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ジャングル

 探検の為にジャングルに入ったコロン達。

 彼女らは自らを取り囲む大自然に感嘆していた。他の場所だと巨木と言っても良い木が、ここには数多く雑草の如く生えているのだ。圧巻されるというものだ。


「ううむ、大きいな。どれもこれも見たことない大きさの樹々だ」

「本当。あれなんて十五メートルはあるわよ」

「木登りしたら楽しそうでありますなぁ」

「やめときなさい、またオリビアに怒られるわよ」

「服が汚れるからでありますか? でもリコからすれば服が汚れるくらい何とも思わないであります。大きな鰐から逃げるために泥沼で半日間身を隠したこともありますゆえ」


 リコは島でミラニューロテナガザルに育てられた経歴の持ち主だ。その生い立ちから野生児に近い。

 コロン達とあった時も葉っぱで作った服こそ身につけていたが、ほぼ真っ裸だったのだ。それでよくもまぁ、風邪などを引かなかったものだと呆れたものである。


「服だってタダじゃないんだし、汚すような事は控えてよね」

「リコは別に服なんてなくても良いのでありますが……」

「駄目に決まっているでしょ! 男がいるんだし!」

「ならししょーがいないところでなら良いでありますか?」

「ふぇっ!? だ、ダメに決まっているでしょう! もっとこう、モラルというか、恥じらいを持ちなさいよ!」

「はっはっは! これは一本取られたなリリー! 安心しろ、私も寝る時はコートと帽子だけ身につけてすっぽんぽんだ!」

「コローネェェェッ!!? あな、あなたなんて事を言っちゃうのよ!」

「ん? 何か問題でもあるか? 事実だろ?」


 何やら前でとんでもない会話が繰り広げられている中、エンリケはつぶさにジャングルの中を観察していた。


(ふん、変わらないな(・・・・・・)この森も(・・・・)……ん?)


 ふと、うなり重なっている木の根っこの間に何を見つけ、屈む。細かい木の根に絡まっていたが、切り取って引っ張り出す。

 木の根に埋もれ、カビが生えながらもそれは人の字が書かれた看板だった。


「どうしたのでありますか、ししょー。お? それは看板でありますか?」

「看板?」

「何だと、それは本当か?」


 後ろからどかどかと肩と頭に手を乗せられ看板を覗き込む三人娘。何故傍から見ないっとエンリケは青筋を立てる。


「えっと……『この……危険な……の楽園である。今すぐ……せ……。……が全てを呑み込む』……途中途中文字が擦れて見えないわね」

「うへぇ、ちょー汚ねぇであります」

「まぁこんな風に埋もれていたんなら劣化も()むなしよ。この『危険』という字だけどまぁこれだけ広いんなら大きな魔獣がいるから危険よね? それに『呑み込む』? 一体どういうことかしら」

「やっぱり魔獣じゃないか? 呑み込むってことは生物だろう」

「これだけ大きな島ならでっかな魔獣がいても納得であります」

「どうでも良いからさっさと手を退けろ」

「あわっ、急に立つな危ないだろキケ」


 全員が看板の内容に首を傾げながらも手を退けない事に堪忍袋の尾が切れたエンリケが立ち上がる。三人は、体勢を崩しかけるも寸の所で止まる。


「それにしても、看板があったってことは人の手が入っていたってね」

「あ、そうか。むぅ、前人未踏の島じゃなかったのは残念だ」

「そううまい話は転がってないってことよ」

「しかぁーし! まだ宝がないと決まった訳じゃないからな! まだまだ探検するぞ未知が私を呼んでいる!」

「罠にかかったりするのはやめてよね」

「気を取り直していくゾォー!」


 相変わらず元気いっぱいに先に進むコロン。

 それに元気よくついていくリコ。

 それを後ろからついて行くリリアンとエンリケ。


「せんちょーせんちょー、見てくれであります。変わった植物があるであります」

「おぉ本当だな。うーむ、オリビアに持って帰れば喜ぶかな?」

「どうでありますかねぇ。ししょー! この植物ってどうでありますか?」

「《粘着草》だな。花の部分からは粘着した成分の粘液が取れる。傷口を塞いだり、接着剤として利用できるから色々な使い道がある。持って帰れば喜ぶだろう」

「本当か! ならオリビアに持って帰ってやろう。……べ、別にさっき怒られたからご機嫌取りのために採取する訳ではないからな!?」

「俺は何も言っとらん」


 何やら慌てて言い訳するコロンにエンリケはめんどくさそうに呆れた目を向ける。


「全く、二人とも呑気なんだから……あら?」


 リリアンはふと、少し離れた所に綺麗な花があるのを見つけた。

 極彩色の、それでいて踊る鳥のような花は見ていて、魅了されるような美しさだった。更には何か甘い匂いもする。

 思わずリリアンもフラフラと近付き触れそうになる。


「すごい……綺麗ね」

「おい」


 その手をガシッと捕まれる。

 自身やコロン達とは違う、無骨(ぶこつ)な男らしい手。リリアンはビックリする。


「うぇっ!? な、なに!? あ、あんたついに本性を現したわね! 良いわ、今こそ」

「良いから鼻と口を塞げ」

「む!? むー! むぅぅ!!」


 無理矢理リリアンの口を塞ぎその場から離れる。

 暴れるリリアン。もし口を塞がれてなかったら「アンタの手、薬品臭い!」と叫んでいたであろう。

 先程の花からだいぶ離れた所でエンリケは手を離す。


「ぷはっ、何するのよ!」

「こっちの台詞だ。フラフラと《昏睡オシドリ花》に近付きよりおって。そのまま花粉を吸ったらどうなったことか」

「《昏睡オシドリ花》?」

聞いたことのない名前に憤るのも忘れ、首をかしげる。

「見た目が踊っている鳥みたいな型をしている事から名付けられた花だ。その花は生物の歩く振動を感じると先ず最初に微かに花粉を出す。そして、その見た目と花粉の甘い匂いを吸えば生物はまるで火に誘われる虫のように花に近付いてしまう。触らず花粉が僅かしか出ていない状態ですら、軽く魅力の催眠にかかっていたのだ。触って、花粉が反応で噴出されたのを吸えば最低3日は目を覚まさんぞ」

「3日!? そんなのこんな大自然の中でなったら絶対助からないじゃない」

「そうだと言っている。それほどの危険な花なのだ。俺みたいにキチンとした対処法を知らない、海賊などがあれを吸ってそのまま昏睡し、結局目覚めることなく白骨死体となるのはよくある事だ」

「白骨……!?」


 ブルリとリリアンは肩を震わせる。

 そんなに恐ろしい花だとは思っていなかったのだ。


「わかったか? 注意しておきながら自ら危険物に手を突っ込もうとするとは。この愚か者め。今までの冷静さはただの飾りか?」

「う、うぅ……そ、そこまで言わなくても……」

「ほぉ? ならば言い訳をしてみろ。俺からすればC・コロンも、リコも、お前も変わらん。皆子どもだ」

「それはアンタがおっさんなだけでしょ!」

「……まぁ、そうだが」


 おっさんで何が悪い? そう目線で訴えるエンリケ。

 実際歳上であるし、クラリッサと違いリリアンは命の恩人という訳ではない。だからエンリケも遠慮なく注意する。

 というか、彼はこれが素であり、オリビアからも協調性の無さを都度(つど)指摘されていた。因みに治す気はない。


「まぁまぁ、キケ。誰にだって油断はあるのだからそれくらいにしといてやれ」

「うぅ、コロ〜ネェ〜」

「ふん、その不注意で死んだら責任を取るのはそいつだ」

「むっ、確かにそうだな。気をつけなきゃダメだぞリリー!」

「コローネ!?」

「リリーが死んだら私は悲しくて泣いちゃうからな! 植物相手だと仇を取ることも出来ない」

「えっ、あ……うん。次から気をつけるわ」


  悲しそうに目を伏せるコロンに、リリアンは自らの行動が軽率だったと反省する。

 とはいえエンリケの物言いに対してのムッとした反抗心は消えていないが。完全な逆恨みである。

 そんな空気を知ってから知らずか、リコがとある一点を指差す。


「せんちょーせんちょー! あっちに美味しそうな果物があるであります! とってくるであります!」

「おぉ、行ってこい!」

「……いや、待て。あんな不自然にポツンときのみがあるはずが」


 果実はまるで提灯(ちょうちん)のように、一つだけ大きなきのみが地面から伸びて生えていた。

 いくらここが自然の宝庫とはいえ、どうみても怪しい。

 だがエンリケの忠告を無視し、リコが果実に手をかける。


「ついたであります! ……? うぐぐ、中々取れないであります……と、わわわ!?」

「リコ!?」


 突如としてリコの登った果実のついた枝が揺れる。嫌な予感したリコは咄嗟にロープを木に引っかける。次の瞬間、地面が盛り上がる。

 リコは引っかけたロープでその場を脱出すると、リコのいた位置は地面から現れた魔獣によって土ごと食らわれた。


「ロ、ロープがなければ即死だった、であります」

≪ゴアァァアァァアッッ!!≫

「噂をすれば魔獣のお出ましか!」


 現れたのは身体中を苔で覆われた平べったい魔獣だ。頭には先程リコが取ろうとしたイチゴに似た果実がある。

 言うなれば脚の生えた提灯鮟鱇(ちょうちんあんこう)。それが大口を開けて、リコがダメだったと見るや、木の上にいるリコよりも地面にいたコロン達へと向かってくる。


「待ち伏せ型の魔獣か。定石では擬態をするものは総じて動きが鈍いとされているが」

「めっちゃ速い動きでこっちに来ているぞ。キケ」

「やはり経験はあてにならんな」

「魔獣ね! 良いわ相手になるわ! 私の恥辱と悲しみと怒り! お前に受けてもらうわ!」

「ただの八つ当たりではないか」

「うっさい! 見てなさいよ、射撃!」


 リリアンが銃を構え、魔力を加える事で弾が装填される。氷弾という他に類を見ない銃弾である。

 パァンと連続して音が鳴り、撃たれた氷弾は魔獣の脚に当たり凍らせる。

 が、魔獣は氷の拘束をそのまま力任せに砕き接近する。


「え!? うそぉ!?」

「はーはっハァ! これはまた凄い力だな!」


 先ほどと変わらないスピードで大きな口を開けて此方に来る魔獣。

 銃が効かず唖然とするリリアンとは対照的に楽しそうに笑うコロン。


「だがな! 力勝負なら私も負けないぞー! どっせーい!」


 錨を横振り、魔獣の土手っ腹を思いっきりぶちのめす。

 魔獣は思ったよりもブヨブヨした感触で、皮も厚かった。


 コロンの力任せの横殴りにより、魔獣は吹っ飛ばされながら巻き込まれた樹々が倒壊する。

 しかし魔獣はあれだけの攻撃を受けたのにこたえた様子はない。

 更には苛立ったのか吼え、又も突撃する魔獣。

 するとその背に何かが飛び乗った。


「いひひっ、さっきはよくもやってくれたでありますな。おとなしくするであります!」


 笑いながら木から飛び移ったのはリコだ。

 手に持つロープで起用にも魔獣の関節などに縛り上げ動きを阻害する。更にはロープが結ばれている先にあったのは周囲にある木だ。

 15メートルはある幹が太く、しっかりと根を張った木は魔獣が暴れてもビクともせずに、動きを拘束する。

 もはや魔獣は身動きが取れなくなった。


「良いぞリコ! それ、頭どっかーんだ!」

≪ゴババッ!? ≫


 脳天に一撃を食らった魔獣は、吹っ飛んで攻撃を受け流すことも出来ずに、まともに食らった。

 頭蓋骨ごと錨の一撃で陥没する。魔獣は大きな口から体液をぶちまけて沈黙した。


「倒したぞォー!」

「やったでありまーす!」


 イェーイと手を合わせるコロンとリコ。

 それを離れた所で見るリリアンとエンリケ。


 リリアンは大口を叩いたが、何の役にも立っていなかった。今も手持ち無沙汰に銃を持ったまま口を開けている。

 エンリケは態とらしく眼鏡をあげる。


「……ふっ」

「! むきぃー! 次こそ見てなさいよ! アンタなんか目じゃないくらい活躍してやるんだから!!」

「こらぁー! 二人とも喧嘩はダメだぞ!」

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