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薬師

挨拶は()ず謝罪から始まった。


「失礼した。コンソラータ氏。昨日は色々と混乱していて記憶が朧げなのだ。そして先に謝罪させてもらう。勝手に管轄である植物を弄った事について」

「確かに昨日こちらも色々と質問とかし過ぎましたしお互い様ですよぉ。それとぉ、粒々檸檬についてですがぁ、私もあの容器の粒々レマンについては何故酸味がなくなっていたのか分からなくて諦めかけていたのでぇ大丈夫ですよぉ。もし気にしているなら先ほどの治した方法を後日もう一回説明してもらえますかぁ?」

「分かった。コンソラータ氏の寛大な心に感謝する」


 どうやら咎められはしないようだ。僅かに安堵する。


「改めて名乗らしてもらうが俺はエンリケ。ただのエンリケだ。この船に滞在することになったしがない男だ。これからよろしく頼む」

「はい、よろしくお願いしますねぇ〜。それとぉ、私の事はオリビアで良いですよぉ」

「ならそうさせてもらおう。オリビア。俺の事もエンリケで良い。敬語もいらない」

「ん〜ごめんなさいねぇ〜、私の敬語は癖みたいなものなので無理なんですぅ。仲良くなれれば出来るかもしれませんけどぉ」

「そうか」

 暗にまだ仲間とは認めていないと言われた気がする。


「そういえばぁ、エンリケさんは自分から此処に来たのですかぁ? よくご存知でしたねぇ」

「いや、途中まではC(キャプテン)・コロンに案内してもらっていたが用事を思い出したと言っていなくなってしまってな。オリビアに聞けば分かるといって去って行ってしまった」

「あらあらコロちゃんが。よっぽど気に入られたんですねぇ」

「そう見えるか?」

「はい」


 頷くオリビアだが当人のエンリケとしては疑問符でいっぱいだ。

 実際コロンに気に入られる理由など一つも思い浮かばない。得体の知れない三十路のおっさんを、あの少女は気に入ったというのだろうか。


「……付き合いの長い君が言うのだからそうなのだろう。俺には全く分からないがな」

「本当の事言うとぉ、私も何故コロちゃんがエンリケさんにあそこまで気にかけるのかは分からないんですよねぇ。リリアンちゃんなら何か知っているかもしれませんが」

「リリアン・ナビか……『なんでアンタに教える必要があるのよ』などと言われるのが分かる。案外本人に直接聞いた方が手っ取り早いかもしれん」

「確かにコロちゃんならすぐに教えてくれるかもしれません」

 くすくすと笑う。その表情にはコロンへの信頼が見て取れた。

「話は戻しますけどぉ、コロちゃんに聞いた通り此処は医務室ですよぉ。怪我を負ったらみぃんな此処に来て治療します」

「そうか。……一つ聞くがあれも治療用の拘束具で間違いないか? 拷問用ではないのだな?」

 がっちりとした拘束具を指差す。

「それはぁ、あの台はコロちゃん専用だからですよぉ」

「専用?」

「コロちゃんは力がと〜っても強いのでぇ、生半可な拘束じゃすぐさま壊されてしまうのですよぉ。壊された拘束具の数は十を超えますねぇ」

C(キャプテン)・コロンは力が強いのか」


 あの小柄な体格で力が強いと言われてもイマイチピンとこないが、よく考えれば彼女は重い(いかり)を常に持っていた。それを振るえるとならば確かに生半可な拘束では意味をなさない。


「コロちゃん、いっつも傷を負って帰ってくるから〜。怪我するたびにきつ〜いおきゅうをすえているんだけどちぃっとも学習しないのですよぉ〜。何をするにしても大丈夫大丈夫って気にしないしぃ〜服も〜あのコートと二角帽子以外は何個もダメにしちゃいました。この間もぉ、お腹を斬ったのに大丈夫大丈夫といって逃げようとしたのでぇ、あそこの台に無理矢理縛りつけて治療したのですよぉ。ワザと痛ぁ〜い薬を使って傷を誤魔化すのは悪いことだって(しつ)けてあげたのですよぉ〜。泣いて謝ってましたが許してあげませんでしたぁ」

(なるほど、先ほどの挙動はそのせいか)


 うふふと笑うオリビアには軽くサディスティックの表情が浮かんでいる。先程コロンはバナナで滑り後頭部を打った。

 大方また怒られ、無理矢理治療されると思って避けたのだろう。

 無理やり拘束され、痛い薬を塗られたとしたらトラウマにもなるし避けるのも無理はない。


「……なら途中で引き返したのはそのせいだな。C(キャプテン)・コロンは途中バナナで滑って頭を打った」

「あらぁ、そうなんですかぁ? それなら〜、あとでお仕置きしないといけませんねぇ〜」


 しかしそれとこれは別。エンリケはあっさりとコロンが怪我したのをバラした。

 一応頭の怪我は大事になるという事を踏まえてなのでコロンを心配してのことだが彼女がそこまで頭が回るかは怪しかった。


 にこやかに笑うオリビアだが、明らかにその顔は怒ってるなとエンリケは察する。


「コロちゃんへのお仕置きは後でするとしてぇ、エンリケさんのお仕事についてですけど。基本的には私のお手伝いをしてもらいます。というのもわたし見ての通り片腕がないんですよぉ〜。だからぁ、文字通り色々と手が足りないのですぅ」


 それは敢えて指摘していなかった事だった。左腕がないなど先天性の確率もあるが、おそらくその可能性は限りなく低いだろう。


「分かった。なら先ずはどのような道具があるのか教えてくれ。医療器具の把握をしておきたい。前の船とは勝手が違うだろうしな」

「そうそう昨日も言っていましたけど、エンリケさんは船医だったんですよね? どんな船の船医だったんですが」

「悪いが余り語る気はない。だが腕はそれなりにあるとは思っていた(・・)

 その言葉に僅かにオリビアは不満そうにするが、すぐさま笑顔になる。

「そうですか、仕方ないですね。ん〜そうですねぇ。それではまずぅ、別の部屋にある箱を運んでもらって良いですか? 何時もならお猿ちゃん達かビアンカに頼むのですけど、エンリケさんへ何処に何があるかの説明も兼ねてますのでぇ、お願いしますねぇ」

「了解した」








「は〜い、もうちょっとこっちに……あぁ、行き過ぎですよぉ。そのまま、そのまま...…はい、下ろして大丈夫ですよぉ」


 オリビアの指示の元、木箱を下ろす。

 中身が植物の育成用の土だったので中々重労働となった。それでも普段、それなりに鍛えてはいたのでエンリケにとっては軽い方の重労働であったが。


「すごいですねぇ。コロちゃんやビアンカさんには及びませんけど3つも一度に運べるなんて」

「一応大人で男だからな。所でそのビアンカとやらはいくつ同時に運べたのだ?」

「4つですね〜。あ、頭にも載せる事があったから5つでしょうか?」

「……獣人は人より基本的に身体能力に優れる。極限まで鍛え抜けば人が勝る事もあるだろうが生まれ持った資質とはいかんせん埋め難い」


 男としてほんの少し負けた気になるが仕方ない。初めから身体の基礎(スペック)が違うのだ。土俵に立とうとするのが間違いだ。......悔しくはない。


 その後も医療に使う道具、薬草、注意の説明を受けたが基本的にエンリケが知っている内容と大差なかった。

 これならば邪魔になることはないと一先ず安堵する。



「お疲れ様でしたぁ。紅茶を淹れたんで飲んで行きませんかぁ?」

「いや、俺は...…。何でもない頂こう」


 オリビアの淹れた紅茶が薬品で満ちる医療室に香る。一瞬拒否しかけるが、断るのも失礼かと受け取る。

 そしてオリビアが飲んだ後に口元に持っていき(かす)かに香る匂いに止める。


「(これは……)一つ聞きたいんだが」

「何ですかぁ?」

「あれは《クガイの長根草(ちょうこんそう)》と呼ばれるものか?」


 オリビアの背後にある一メートルはある植物を指差す。


「え? はい、そうですよぉ。それがどうかしたんですか? 」

「いや、あの植物は熱帯地域の限られた所にしか存在せずまた育てるのも大変だと聞いたことがあるのでな。実物を見るのは初めてでついつい質問してしまった」

「あ、そうなんですかぁ。でもあれが育ったのは偶然だったのですよぉ? 他の薬草を育てようと種を購入した際に混じっていたらしくて、私も育ててはいましたが本で見るまでは何の植物か分かりませんでしたから」

「だとすればオリビアは非常に優れた薬師だな。あれほど見事に育てるなど並大抵の腕ではない」

「腕、片方ありませんけどねぇ」

「……今のは俺が悪いが自ら被虐するようにするのはやめてくれ」

「うふふ〜、どうしましょうかねぇ」


 その後もたわいもない雑談が続く。といってもエンリケは余り饒舌(じょうぜつ)な方ではない。質問か必要に駆られれば話すがそれ以外には殆ど自分からは話さない。

 故に聞き役に徹しながらも、時折質問する事で時間を過ごす。

 幸いにも話の内容はこの船の事について聞く限り話題は尽きなかった。



 時間にして30分は過ぎただろうか。

 変化は訪れた。


「ぐ」


 エンリケが手に持つコップを落とし倒れたのだ。手足は痺れ、汗も出ている。


「あ、やっと効いてきましたかぁ? 全然効果が現れなくて量を間違えたかな〜って不安だったんですけどぉ」


 くすくすと笑いながらオリビアが立ち上がる。エンリケは自らの状態を冷静に分析する。


「……痺れ薬か。それも遅効性(ちこうせい)の」

「そうですよぉ。先ほどの紅茶にぃ、混ぜさせてもらいました。さすがに私では貴方に勝てませんのでぇ、こうして薬草の力を借りたのですよぉ」

「ふっ、実に合理的だな」


 (おとし)める訳でもなく褒めた。女であるオリビアでは男であるエンリケに勝てない。故に薬草を使って力を削いだ事に賞賛したのだが当のオリビアは皮肉と受け止めたようだ。むっとした表情になる。


「それで何が目的だ? 悪戯で俺に痺れ薬を飲ませた訳ではないだろう?」

「……貴方の目的は何ですかぁ?」

「目的だと? そんなものありもしない」

「嘘ですよねぇ? だって幾ら何でも経歴が不審すぎますよぉ。海に漂っていたのは本当だとしてもまさか本当に難破した訳じゃありませんよね? だってそういった人特有の悲壮感がありませんから。余り言いたくありませんがぁ、女しかいないこの船を付け狙う海賊もいるのですよぉ?」

「だとしても俺はそいつらと何の関係もない」

「強情ですねぇ」


 困った子どもを見るように眉を顰める。


「私はぁ、元は港町に住む娘だったのですよぉ」

「何?」


 突然の話に困惑するもオリビアは気にせず話を続ける。


「港町は何時も活気に溢れていて、私はそんな町が大好きでした。私はその町の夫婦の娘でした。といってもお母さんが花売りでお父さんが薬師なんですけど。幸いにも貧しくはなかったのでそこそこ幸せに私は過ごしていました」


 今でも思い出せる。見慣れた町。笑う町の人々。いつも笑顔で優しいお母さんと無愛想だが優しさに満ちていたお父さん。


「けど、そんな日常はすぐに壊されたました。海から海賊がやって来たのですよぉ。そして港町は破壊の限りを受けました。綺麗だった町はもうなくてぇ、瓦礫と死体があるようになりました」


 潮風の匂いは硝煙と血の匂いに変わった。

 美しかった町は瓦礫の山に変わった。

 お母さんもお父さんも自分を守ろうとして海賊に殺された。


「幸いにも私は殺されずぅ、海賊達の船に多くの人々と乗らされましたぁ。その後も奴隷として同じく攫われた人々が売られる中、私は媚びを売る事で船長に気に入られ売られることはありませんでした。薬師の娘だったので少し治療出来たのも大きいですねぇ。まぁ、()()()()()()()()()()()()()()()()


 男だらけの船での女性の仕事。何があったかは想像にし難くない。


「その後も一年ほど乗っていたある日。海賊達は別の小さな港町を狙って襲ったんです。それ自体は別の船を襲う事があったので私にとっては見慣れたものでした。けど、私は見てしまったのです。海賊達が、親が庇った無抵抗な子どもに暴力をふるっているのを。幼い子どもを殴る彼らに我慢出来なくてつい飛び出してしまったんですよぉ」


 過去の自分に重ねたのかもしれない。

 オリビアは子どもをかばい懇願(こんがん)した。

 やめてほしいと。暴力を振るわないであげてと。

 恐らく初めての反抗だった。順従だったオリビアの決死の反抗。

 

 だが海賊はそんなオリビアの覚悟を一蹴(いっしゅう)した。


「それでぇ〜、逆らうなって左手を落とされたんですぅ。子どもも殺されました」

 笑うオリビアに対して、エンリケはどう反応したら良いのか分からない。腕を切り落とされるなど彼女の心傷は計り知れない。当然今の医療に腕を生やす技術などない。


「その事が(しゃく)に触ったのか船長も私に対して暴力を振るうようになりました。それこそ理不尽にお腹を殴られましたし髪を引っ張られることも。コロちゃんがあの船を壊滅させなかったら恐らく私は死んでいましたよぉ。だからこそ私はコロちゃんに感謝しているのです」


 机の上のハサミをオリビアは手に取る。


「男の人はぁ、すぐ嘘をつきます。コロちゃんはそこに関しては鋭いんですけど、素直というかぁ一度信用した方にはとことん甘いしぃ。何故か貴方のことはすぐに信用してしまったので代わりに私が貴方を尋問しているんです。……私は貴方を信頼していないんですぅ。話してもらいますよぉ。貴方は何者なのか。そして何が目的なのか。そしてもしこの船に害をもたらすなら……コロちゃんには悪いけど貴方を殺します」


 そう言って喉元にハサミを突きつける。つーと僅かに溢れる血。

 オリビアの目には強い決意が見えた。


「……そうか。お前は優しいのだな」

「はい? いきなり何を言っているのですかぁ?」

「お前の行動はC・コロン、そして仲間を思ってのことだ。それだけ思える程の仲間がいることが少し羨ましい」


 賛辞されたオリビアに僅かに動揺が走る。その隙をエンリケは見逃さなかった。


「そして先に謝っておこう。俺は語る気はない」


 その言葉と同時にエンリケは素早く、逆にオリビアを床に押し倒した。ハサミを持つ右手を上に押し付け、足も股の下に入れ暴れさせないようにする。


「あらぁ? ぇ、薬は?」

「痺れ薬なのは初めから気付いていた。だから、先程目を外した隙に解毒剤を飲ませてもらっていた」


 オリビアは驚いた様に目を開いた。

 ぐっと手に力を入れるが隻腕の上に男女の力の差がありどうしようもない。もしこれがビアンカであれば例え痺れ薬なしでもエンリケの拘束から抜けられただろうが生憎か弱いと言って良いオリビアにそれはできない。


「はぁ〜、最初から気付かれていたって訳ですねぇ。自信あったのですけど。それでどうしますか? 犯しますか? ……その代わりあの子達には手を出さないで下さいねぇ?」


 諦観とも、自暴自棄とも違う。ただ受け入れるような笑い方だった。

 きっとそのような事は一度や二度ではないのだろう。

 だがエンリケはハサミだけを奪い、解放する。


「安心しろ。俺は手を出す気はない」

「……あらぁ?」

 少し驚いたようにオリビアが上半身を起こす。エンリケは歩き、机の上にハサミを置いた。


「なぜですかぁ? 自慢じゃありませんけど私は男性の方にはそそる肉体だと思っていたのですけど」

「1つ、俺に婦女を強姦する嗜好はない。2つ、もし君に手を出せば君が周囲の人に告げ口する危険がある。仮に口封じでもすれば今度は俺が疑われるのは必定。そして3つ、……...仮にとはいえこの船に乗せてくれたC・コロンに対しそのような不義理を働く事を俺はしない」


 あの輝くばかりの表情を曇らせるのは忍びなかった。オリビアは驚いたように目を丸くした。


「次からはするなよ。相手が俺みたいなのではなければ大抵の男は君に手を出すだろう。それと脅迫するならばもっと慎重になるべきだったな。喉よりも心臓ならば俺が押し倒した時に刺すことが出来ただろう。残念ながらそうはならなかったが。それとーー」


 その後も如何にすれば相手の油断を誘えるか、どの部位を狙えば効率的に殺せるかを語るエンリケに、オリビアは最初は困惑してたが、途中分かったように頷いた。

 何か得心がいったように。


「……あなた、少し私と似ていますね」

「何?」

「自分の事を()()()()()()って思ってますよねぇ。死んでも構わないと。瞳が、私と似てるんですよぉ。ハサミを突き付けた時もいくら脅しとはいえもっと暴れたりしても良かったはずです。そして更には私に次からうまくいくように助言したりして。それってぇ、その通りにしてされていれば死んでもよかったってぇことですよねぇ?」

「……確かにそうだな、俺は自らの命は()()()()()()


 どうせ死ぬつもりだった。

 それが何の因果がこうして拾われ、新たな船に乗っている。

 それは第二の人生と言っても良いかもしれない。だがそれはエンリケにとって惰性に過ぎない。


「だがお前と俺は違う」

「はい?」

「お前はあの時、言ったな? 『あの子達には手を出さないで』と。あの時自分の身よりもC(キャプテン)・コロン達の身の方を案じた。理由はどうあれ、他人を守る為に自分を犠牲にしようとした。俺は違う。俺はただの死に損ないだ」


 エンリケとオリビアの決定的な違いはそこだ。

 オリビアは自分を犠牲にしてでも仲間を守ろうとする。その為には最悪死んでも良いと思っている。

 エンリケは自分を死に損なったからこそ、生死に無頓着になった。


「大切な仲間を守る為に自らを犠牲にしようとする。余り褒められたことではないかもしれん。だが俺はお前を尊敬する」


 唖然とするオリビアを放っておきながらエンリケは乱れた服装を整え立ち上がる。


「あぁ、あと紅茶は美味かった。次からは痺れ薬を入れないで飲ませて貰いたい」


 それだけ行って部屋を出た。



 結局彼はそのまま振り返ることなく部屋を出て行った。

 その姿にほんの少し毒気が抜かれながらも安堵したそして今になって震える肩を残った右腕で抑える。




 本音を言おう。オリビアは怖かった。

 コロちゃんが決めた事とはいえ過去の振るわれた暴力は確実にオリビアの心を蝕んでいる。

 しかしそれを上回るほどの仲間意識がオリビアにはあった。



 コロちゃん達を守りたいのは本心だ。だからあのあと報復されるかもしれないのを承知の上で事に及んだ。

 だから逆に拘束された時も驚きはしたが受け入れようとした。ただ隙あれば齧りとってやろうとは考えていた。


 恐らく彼はそれを見抜いていた。見抜いた上で何もしなかった。

 初めてだった。

 下卑た目でこちらを見る、或いは下衆な顔を浮かべる今まで出会ったどんな男とも違った。


「コロちゃんはそれを分かってあの人を私の所に送ったのかしらぁ?」


 あの若き船長は時に獣染みた勘がある。

 何か確信があってここに送ったの知れない。単にお手伝い出来るし都合が良かっただけかもしれないが。



 更には優しいとまで言われた。

 流石にあれは予想外過ぎた。おかげで隙ができてすぐさま拘束され返してしまった。

 動揺を誘う一言かと今は思ったが恐らく違う。あれは本心からそう思っていた。自分と似ていると思うだけに、嘘ではないと分かってしまった。

 

 まぁ、彼には否定されたが。


 ……しかしムカつく。

 オリビアは過去に陵辱された過去抜きにしても己の身体には自信を持っていた。この船に乗っている中でもトップクラスといって良い。

 なのに彼は指一つ触れはしなかった。それはまるで触れる価値もないというようで。

 それに痺れ薬を使うことを見抜かれ、逆に油断するように痺れたフリをして、それに自分が騙されたことにもムカついた。自分は薬にはそれなりに自信があったのだ。


「……ぜぇったいに後悔させてあげるんだからぁ〜」


 挑発的な笑みを浮かべる。震えはもう止まっていた。


次回の更新は2/18の夜頃です。よろしければブックマークをお願いします。

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