい。ホテルね、どいつもこいつも男はやりたがり。
「ホテルなんて行きませんよ。」
ぎくっ
着いたのはわたしの家だった。
そして、下りたら学生証を渡された。
「はい。落し物ですよ、ビッチの小春ちゃん。」
そうして、彼は笑顔で立ち去った。