武術
筆者の他作品、「【連載版】この日、偽りの勇者の俺は真の勇者の彼を追放した」と「こちら冒険者ギルド、特殊調査官! 貴方に魔獣の情報をお届けします!」も最新話投稿しています。下記から飛べますので是非ともお読み下さい!
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「何故だッ、何故そうも諦められるッ!?」
交わされる剣戟の中、ビアンカは切羽詰まったかのように語り始めた。それはエンリケを責める声だった。
「初めからそうだ! 貴様の目は全てを諦めている! それは何故だッ!?」
「それをお前に語る必要があるのか?」
「ぐっ、うるさい! 貴様に分かるか!? 生殺与奪を他者に奪われ生を送る屈辱を! 汚泥を舐めるしかない苦渋を! そんなのは生きているとは言わない! なのに、初めから他者に命を明け渡そうとするなど何を考えている!!?」
「知らんな……! 語りもしないのに勝手に怒り、恨み、憎しみをぶつけられては分かるはずもないだろう」
「貴様もだろうが! 何も語らず、知った風な体を装って勝手に行動する! 例のファミリーとやらの関係もなんの相談も報告もなかった。そんな奴をどうして信頼出来る!?」
「……中々痛い所を突くな。正直、結構グサッときたぞ」
エンリケは語らない。それは別にコロンらが嫌いだとかではなく、語る必要性がないと感じているからだ。
自らの過去の経緯を語ってどうする? そんなの、同情されて変な空気になるだけだ。
《ボンターテ》との関係を語ってどうする? そんなの、変に警戒されてギクシャクなるだけだ。
その点ではビアンカの意見が正しかった。
何も言わない輩を信じられるはずもないだろう。結局の所、難儀な自らの性格のせいだ。身から出た錆という奴だ。
「だがそれはそれとして、余り一方的に言われるのも不愉快だな」
エンリケは自ら手に持つ武器を手放した。
(!? バカな、手を犠牲にするつもりか!?)
予想外の行動にビアンカの太刀筋が乱れた。エンリケの手を両断してしまうと感じ、力を緩めてしまう。
歪んだ太刀筋を矯正するために変な部位に力がかかった曲刀。
それがエンリケの狙いだった。
ブレた軌跡を描く曲刀。
腕とぶつかると同時に、パキンと曲刀が折れた。
「なっ!?」
驚愕
驚嘆。
何が起こったか分からず、半端から折れ空中を舞う刀身を見つめる。
その時エンリケが動いた。拳を構え、彼女の残った曲刀を叩き落とそうとする。無論、ビアンカは衝撃から立ち直り、それを受け止めた。
「ぐぅ……!? (何だこの拳の重さは……!?)」
先程とは違う鈍く響く。
ビアンカをして、重い一撃だった。
エンリケがビアンカに向かって蹴りを加えた。
ビアンカはそれを食らってしまうが、それでも咄嗟に後ろに飛び威力を殺した。
それでも予想よりも飛ばされた。
蹴りもまた、威力を増していたのだ。
「なんなんだ貴様はッ」
警戒するビアンカとは対照的にエンリケは悠然と佇んでいる。
「もっとけ。割るなよ」
「……ぇ?」
エンリケは不意に眼鏡を外すとティノに渡す。
これからの戦闘で、眼鏡が割れると判断したのだ。
受け取ったティノはオロオロとエンリケと眼鏡に視線を彷徨わせる。
それを気にすることなく再びエンリケはビアンカを見る。
無機質な瞳。
諦観の色を浮かべていた先程とは違う、昆虫みたいな目に、奇妙な違和感。
不気味だ。
ビアンカの額に汗が流れた。
「お前が剣術で闘うというのなら、俺は武術で闘らせてもらおう」
コキリと指を鳴らし、エンリケは拳を構えた。
《灼煌帝》と呼ばれる国がある。
広大な土地に、膨大な人々が住み、比べ物にならないほどの独特の文化と発展した技術を持つ国だ。
その国は体術が盛んで『拳闘大会』と呼ばれる大会が開かれて、数多くの武術家、流派が凌ぎを削りあってお互いに切磋琢磨しあう正に国民一人一人が戦闘民族と言っても過言ないほどに誰もが武に生きる、正に武人の国。
それこそがパルタガスに語った『大海の七不思議』である《黄金大陸》の正体であった。
そして彼らが扱う特殊な武術、"五武闘"。
闘極拳とも呼ばれるこれは、その名の通り5つの流派が存在していた。
焔炎拳、洪水拳、槌重拳、樹木拳、硬金拳。
エンリケが習得したのは硬金拳であり、五つの中で最も防御に適した武術であった。
それは生身でありながら鋼のように硬くなるというもの。
その強度は最高峰に位置する武人になると山の如き圧倒的質量の攻撃を受けても無傷にいられるほどに強靭な身体となる。
それによりエンリケは大凡逸脱した身体の硬さを手に入れた。
それはブラジリアーノの攻撃を受けて尚生きていた事が証明している。
「ぐっ、何の武術かわからんが自分をなめるなぁ!」
ビアンカはエンリケの腹部に向かって蹴り上げる。
意趣返しのつもりだった。だが、その痛みに唸ったのはビアンカの方だった。足首が酷い痛みを訴える。
その隙にエンリケは拳を振るう。
「《鉄兜割り》」
鎧すら凹ます硬金拳の武術。
ビアンカは躱すも回避した箇所の甲板が、朽木のように割れた。
「あぁー!! せっ、折角直した甲板がぁッー!!」
リリアンが何やら騒ぐが、エンリケもビアンカも気にしない。
二人は攻防を続ける。そんな中、ビアンカが顔をしかめた。
「ぐっ(さっき食らった所が痛む。次食らえば動くこともままならないか……!? ここは、様子見を)」
「どうした? 怖気付いたのか?」
そんなビアンカの内心を見透かしたように、これ見よがしにエンリケは手をクイクイと挑発する。
「っ! 貴様ぁ!」
突貫するビアンカ。
突貫し、猛撃、突風の如き苛烈な剣撃を放つ。
しかし、いずれもエンリケに何ら痛痒を与えていなかった。
苛烈だが太刀筋のわかりやすい攻撃に合わせ、その部分を硬くすれば剣は文字通り刃が立たない。
(とはいえいつまで持つかだな)
既にエンリケは息が上がり始めている。
そう、普通であればエンリケがビアンカに勝てる道理はない。
いくら身体を硬くしても技量に差があれば相手からすればただタフなだけだ。ビアンカが一流の剣士に対しエンリケは謂わば二流、いや三流の武術家。そも戦いの為の身体の基礎からして埋めがたい差がある。
ビアンカが生粋の戦士に対して、エンリケはあくまで医者なのだ。冷静に対応し、エンリケのスタミナが切れた所を狙えばいずれ倒せる。
しかしビアンカは得体の知れない武術とエンリケへの苛立ちから視野が狭くなり、技の繊細さを欠いていた。当然そんな威力ではエンリケの硬金拳で固められた身体を貫くことは出来ない。
だからこそ両者は拮抗していた。
「くそっ、くそっ。なんでだっ! 何故倒れない!?」
苛立ちと焦燥。
ビアンカはそれを振り払うようにより苛烈に攻撃する。そしてそれをエンリケは防ぐ。負の悪循環だ。ビアンカの思考は、黒い感情に染められていく。
何故自分はこんなにも追い詰められている。
何故自分はこんなにも手玉に取られている。
相手は戦士ではない。
なら負けるはずがない。いや、だが全く攻撃が効いていない。ならば追い詰められているのは自分なのか? ばかな、こいつは自分よりも弱い。だが、攻撃は届いていない。なら、負けているのか?
何故だ。何故。
そうだ。
そう。
全ては自分が弱いせいだ。
「負けないッ! 自分はもう負けないんだッ!!」
叫ぶビアンカ。
そんな彼女の脳裏に過去の記憶がよぎった。
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