戦顎竜
少し短いですが、申し訳ありません。
ズゥンと地面が揺れた。それも一度ではなく、連続して。
リコはすぐそれが足音であると気付いた。
「お? おぉおぉっ!? なんでありますか!?」
≪うきぃッ!!≫
余りの地響きに身体が軽く浮くのは初めての感覚だった。
リコはこの足音の主がサディコの下の檻から響いてきているのに気付いた。
「気付いたかしら? 地面が揺れる程の巨体を持つモノがいることを。最近仕入れたばかりで、今日が初めてのお披露目よ。さぁさぁ、恐怖しなさい!」
≪グギャオォオォォォォッッ!≫
ビリビリと大気が震えるほどの咆哮が轟く。
やがて檻の向こうから現れたのは"俊走竜"を何倍にも巨大化させたような生物だった。鱗は赤みかかった黒で、顎のサイズは比較にならないほど大きい。尾も丸太をまとめた様に太く、それを支える足腰も歩く事に地面へと足跡が残るほど強靭だ。
巨大さもこの間見た提燈鮟鱇に似た魔獣が子どもに見えるサイズだ。
そして何よりその首には黒い鉄製の首輪が嵌められていた。
「恐魔竜って知ってるかしら? この街にいる"俊走竜"も同じ恐魔竜の一種だけも、コイツは違うわ! コイツは例の巨人の大陸から特別に仕入れたのよ! 名は"戦顎竜"、中でもコイツは四匹いた中で最も大きくて凶暴でね! 手懐けるのも容易ではなかったわ」
自慢げに語るサディコ。
リコはプルプルと震える。
「怖いかしら? 恐ろしいかしら。もっともっと恐怖して泣き喚く様をーー」
「かっこいいでありまーすっ!!」
「……はぇ?」
予想だにしない言葉に間の抜けた声を出す。
「なんでありますか、なんでありますか! すげぇでかいであります、すげぇ大きいであります! すごい大きな体であります、すごい大きな牙であります! すげぇでかいであります!!」
同じ事を何度も繰り返しながら目をキラキラさせるリコ。
ミラニューロテナガザルも同じように騒いでいる。
サディコはあっけにとられている。
"戦顎竜"も怯えられるのではなく、別の反応に困惑している。
リコはその隙にその巨大な背に飛び乗った。
「おぉー! 高いであります! 身体も硬いであります! やったであります、あのカッコイイのよりも更にカッコイイのに乗れたであります! みんなに自慢出来るであります!!」
わしゃわしゃ動きながら鱗を、筋肉を、爪を触るリコ。
「ん? 何でありますかこれは?」
途中、その首にある黒い首輪に気付いた。
「何してるの! さっさと振り落としなさい!」
≪グギャアァアァァァッッ!!≫
「うわっ!」
サディコの命令により"戦顎竜"が巨体を思い切り動かす。リコはそのままあわや壁に激突という所でミラニューロテナガザル達が一斉に肩車をして網のように編隊を組み、リコを受け止めた。
「いたた、助かったであります。みんなぁ」
≪うききー!!≫
≪うき!≫
「ぐぬぬ、これだけかっこいいのに倒すのは残念でありますが、これもオリビア殿を助ける為!! ふぁみり〜のみんな!! あのでっかいのを倒すであります!!」
≪≪≪うっきぃ〜!!≫≫≫
おー! とミラニューロテナガザル達が手に持つ武器を掲げる。
「ふん。力の差を知らないとは、憐れね。やりなさい」
≪グギャオォォォッ!≫
サディコの命令に従い"戦顎竜"が咆哮し、リコ達に迫る。それを躱すリコ。
その隙にミラニューロテナガザルが手に持つ剣や槍で攻撃する。
≪うき!?≫
≪うきゃきゃ!?≫
だがその全てを堅牢な鱗が弾く。
それどころか鬱陶しい攻撃にイラついたのか太い尾を振った。巻き込まれるミラニューロテナガザル。更に"戦顎竜"はトドメをさすべくその強靭な顎で噛み砕こうと接近する。
「やめるでありまーす!!」
リコが他のミラニューロテナガザルにジャンプ台を作ってもらい頭部へと飛び乗り、妨害する。
「よ、ほっ、へへん! この程度ならリコは全く落ちないであります!」
≪グギャッ!? グオっ、グオォォオォォッ!!≫
「わぁー!? そっちいっちゃだめであります!!」
"戦顎竜"はそのまま突進し、リコを自らの頭部と壁に挟もうとした。
間一髪頭から離れ避けるリコだが、壁に激突した際の余波で着地に失敗する。
「いたた……はっ!」
≪グオォォッ!!≫
見れば"戦顎竜”の巨体を支える強靭な脚がリコに向かって振り下げられようとしていた。
≪うききぃーッ!!≫
≪グギャオッ!?≫
一部のミラニューロテナガザルが、手に持つ砂やら粉やらゴミやら糞やらを顔に投げて妨害する。その内の一つが"戦顎竜"の目に入り、怯む。
その隙にファミリー達が恐竜の足元からリコを引っ張り、リコは潰されずにすんだ。
「あ、危なかったでありますっ。ひき肉になるところだったであります。正にきゅうりに一塩をかけたって奴であります」
九死に一生を得たの間違いである。
しかし、その結果にサディコは不服そうな顔をする。
「はん! 逃すだなんてとんだ駄竜ね!」
≪グギャギャオォオォォォッッ≫
バチィンと手に持つ鞭を地面に叩きつけ、サディコは手に持つスイッチを押した。
瞬間、苦悶に満ちた声を上げる。首輪から強力な電撃が流れていたのだ。
「な、何しているでありますか!?」
「何って躾けよ。あぁ! ほんと〜に! 役立たずね! これは餌抜きね! こんな子どもと猿風情に手玉に取られるだなんて! ったく、何が百竜の王よ! こんなんじゃ大金叩いた甲斐がないわ!」
「大金?」
「えぇ、そうよ! これは私が買ったの! 言ったでしょ、仕入れたって。だからこれをどう扱おうとも私の自由だわ。アンタだって、その猿どもを道具みたいに使ってるじゃない」
「買う……道具……」
その言葉はとても看過出来るものでなかった。
「そんなの……ふぁみり〜じゃないであります……!」
ググッとリコが立ち上がる。
彼女はミラニューロテナガザルに育てられ、人生の大半を彼らと共に過ごして来た。だからこそリコは魔獣との間にある隔たりというものが薄い。魔獣であろうと、大切な家族であると疑っていない。
《いるかさん号》の皆も、龍も、ファミリーのみんなも大好きだ。
だけど目の前の女は違う。
彼女と"戦顎竜"の間に絆などなく、一方的に使役する。
そんなの何処が家族だというのか。
「行くでありますふぁみり〜達! あのおばさんに痛い目を合わせてやりますであります!」
≪うっきぃ〜!!≫
「だ、誰がおばさんよ!」
リコ達は結束する。
必ず、目の前の生意気な厚化粧なおばさんに痛い目をみせてやると。
「リコ達の絆! 見せてやるであります!」
強靭な個に対し、集団のリコ達が戦う。果たして勝敗は?
続きが気になると思った方は是非ともブクマと評価の方をお願いします!
コロン達の航海を完遂させるには皆様の力が必要です。是非とも船員として力を貸してください。
よろしくお願いします!
作者の他作品「こちら冒険者ギルド、特殊調査官! 貴方に魔獣の情報をお届けします!」と「
【連載版】この日、『偽りの勇者』である俺は『真の勇者』である彼をパーティから追放した」もよろしくお願いします。




