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寡黙な幼女と饒舌な吟遊詩人 あとサルの大将

 部屋を出たエンリケは歩き、一度角を曲がった所で壁に寄りかかった。呼吸は荒く、足取りは覚束ない。視界も微かにだが(かす)んでいる。


「ぐっ、オリビアめ。量を間違っているぞ。一体どれほどの量を入れたのだ。下手をすれば死んでいたな…...」


 確かにオリビアが入れた痺れ薬は身体の身体機能を麻痺させる程度の効力だ。だが多量に摂取すると心肺器官などに悪影響を及ぼす。解毒剤を速やかに飲んだことで緩和されたがそれでも結構な量を飲んでいる。


 壁にもたれながら移動するが動きは遅い。途中船の動きに足を取られ何度かコケそうになる。

 解毒剤はあれで最後だ。常備していたのは海に落ちた際殆どが駄目になっていた。


 暫し歩くが途中で限界を迎え樽の上に座る。


「くく、笑えないな。薬師が薬が足りなくて死ぬなど笑い話にもなりはしない。だがあいつならば笑うだろうな、くく…...ぐほっ、ごほっ!」


 自嘲(じちょう)気味に笑いながら咳き込む。心肺器官にも影響が出ている。

 落ちつかせる為に目を閉じ深く呼吸する。そしてまた咳き込む。

 僅かにだが熱も出ているようだ。

 もしこれで死んだら化けて出てやるのも悪くない。そう思いながら、エンリケは意識の底に沈んでいった。




 どれくらい経ったのだろう。

 目を瞑っていると不意に何かの気配を感じた。


「…...」


 薄く目を開ければ目の前に小さな幼女が此方を伺うように見ている。亜麻色の髪を左側にサイドアップし、白いフリフリのシャツに赤いスカートを履いている。肩から腰にかけ、幾つかポケットのついた鞄も持っていた。

 全体的に質素な服装だ。

 

「何だ? 悪いが金品となるものは持っていないぞ」

「…...ぅ!」


 話しかけられると思っていなかったのかビクッと震えワタワタとエンリケから離れ、樽を盾にこちらを伺う。

 そういえば昨日のオリビアが紹介していた気がする。確か名前は......


「ティノとか言ったか」

「…...っ!」

「悪いが今は構っている余裕がない。放っておけ。用があるなら医務室に行くといい。今ならまだオリビアがいるはずだろう。だが俺の事は言うな。分かったな」


 一方的にそれだけ言って再び目を閉じる。正直余り余裕がない。

 少し間が空いた後足音が離れていったので去っていったのだろう。


 …...と思ったら再び足音が聞こえ、エンリケの前で止まる。

 クイクイとズボンを引かれ、億劫そうに目を開ける。


「…...!」


 プルプルと震えながらも懸命に差し出す手に持っているのは水と何かの錠剤だった。


「何だ。これは毒か何かか? 飲めば俺は安らかに死ぬことができるのか?」


 ティノはブンブンと頭を振った後ぐいぐいっとこちらに押し付けてくる。

 飲めっと目は語っていた。

 勢いに押され、エンリケは錠剤を口に放り込みコップを仰ぐ。

 暫くするが体に何の異常もない。いや、寧ろ僅かにだが体調が良くなった。

 エンリケは深く、毒素を出すように溜息を吐く。


「助かった感謝する。毒だと疑って悪かったな」

「…...!」


 素直に礼を言うとティノは顔を真っ赤にした後、奪うようにコップを手に取り離れる。

 途中で一度コケたがエンリケが何かを言う前に立ち上がりワタワタと去って行った。

 恥ずかしがり屋だろうか。その様子にくっくっくと忍び笑いを漏らす。


「行くか」


 体調を持ち直したエンリケは立ち上がる。次は甲板に行ってリコに会う必要がある。余りに遅いと不審がられるだろう。軽くなった足取りで上がるための階段を探しに行った。





「おそい! おそいであります! 約束の時間はとーっくに過ぎてるであります!」

≪うききぃー!≫


 開幕一番怒られる。頭にバンダナを巻いた女の子ーーリコは体全体を揺らして不満を露わにする。

 それを真似して側にいた猿も同じポーズを取る。


「リコは来るのを太陽の出る前の朝早くからずーっと待っていたであります! でももう太陽は真上であります! せんちょーからはすぐに来るだろうと言われたのにずっと待ちぼうけを食らったであります! そして忘れられたのかと思って寂しかったであります!」

「許してくれ。オリビアの説明が長引いてしまったのだ」

「むぅ…...それなら仕方ないであります」


 多少不服そうだが、理由が理由だけにとりあえずリコは納得した。


「でも遅刻には変わりないであります。それじゃ遅れた分を取り戻すためにバシバシと教え込むでありますよ! それに至ってはまずこれからはリコの事先輩って呼ぶであります!」

「…...了解した、先輩」

「先輩!! やっぱり良い響きであります!!」


 くぅーとリコは何度も頷く。


「この船に乗って一年。来る日も来る日もリリアン殿から小言を言われ、オリビア殿からは怪我をするなと怒られ、ビアンカ殿からは剣術をしこたま教え込まれフルボッコにされ、ノワール殿からは怖い話を聞かされ、アリア殿の難しい話にはついて行けず、クラリッサ殿からは小馬鹿にされる毎日。みーんなリコより先にこの船に乗ってでありますから頭が上がらず耐え忍ぶ毎日…...。でもこうしてやっと自分の下にも後輩がついたであります! リコはもう立派な一人前となったのであります!」


 感無量とばかりに拳を握る。その目には涙が浮かんでいた。周りの猿達もリコを拍手して喝采していた。


≪うきー!!≫

≪うきゃきゃっ≫

「うぅ、みんなっ、ありがとう!」

「前から思ったのだがその猿達は何という種なのだ?」

「う? ふぁみり〜達がでありますか?」

≪うき?≫


 全く同じようにリコと猿達が首をかしげる。


「あぁ、見た事がない種なのでな。少し気になる」

「せんちょー達が言うにはさる介達はミラニューロテナガザルって言うであります! 」

「ミラニューロテナガザル…聞いたことないな。テナガザルの名の通り手は長い。だが毛並みがそこまで長くないのであれば熱帯地域の種か? 食性はあの時の猿がバナナを食べていたから果食動物と思うが…いや決めつけるのはよくないか」

「こーはいが何を言っているか分からないでありますがみんなはリコのふぁみり〜であります」

「ふぁみりー? …...家族か」

「そうであります、リコはふぁみりー…...計88匹からなる大家族であります」

「なるほど、それはすごいな」

「む、疑ってるでありますな。なら証拠を見せるであります!」


 リコは小走りで離れた後、樽の上に飛び乗り、大きく息を吸って


「集合ー!! であります!」


 その言葉に一斉にマストの上に、手摺に、樽に、バリスタに、船首に、甲板にいた猿達があつまる。さすがにギョッとする。

 全幅九メートルの甲板に整列する猿達。その光景は筆舌に尽くし難い。


「紹介するであります。左からさる美、さる助、さっつん、ごろ助、おっぽ、しろげ、さるるん、さっぽう、さる男、白手ーー」

 その後もリコは一匹一匹の名前を淀みなくすらすらと読み上げる。

「ーーきすけ、白毛、ほくろ、赤ほっぺ、石投げ、さる吾郎であります。分かったでありますか?」

「…...いや待て見分けがつかん」

「そんな事ないであります! さる助は眉毛がきりっとしているでありますし、さっつんは毛並みが他のふぁみりーよりつんつんしているであります。ごろ助は寝るのが好きだから瞼もトロンとしてるでありますし、おっぽは尾が長いであります」

「むぅ」

≪うっきぃ?≫

≪うきゃきゃっ≫

≪うきゃうっ!!≫

≪うききぃん≫


 ジッと見るがやはり分からんと首を振る。

 それにリコはえっー! と顔をし、猿達も一斉にブーイングする。中には中指を立てる猿もいた。

 イラッとしたが動物相手にキレるのも大人気ないし、船医として細かな違いは覚えるべきだと気を引き締める。


「すまない。なるべき早く覚えるよう努める」

「しょーがないでありますなぁ。まぁ、リコはセンパイでありますし? ダメなこーはいを見るのをセンパイの仕事であります!」

「頭が下がるばかりだ。普段はこの猿達がこの船で働いているのか?」

「そうでありますよ。普段はみんな働いているであります。今からそれを見せるであります。みんなー、集まってくれてありがとうであります。もう仕事に戻って良いでありますよー」

≪≪≪≪≪うっきっきー≫≫≫≫≫


 元からリコについてきていた猿以外全ての猿が解散し、それぞれの持ち場に戻る。そして仕事を始めた。


 その仕事ぶりを見ていたエンリケだが猿は思った以上に優秀だった。というか、もはや人間以上に器用な猿に舌を巻く。当然ながら帆張りは重労働かつ繊細(せんさい)な作業だ。帆の形が崩れれば受ける風の力も変わってしまい、思わぬ方向へ船が進む事になる。故に帆張りは重要な仕事だ。それを任せられているということはそれだけ腕に信頼があるのだろう。


 他の猿達もバリスタの整理だったり、甲板の掃除だったりを各々(おのおの)丁寧に仕事を行なっていた。


モノマネ猿(ミラーニューロン)、なるほど言い得て妙だな。ん?」


 そんな猿達の仕事ぶりをみていると見覚えのある人影が視界に入った。

 腰まである白い白髪に腰に曲刀を携えた鳥種の女(ビアンカ)

 船の前方、マストの近くではビアンカが片腕だけで逆立ち腕立てをしていた。


「どうしたでありますか? お? おーいビアンカ殿ー!」


 ビアンカに気付いたリコが大声をあげて手を振る。

 ちらと此方を見るがそれだけで、すぐさま訓練を再開した。


「ビアンカ殿はいつもああやって自らを鍛えているのであります。力はせんちょーには及ばないでありますが、その強さはいるかさん号随一でリコ達も憧れているであります!」

「戦闘員という訳か。確かに、海において飛行出来る鳥種相手に取り得る手段はほぼ皆無に等しいな」


 海での戦いは手段が限られている。遠距離ではバリスタや投石機を使って攻撃するが、船の揺れ、風の影響、お互いの船の移動速度、タイミングなど様々な要素が複雑に絡み合う為命中率が非常に低い。その為、遠距離武器は専ら牽制用で船同士の接近戦で勝負をつける。だがこれはお互いに損傷が激しい為、目的がない限り牽制だけで終わるのが海賊同士の戦いの生業だ。


 そんな中、自由に飛行出来る鳥種というのは非常に厄介だ。空中という障害物が何も存在しない空間に三次元的な動きと速度のせいで遠距離武器は当たる可能性などなく、降りて来てもすぐさま船の外に逃げられるヒットアンドウェイの戦闘スタイルを取られると対処のしようがない。此方の攻撃は当たらず、向こうの攻撃ばかり当たる…まさに相手から見れば悪夢みたいな光景だ。


 ふと空を見上げる。理由はあの空を自由に飛べるのはどんな気持ちだろうかと思ったからだ。そんなエンリケの目に入る光景。


 一番大きな横帆を張るメインマスト。

 そしてその頂点で(たなび)く海賊旗。黒ではなく青地で髑髏マークといるかが一緒の旗だ。

 そしてその海賊旗の下にあるずんぐりとした建物。これだけならばエンリケも何も思わなかった。だがその建物に登るためのロープがない。余りにも不自然だ。


「あの家は何の意味がある。見張り台か、それとも誰か住んでいるのか? 」

「む? あれでありますか? 知らないであります。でもせんちょー曰く『船がきちんと進むように守護する風の霊が住む所』らしくて、あそこには立ち入りは禁止されているであります」

「風の霊? なるほど、船霊(ふなだま)(まつ)るようなものか」


 船旅というものは先が見えない不安の連続だ。一向に変わらない光景。次第に減りつつある食糧。本当にこの航路であっているのか。間違っていないのか。

 だから船乗り達はこうやって航海がうまくいくよう精霊や女神などに航海がうまくいくよう祈りを捧げる場所や女神を模した船首も珍しくない。


「船()? なんだか丸っこくて可愛そうな名前でありますな!」

「......まぁ、霊だからな。そんなのもいるかもしれん」


 リコの暢気な声を聞き流していると風に紛れて、何か鳴る音が聞こえてくる。


「この音は...…」

「何でありますか? む、この音は...…こーはい着いて来るであります。確かこーはいはまだ会ってないはずでありますから」


 リコに連れられ船の後方にいく。その後をぞろぞろと猿達も追う。次の瞬間エンリケは目を奪われた。


 そこに居たのは一人の少女。


 黄緑色のフェドーラ帽を被り、その下から艶のある橙色ーー先に行くにつれ、赤、青、緑とグラデーションのように変化しているーーが首筋辺りまで伸びている。


 全体的に深い青のフェルト生地で作られた衣装を着、その上に別の赤色や黄色などの上着を着ている。刺繍や飾りも細やかでこれまた何処かの貴族が着るようなものに見える。

 全体的に見て彼女の衣装はコフテと呼ばれるものに似ていた。

 だが所々異なる箇所があったり、靴もスカッラ(先がとがり反り返った鹿などの皮で作られ靴)ではないなど完全にコフテと酷似しているわけではない。


 全体的に鮮やかなので派手派手しいと思えるが、不思議と落ちついた感じに思える奇妙な感覚に襲われる。


 手に持つパイプに似た楽器もエンリケは見た事なかった。


 そんな彼女が船の手摺に腰掛け、演奏を奏でている様はそこだけ別世界のように切り取られ、絵画のようだった。


 音が止まり、彼女がこちらを見る。


 変わった瞳の色だ。琥珀色と黄緑色と紫色の異なる色が混色し、調和した瞳。

 それなりに生きたエンリケも見たことない色だった。故に話しかけられた時に年甲斐もなく戸惑う。


「やぁ、体調はもう良いのかい。客人(まろうど)さん」

「…...あ。あぁ、もう大丈夫だ。俺のことを知っているのか?」

「そりゃ勿論。この船に乗った唯一の男性だからね。知らない方がどうかしているさ」

「そうか。今のは君の演奏か?」

「そうだよ。それがどうかしたのかい?」

「いや、非常に素晴らしかった。まだ聴いていたいと思えるほどに」

「リコもそう思うであります!」

「そうかい、ありがとう。ボクはアリス。アリア♫フィールド。よろしく頼むよ、客人(まろうど)さん。そうだ歓迎の一曲を奏でてあげよう」

「さっきのは曲ではなかったのか?」

「あれはただの試し弾きさ。この楽器、あぁイリアン・パイプスって種類の楽器なんだけれども音を奏でる際この皮袋に空気を送りこんで(ふいご)と呼ばれるこの部分を使うんだ。だけど海の上にいると潮風や温度によって内部に送られる空気が変わって音も変化してしまうから今調節をしていたところさ。中々うまくいかなかったけどやっと調子が出てきた所だからね。是非とも聞いてほしい」


 人好きのする笑みを浮かべながらアリアが説明する。そこまでされては断る理由もない。

 エンリケは頷いた。


「それじゃ、奏でようか。そうだね…『汐風(しおかぜ)に誘われて』にしよう」


 アリアが手に持つイリアン・パイプスの皮袋に空気を送り音を鳴らした。





 例えるならばそれは大海原をかける一つの帆船。航跡を残し、風の向くまま気の向くまま何処までも走り続ける。その先に何があるのか、風だけが知っている。





 そんなのを幻想する程に卓越した演奏だった。


 エンリケは勿論リコも聴き入り、いつのまにか集まった猿達も聞き惚れていた。


 音は時として脳や魂に刺激を与え、目に見えないはずのものを見せたりと影響を与えるという。


 音楽について多少の知識があるエンリケはその事を思い出した。つまり、アリアという少女はその領域に達していることになる。この若さで。


 やがて演奏は終わる。

 猿達は惜しみない拍手を送った。エンリケも数回、しかししっかり手を叩く。


「素晴らしい。これほどの演奏は聴いたことがない」

「リコもであります! やっぱりアリア殿の演奏はさいこーでありますな!」

「ありがとう。喜んで貰えて嬉しいよ。余り褒められても照れるけどね」


 はにかみながら、頰をかき笑うアリア。それに合わせて目の色合いが変化する。先程も気になっていたが好奇心が抑えきれずつい質問する。


「すまないが、不愉快でなければ教えて欲しい。何故君の瞳はそのような不可思議な色合いを持っているんだ? 何か理由があるのか?」

「ボクの瞳かい? そうか、君…あぁすまない、歳上に対し失礼だと思うがこの口調は失礼だと思うけどこれはボクの口癖みたいなものでね、許してくれないか?」

「別に気にしてなどいない。この船においては俺は新参者だ。それにその程度の事先程の演奏の駄賃として好きにしてくれ」

「そうかい、ありがとう。それで話を戻すけどボクの種族は《奏唄人(ハーモミューズ)》でね、混色する色合いこそ異なるけど皆んながこんな瞳をしているんだ」

「《奏唄人(ハーモミューズ)》か。噂には聞いていたが見るのは初めてだ」


 世界には様々な種族が存在している。世界人口の四分の1を占めるという普人族。体に獣の特徴を宿した獣人族。半魚人、人魚が存在する魚人族。見たことないが森に住み、不可思議な魔法を扱い自然を守る衛士と呼ばれる森人族。巨大な体を持つ巨人族。いるかどうかは疑わしいが妖精と呼ばれるものもいる。


 中でも奏唄人族は特殊とも言える種族だった。彼らは生涯を通して何かしらの楽器に秀で、共に過ごし旅を続ける種族である。部族はもてども国を持たない。

 その歌、曲、音色は聴く者を魅了し心を掴んで離さない。大抵が時の権力者に気に入られ、音楽家や演奏家としてなを馳せる。

都市や国の有名な音楽家の八割は奏唄人であると言われている。


「ボクは吟遊詩人(ぎんゆうしじん)として旅をしていたんだけどね。自らの見聞を広げる為に船長であるコロン君に頼み込み、この船に乗せて貰ったのさ」

「行動力があるのだな」

「いいや、さすがに船長のコロン君には負けるさ。彼女は世界一周というのを成し遂げようとしているからね」

「そうでありますなー。せんちょーはでっかい女であります! 背はリコとそう変わらないでありますが、心がおおきいであります!」


 コロンの夢はどうやら船員にとって周知の事らしい。しかし彼女の目に嘲りなどは見られない。良い仲間に恵まれているようだ。


 目と言えばエンリケは先程からアリアの目が気になって仕方がない。奏唄人が往来の特徴としてあのような色合いになるのは分かった。なら一体どうなればあのような色を持つようになるのだろうか。


「うん? ボクの顔に何かついてるかい?」

「いいや。ただその瞳、一体どうなっているのか。両目で色が異なる事例は存在するがそれは異なる瞳をもつ親世代から受け継がれた際に何らかの異常か、祝福があってそうなっている。それはオッドアイと呼ばれているがここでの指摘は、オッドアイのそれぞれの瞳はあくまで親の瞳を受け継いだだけであり、同じ瞳に2つの色が混在することはない。故に普通何らかの単色であることが普通だ。なのにその瞳は互いを食い合うことなく、調和している。更には感情の動きで色の反射具合も異なると見た。一体どのような理由でそのような構造になっているのか、実に興味深い」

「え…...、ちょっと目が怖いんだけど離れてくれないかな」


 知的好奇心が疼き、ジッと見れば身の危険を感じたのかアリアが一歩下がった。

 すまんとつぶやき頭をかく。通常と異なる部分があればそれを診察、解析したくなるのは医師としての悪い癖だ。


「そ、それで君達は何の用事で行動を共にしているんだい?」

 話を変えるようにアリアが問いかける。

「リコはたった今このこーはいにしょくばーたいへんをさせていたのであります」

「こーはい? あぁ後輩か。しょくばーたいへん…職場体験かな? なるほど昨日船長が言っていたことだね。ふむ…...なるほど面白そうだね、ボクもついて行っていいかい?」

「俺は構わないが」

「リコもであります。でもアリア殿、何かリリアン殿から頼まれてなかったでありますか?」

「ふむ、確かにボクは女史から帆の修繕を頼まれた。けど、それよりもこっちの方が面白そうだ」

「それなら仕方ないでありますな!」


 それで良いのか。そう思ったが一度決まった事に口を挟むほど今のエンリケは物申せる立場ではない。


「ふふ、それじゃ、少しの間ご一緒させてもらうよ。客人(まろうど)さん?」


 笑うアリアの瞳はまた異なる色を含み出していた。






「…...やはり少しその瞳を診察しても良いだろうか?」

「やめておくれよ。セクハラで訴えるよ?」

客人...稀に来る人、つまり訪問者。漢字の通り客人の意味を表す。

アリアの衣装は実際に「コフテ サーミ人」と検索していただければ想像しやすいかと思います。

次回の更新は2/19、夜頃です

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エンリケ、、、あんた船医じゃなくてサイエンティストじゃないか
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