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暗い夜の森で


「二人が帰ってこない」


 集合時間になっても集合場所に現れない二人を見て、コロンは事態を察した。

 その事に気付いたコロンの対応は早かった。


 リリアンは決して無理はせず、冷静に物事を見る。それに何度もコロンは助けられた事がある。

 エンリケもまた、基本的にヤバい所に突っ込むような事はしない。唯一、ブラジリアーノの時はアリアの制止を聞きもせず現れたが、あれもまた取り返しのつかない事態を防ぐ為にしたことだ。何も考えずに姿を消すとは考え辛い。


 その二人が戻って来ないと言うことは何があったと言うことだ。

 木の上から探そうとするリコを引き止め、船に戻りビアンカに事情を説明して空からの探索を頼んだ。

 更には船の修復に向いていない、ミラニューロテナガザルの一部にも頼み込んで島の探索を広げた。


 空からの捜索と、猿による人海戦術による虱潰(しらみつぶ)しだ。



 しかし、これだけの事をしても二人は見つからなかった。






 夕方になり、もう一度船に戻るコロン。先に戻っていた、ミラニューロテナガザルと話していたリコと一緒にいたオリビアに話しかける。


「リコ、お猿さんたちの方はどうだった?」

「ダメであります。誰も見つからなかったと言ってるであります。それどころか中で植物に襲われてさるっきーと赤面、こぶくろが怪我をしたであります……」

「なっ、大丈夫なのか!?」

「何とかその場は離脱したらしいであります。オリビア殿に治療してもらったであります」

「今はぁ、容態が安定しましたのでぇ、ティノちゃんに見てもらってるから大丈夫ですよぉ〜」

「そうか、よかった。だが、むむむ。そうなるとおさるさん達にこれ以上探索は頼めないな……」


 戦闘能力の高いコロンらは兎も角、人相手に優位に立てるミラニューロテナガザルが、慣れた森でも怪我をするのならばそれほど森の危険が高いということになる。

 数に任せて探索しても被害が広がる可能性があった。

 ミラニューロテナガザルは魔猿だ。だが、それでも大切な《いるかさん号》の仲間なのだ。これ以上の二次災害は避けないといけない。

 だが、二人も見つかっていない。万が一手遅れになったらとコロンの背筋に冷たいものが走る。次第にあの時離れるべきではなかったと悪い方へ考えそうになる。


 コロンは(かぶり)をふる。

 船長の自分が不安げな表情をすると、それは船員にも伝染する。

 二人なら大丈夫だと、必死に心を励ます。


 悩んでいると、空から探索してくれていたビアンカが戻ってきた。


「ビアンカ! どうだった?」

「すまん、分からなかった。木々の()(しげ)りが尋常でなく、空からでは土すら見えない。とてもじゃないが上空から探すのは無理だった」

「そうか……」


 予想はしていたが、腕を振るわない結果に落胆する。

 ビアンカが額を抑えて膝をつく。


「悪い、もうすぐ()が来る」

「分かった。ありがとう。あとは休んでいてくれ。オリビア、すまないがビアンカを運んでやってくれ。リコ、ノワールに事情を説明して少し早めに出てきて貰ってくれ」

「分かりましたぁ〜。ビアンカさん、ほら肩を貸してください」

「すまん」

「了解であります! 早速話して来るであります!」


 三人が船内に戻るのを見送った後、コロンは再びジャングルの方を見る。


「リリー、キケ。無事だと良いが……」

「大丈夫だよ、あの二人なら」

「アリア」


 いつのまにか近くの手摺に腰掛けていたアリアがイリアン・パイプスで音楽を鳴らす。


「何だかんだであの二人は少し似ている所がある。何というか誰かに振り回される(・・・・・・・・・)に慣れているような。そんな二人だ。無理をせずに着実に此処に戻ろうとしているだろう。だから、あまりそんな顔をしない方が良いよ」

「……わかってしまうのか、アリア」

「あぁ、分かるとも。君はこの船の道しるべだ。だからこそ、君は笑っているといい。そっちの方が君らしいからね」


 アリアがおちつかせるようにゆっくりとイリアン・パイプスを吹かす。心が落ち着くような音色にコロンも次第に落ち着きを取り戻してきた。

 確かに落ち込むのは自分らしくない。

 コロンはばちん! と自らの頬を叩く。思ったより力を入れ過ぎて痛かったけど、これで目が覚めた。


「そうだな。落ち込むのは私らしくなかった。リリーも、キケも絶対に無事だ。なら私はすぐに二人を迎えに行くのだ! よぉーし! 食料とランタンを早く準備しよう! 一応帰る場所を見失わないように樹々に印もつけるつもりだ」

「それが良いね。二次災害は防がないと。ボクも一応帰る場所の目印として焚き火もあげておこうか。夜ならば火はよく見える」

「それが良いな! ……アリア」

「なんだい?」

「ありがとうな」

「ふふっ。気にしなくて良いさ。船長も気をつけて」

「うむ! 二人のことは任せておけ!」


 完全に立ち直ったコロンが礼を言うとアリアははにかんだ。

 コロンがランタンを取りに行き、一人船上に残されたアリアは少し(かげ)った瞳をする。その瞳の色合いは、暗い。


「……やれやれ、こうしていると戦いに向いていない己の身を不甲斐なく感じるね」


 アリアは、オリビアやティノと同じで戦闘に向いてるとは言い難い。何故なら《奏唄人(ハーモミューズ)》としての力ならともかく、身体能力は低かった。自分が無理に行っても足手まといになるだけだ。

 だから、自分が役立てることはない。わかってはいるのだが、理解と心情は別だ。

 一人しんみりと夜になる森を見つめる。


「ぷはっ、ちょっとみんな大変よ! あ、あれ。アリアだけ?」

海の歌い手(メロウ)、今までどうしたんだい?」


 今の今まで海に潜っていたクラリッサが何やら慌てた様子で海面から現れた。


「聞いて! この島はーー」


 その内容は驚くことだった。





 暗闇の中をリリアンは歩く。その姿は衣服が所々破け、泥だらけだ。

 夜の視界は悪く、月光が巨大な木々の葉に遮られて先が見辛い上、足元は泥濘(ぬかる)みで滑りやすい。更にその泥濘(ぬかる)みの中に時折硬い木の根っこがあるのだからタチが悪い。

 既に2度転んでしまっている。この格好もこれが原因だ。


「うぅ、なんで私がこんな目に……」


 若干涙目になりながらガサガサと木の枝を退ける。

 リリアンは暗いのが苦手だ。

 持ってきたランタンはコケた時に割れてしまい、手元にはもうなかった。

 光がない中、一人でジャングルの歩くのは余りにも心細い。


 リリアンは暗いジャングルを歩く。

 本当は少しばかり、罰が当たったのだろうとも思っていた。


 確かに置き去りにしたのはやり過ぎたかもしれないがその時はそれが当然と思っていたのだ。

 もしかしたらビアンカの考えに同調したせいかもしれない。ビアンカは嫌な事は嫌とはっきり言うタイプだ。

 リリアンも同じだが、コロンが関わるとある程度自制する傾向がある。しかし自制するだけで無くなる訳ではない。その積もりに積もった不満と焦りが、エンリケを置き去りにするというリリアンらしからぬ行動を引き起こした。

 何時もコロンに感情で行動するなと言っているのに、感情で行動した。

 だからきっと、これは罰なのだ。


「やめやめ! ネガティブになっちゃダメよアタシ!」


 アタシはまだ死ねない。

 コロンと、そして皆と一緒に世界を一周するんだ。


「私がいなくなったら誰があの船の航路をとるっていうのよ!」


 コロンは猪突猛進で誰かが手綱を握ってないと何をするかわからない。だからリリアンがいないとダメだ。

 リリアンは生きて帰ると改めて誓う。

 しかし帰るにしても手掛かりがない。


 どうしようと悩んでいると、ガサガサと草が蠢く音が聞こえた。


「きゃっ。く、来るなら来なさいよ。返り討ちにしてやるわ」


 銃を構えるも明らかに銃口は震えている。顔色は悪く、歯はカチカチ鳴らし、涙目にもなっている。

 やがて(ざわ)めきは大きくなり、遂にその姿をリリアンの前に現した!


「ひ、きゃあぁぁぁぁ!! 」

「こんな所で何をしている?」

「あぁぁぁぁ……はぇ?」

 思わず頭を抱えて蹲ると頭上から聞き覚えの、というか《いるかさん号(うち)》には一人しかいない男性の声が聞こえた。

 顔を上げるとやはりそこに居たのは灰色の髪に、片方が割れかけの眼鏡をかけた不機嫌そうに口をへの字に曲げている一人の男だった。リュックと鞄には山ほどの薬草が積まれている。


「何やら騒がしいと思ってきてみれば、まだこんな所に居たのかリリアン・ナビ」


 リリアンが見間違えるはずがない。

 だって現れたのは自身が置いてきた男、エンリケだったのだから。


 奇しくも二人は再び合流したのであった。


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