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逃亡劇



「ほう、ならばサルヴァトーレはもはや壊滅状態か」

「はい。それに加え癒着していた衛兵も殆どが敗れています。これではこの街の治安が荒れる可能性があります」

「仕方あるまい。腐った連中が排除された事を喜ぼうではないか」


 報告を受けたパルダガスは深く椅子にもたれかけた。


「しかし、本当に仲間を取り返すために、一つの組織を敵に回し、あまつさえ本当に潰すとは」


 煙草を吸う。

 そのまま頰を釣り上げた。


「まるで10年前の再現だな。あの時の若造も、こうやって目の前に立ちはだかる敵をなぎ倒していったな。だというのに何処か人を惹きつけるような男だった。あの小娘もだ。奴にそっくりだ。なるほど、だからか。エンリケ・ツヴァイク。貴様が付き従うのは」


 懐かしい光景に想いを馳せる。

 《いるかさん号》の起こした出来事にパルダガスは過去の出来事、そして何よりゼランの面影を見た。


 その時別の部下が部屋に入ってきた。


「ボス、報告が。港の方にある例の兵器を積んだ船も動き出したとの事です」

「そうか。さて、奴らがここから出るにはまだ少し危ういな。少し手を打つとするか」









夜明けが近付いていた。

昨日の昼から始まり、夜まで続いた戦いは遂に終わりを迎えようとしていた。


 付近には倒された《サルヴァトーレ》の構成員や、衛兵がいる。


 ここまで来ると、リリアンとミラニューロテナガザルによって倒された"俊走竜(ヴェロニキス)"の衛兵以外にも、衛兵が集まってくる。

 最早疲労困憊のコロンでは数が多く倒すのは無理だっただろう。

 だが


「な、何だアレは!?」

≪ギュオォッ!?≫

≪グギャオォオォォォォッ!!≫


 地響きだけて蹴散らし、港へと向かう。

 "戦顎竜(ティラゴサウルス)"は集まろうとする衛兵を蹴散らし、歩みを進めていた。


「おぉぉぉ!! いいぞいいぞ進めゴス!」

「行くでありますゴス!」

≪グギャオォォォッ!!≫


 二人とミラニューロテナガザル達の声援を浴びながら"戦顎竜(ティラゴサウルス)"は進み続ける。

 やがて海が見え、船が陳列していた。


「港に着いたであります!」

「そのようだな」


 二人して頷く。

 遠くには(タツ)の牽引する《いるかさん号》が見えた。


「さるしからの報告じゃもう皆既に船に乗ったとの話であります!」

「そうか! だが衛兵から逃れる為か、沖合まで行ってしまってるな。皆が私達を安全に回収出来るように、ここは一帯の敵を倒すしかないか」

≪グゥゥ、グギャオッ!≫

「えっ、本当でありますか? ……せんちょー! このカッコいい竜が船まで飛ばしてくれるらしいであります!」

「本当か! ……ん? 飛ばす? おわぁっ!!?」


 "戦顎竜(ティラゴサウルス)"がその場で回転し、遠心力をつける。そしてそのまま尻尾で思い切りコロン達を飛ばした。


≪グギャオォォォッ!≫

「ばいばーい! ありがとうでありますゴス!」

≪うきぃー!≫

≪うきゃきゃ!≫


 空に飛ばされてつつ手を振りながら別れを告げる。


「これまでありがとうなゴスー! ってそんな場合じゃなかった! リコ、これからどうするだ!? このままじゃ私達は海に落とされるぞ!」

「ふっふっふー、それに抜かりはないであります! 賢いリコであるゆえ!」


 飛ばされつつリコは海面を見る。

 みるみる《いるかさん号》に近付くも高度は高い。


 やがて《いるかさん号》の真上に差しかかろうとした時号令を発した。


「みんなぁ!! 手を繋ぐであります!!」

≪≪≪うっきっきー!!≫≫≫


 ミラニューロテナガザル達が手を繋ぎ、宛ら長いロープのようになる。

 同じく《いるかさん号》に残っていたミラニューロテナガザルが彼らの手を握り、船の甲板に引っ張った。

 一同は甲板に着地することが出来た。


「やっと帰ったであります!」

「お、おぉっ。どうなることかと思ったが楽しかったな! ナイスだリコ!」

≪≪≪うっきっきー!≫≫≫


 一気に騒がしくなる船内。

 全員がそれぞれの健闘を讃える。


「お、おかえりコローネ。迎えに行こうと思ったら空から降ってくるとは思わなかったわ」


 引きつった顔で迎えたのはリリアンだ。

 彼女はビアンカとオリビアと合流した後、一度船に戻った。夜が近付き、戦闘能力が衰えたビアンカでは無理だったから仕方なかったのだ。

 最も、入れ替わるように《ボンターテ》の構成員が周囲の《サルヴァトーレ》を掃討したのでコロンらの元にディンと戦闘中、敵が来ることはなかった。


「おぉ、ただいまリリー! 例の《サルヴァトーレ》のモンティーズとやらは私が思い切り殴っておいたぞ! だから」

「コロちゃん!」

「おぉ、オリビア! 無事だったか!」


 猿混みをかき分け、オリビアがコロンに抱きつく。


「あぁ、こんなに傷だらけになって……! リコちゃんも、お猿さんの皆も、わたしの為にごめんなさいっ。無事でよかった……っ!」

「ぬぁーはっハッー! 良い良い、気にするな! 船員を守るのは船長の役目だ! わぷっ!? ん、んー!?」


 オリビアに抱きしめられ胸に顔を思い切り埋められる。


「本当に、本当によかった……!」

「ん〜!? ん〜〜!!」

「あ、あのオリビアさん? コロっちが苦しがってるよ?」

「はっ、ご、ごめんなさいコロちゃん!」


 クラリッサが指摘するとオリビアは慌てて離した。

 甲板に尻餅をつきながら、思い切り息を吸い込むコロン。そんな彼女に影が出来る。視線をあげるといつものように眉間に皺のよったエンリケがいた。


「戻ったか。その姿、かなりの激戦だったようだな」

「キケも、オリビアを救出してくれてありがとうな!」

「すべき事をしただけだ。それよりも、さっさと手当てさせろ。簡易だが、今すぐ傷を見てやる」

「あ、待て待て! 医務室に連れ込もうとするな! 私はまだ号令を発していない!」


 こほんっと咳払いする。


「皆!! 私達はオリビアを奪還した!! 船も修理し、食料も蓄えた! だから我々は今から《未知の領域》に向けて出航する!!」

「「「おぉー!!」」」

≪≪≪うっきっきー!≫≫≫


 全員が歓声を上げた。


「皆帰って来たし、直ぐにこの港湾都市から離脱するわよ!」

「りょーかい! タツ! 全速力でお願い!!」

≪クウゥッ!≫


 (タツ)が海をかき分け、進んでいく。

 途中途中、その場から動けない船が多数存在していた。


「やはり船の方にも襲ってきてたのか。よく他の船から今まで無事でいられたな」

「くははっ、指導者よ。奴ら方舟に乗ったはいいが、所詮は陸に住まう事を宿命付けられた生命。羽《帆》を失えば水に落ちた蟻に過ぎない。憐れな犠牲者はその身をよじることしか出来ん」


 要するにノワールが来ようとする船の帆を繋ぐロープを全て切り落としたのだ。船は人力でしか移動できなくなり、その速度ではタツの牽引する《いるかさん号》に追いつけなかった。


「おぉ、さすがだなノワール!」

「ふはははは! ……それでそろそろ朝だから自室に戻って良いかな? すごい眠い……」

「あ、あぁ。そうだな。ゆっくり休んでくれ」


 のそのそと先ほどのテンションは何処へやら、ノワールは自らの部屋へと戻っていった。

 その様子を怪訝そうにエンリケはコロンの怪我を治しながら見つめていた。


「何だアイツは。低血圧か?」

「んー、昔からノワールはあんな感じだ。朝が近づくと途端に弱気というか、テンションが低くなる」

「そうか……。もしやあっちが素なのか?」


 どうやらあのキャラを作っている疑惑が湧いてきた。

 今度問い詰めてみるかとエンリケは決意する。



 ーードォォンッ!



 急に轟くような音が鳴った。

 すると《いるかさん号》よりは遠くに水柱が立った。


「何よあの武器は!? 」


 リリアンが慌てて望遠鏡を見て驚く。




 それは最後の最後にモンティーズが仕組んだ仕込みであった。

 負けるとは思っていなかったが、それでも(タツ)に手間取った際に殺す為に彼は遠距離でも殺せる兵器を渡していた。


 それは"大砲(・・)"であった。

 内部にある"爆破石"に衝撃を与える事で爆発し、その衝撃で弾を撃ち出す。


 その威力、射程は《いるかさん号》にあるバリスタや投石機を上回る。

 再び水柱があがる。今度は《いるかさん号》より近く、船が揺れた。


「あっ」

「ティノちゃん!?」


 大幅に揺れた拍子にティノが船外へと身を

 子どもだから大きな揺れに耐えられなかったのだろう。


 落ちそうになった時、エンリケが手を伸ばしティノを甲板へと引き戻した。


「う、ぁ、あ、ありがとう」

「問題ない。それより船内に戻っていろ。オリビア、お前もだ」

「それは、いえ、わかりました」


 力の弱い自分では足手纏いになると悟ったのだろう。オリビアはティノを連れて船内へと戻った。


「ど、どうしようコロっち! このままだとあたし達アレに沈められちゃうよ!」

「ぐぬぬ、こうなったら多少被弾覚悟で突っ切ってあの船を先に制圧しよう!」

「落ち着け。"大砲"は確かに強力な兵器だが命中率はそれ程高くなく、連射もできん。速度差がある以上、そうそう当たるものではない。だから寧ろ早くこの海域から離れるべきだ」


 《地平を征する大魚(メビウス・バハムト)》にも"大砲"は整備されていた。その性能についても知っている。


 その上でタツの機動力ならば回避できると踏んだ。


 しかし新たに2隻別の方向から"大砲"が放たれる。


「……まぁ、多数から囲むように砲撃されたらどうしようもないが」

「じゃあ駄目じゃない!?」


 至極真っ当なツッコミをするリリアン。

 その間も水柱はあがる。(タツ)が必死に回避している。もし(タツ)がいなければ早晩《いるかさん号》は沈んでいただろう。


「ノワールを呼び戻しなさい! 多少無茶させちゃうけど、あの子にあの船の帆を切って動きを止めるしかないわ!」

「わ、わかったわっ。あっ、でもあたしよりもアリアの方が陸だし早く歩けるわっ」

「ま、まってくれ。揺れが激しくて気分が、う、おえぇ」

「アリアァッ!?」

「そうだった、アリアは初期の頃よく船酔いしてたから激しい揺れはダメだった。いやぁ、懐かしいな」

「だからコローネ落ち着いてる場合じゃないって!」

「わかっている。全員で生きて此処から抜け出す事。それがルールだ!」


 口調こそ軽いがコロンは何もしてない訳ではなかった。

 彼女はたまたま直撃コースだった大砲の弾を、錨で撃ち落とした。

 しかしそのせいで身体中にディンとの戦いでおった鈍痛がぶりかえる。


「いっつぅ……」

「馬鹿が! 貴様自分が重傷だとわかっているのか!?」

「わかって、いる。だが……」

「…………。はぁ、わかった。幾らでもしてこい。骨が折れようと俺が必ず治してやる」

「すまないキケ」


 しかしそんな心配も杞憂だったのか、幸いまた大砲の弾が直撃する事はなかった。


「このまま抜けられたら」

「ダメっ! 見て前を! 」


 クラリッサが焦った声を出す。

 見れば竜の旗を掲げた船が2隻、出入り口を塞ごうとしていた。


「ドラゴ国の兵士か!」

「あの船の数は不味いわ! ノワールを呼んでも、帆を斬って足止めするのに間に合わない!」

「わぁぁ! リコたち万事休すであります!!」

「おや、大将。キチンとしたことわざを使えているじゃないか。成長したね……。う、おえぇ」

「だからアンタはマイペース過ぎるのよ! てか吐いてるんだから反応するのやめなさい!」


 一か八か、突撃して抜けるしかない。

 全員がそう覚悟を決めた時、別の船が二隻のドラゴ国の船の前に現れた。


「貴様ら何をしているそこを退け!」

「おー、一体どうしたのですか。私たちは<未知の領域>から帰って来たのです。生鮮食の物もあるから早く港に入らないといけません」

「今はその場合ではない! どけ! 退かねば撃つぞ!」

「それはつまり我々に対して戦線布告ですと? 航海から帰ったと思ったらこの対応。流石に不快というものだ」


 もめているようだが、どうやらドラゴ国の船を妨害しているらしい。


「あれはまさか」

「あっ、ちょっと!」


 エンリケはリリアンから望遠鏡を借り、見れば、パルダガスの側近が此方にグッと親指を立てているのが見えた。


「……助けられたという訳か」


 何処まで読んでいたのか。食えん爺だと悪態つく。


「何だか分からないけどさっさと離脱するわよ! 」

「そうだね、捕まればそれはもう酷い目にあわされるだろう。きっと首も刎ねられるね。強者にとって制御できない者は鬱陶しい事この上ないのさ」

「リコたち本格的におたずねものでありますな」

「そんなの海にでた時点で覚悟していたことでしょうに! 」

「そうだ! 我々の目標は世界一周! その前に立ち塞がるというのなら、私達はその全てを超えていく! いくぞ! 《未知の領域》へ!」


 《いるかさん号》が加速する。(タツ)だけでなく、大きな風が吹き、船を後押しした。

 やがてはドラゴ国の船を置き去りにし、《いるかさん号》は大海原へと繰り出した。






 夜が明けた。

 砲撃が止み、静かになった海で面々は甲板で疲労困憊でへたり込んでいた。


 そんな彼女らに船内から出てきたオリビアとティノが水を配っていた。


「ふー……何だかんだで色々あったが、うむ! これにて一件落着だな!」

「ーーいや、まだ何も終わってなどいない」


 かつかつと甲板に現れたビアンカ。朝になったのでノワールと入れ替わりで来たのだ。


「む? ビアンカ?」

「ビアンカさん?」

「どうしたのよ?」


 怪訝に思う一同を無視し、ビアンカはエンリケの前に立ち


「何の用だ?」

「ーー自分と決闘しろ」


 そう告げた。

ビアンカの行動の真意とは? 次回もお楽しみに。

よろしければ評価の方よろしくお願いします。

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[良い点] 珍しいジャンル [気になる点] 大幅に揺れた拍子にティノが船外へと身を  子どもだから大きな揺れに耐えられなかったのだろう。 なんかおかしくないですか?気のせいだったらすいません [一…
2020/04/01 22:02 なりよし3世
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