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島上陸

一年ぶりの更新です。

待っていた方、お待ちしました。

 嵐の後に発見した 《いるかさん号》はとりあえず、木ばっかりジャングルの中で、なるべく船を寄せられそうな陸地に停泊することにした。

 (いかり)を降ろそうするより早く、コロンが島の大地へとジャンプした。


「ぬぁーはっハッー! 先ずは私の足跡をつけてやったぞ」

「あ、ズルイであります! とう!」


 どや顔で自慢するコロンに続いてリコも着地する。


「ふはは、もう遅いぞ。この島に第一歩の刻んだのは私だ!」

「そんなのこうすれば関係ないであります!」

「あ、こら。私の足跡を消そうとするなっ。卑怯だぞ」

「先に飛び降りたせんちょーには言われたくないであります!」


 またもきゃいきゃい喧嘩する二人。

 と、そこへ


「二人とも〜? 船が泊まるより先に降りるとは一体どういう了見ですかぁ? 着地に失敗して足とか折ったらどうするつもりですかぁ?」

「ひぃっ!」

「オ、オリビア」


 船を停泊し、ミラニューロテナガザルが板を道としてかけることで降りてきたオリビアがにこにことしながら二人を咎める。

 笑顔であるが、圧がオリビアから漂っている。


「あ、いやっ。ついそのテンションが上がってな。ほら、若気の至りってやつだ。だから、その、穏便にだなっ」

「リコはわるくないでありますっ、せんちょーが先に勝手に行ったからリコもそれにつられただけであります! だから最初に責めるのはせんちょーであるべきであります!」

「なぁっ、ひ、卑怯だぞ!」

「せんちょーなら船員を守って欲しいであります!」

「その船員に売り飛ばされそうになってるんだが!?」

「喧嘩しても許しませんよぉ〜? 常々思っていたのですけど二人にはもう少し女の子としての嗜みがーー」


 その後もクドクドと叱られる二人。

 段々としょぼんと萎れていく様は見ていて偲びない。オリビアの隣まで来たエンリケは口を挟む。


「そこまでにしておけ。それ以上は偲びない」

「えぇ〜、でも〜」

「オリビアの心配も理解できる。だが、もう反省している。そうだろう?」

「も、勿論だ!」

「当然であります!」


 コクコクと頷く二人。こういう時だけは仲が良い。

 オリビアはまだ何か言い足りなかったが二人の様子とエンリケの顔を見て深いため息を吐いた。


「……もう、エンリケさんは甘すぎるんですぉ〜」

「そんなことはない」

「そんなことありますぅ。この間もーー」


 逆にこっちに矛先が向いた事にエンリケの頰が若干引き攣る。二人を見ると、さっと二人は顔を背けた。

 庇うのではなかった。エンリケは後悔した。



 その後も続々と船から降りてくる《いるかさん号》の船員達。誰もがこの島の自然に圧倒されている。

 島は見渡す限り自然の宝庫であった。

 先ず停泊する為に島に近付くにつれて見えて来た、島全体を傘の如く覆うような巨木。見上げてみると一杯一枚の葉も非常に大きい。更には日光が殆どこの巨木に遮られているのに、これまた見たこともない大きい木が幾つも乱立して生えているのだ。地面には木の根上に腐敗し、落ちた葉っぱが腐葉土として地面として形成されていた。それでも木の根の方が地面を占める割合として多い。

 大自然の宝庫。ミラニューロテナガザル達は、故郷を思い出すのか全員はしゃいでいた。


 そこへ船の下から白い胴体に赤い髪が特徴の清魚、(タツ)が現れた。


≪クゥゥ≫

「おぉ、ヒョロ(・・・)! さっきはナイスだったな。おかげであの嵐を抜けることが出来たぞ!」

≪クゥゥゥ≫

「……!」


 褒めるコロン。

 その隣で龍を見たティノがさっとオリビアの陰に隠れる。その様子をおやっとエンリケは眺めた。


「む? ティノはまだヒョロが苦手なようだな」

「確かに子どもからしたら顔が怖いかもしれないな。自分は戦士だからそうは思わんが」

「リコも別に平気でありますけど」

「そりゃ幼少期から魔獣のいる島で育ったアンタじゃそうだろうけど、ティノは元は一般人よ。こんな風に魔魚と接する機会がなかったんだから仕方ないわ」

「あー! アナっち今魔魚って言ったぁー! 違うもん、(タツ)は清魚だもん! ひどいよ!」

「ご、ごめんなさいっ。っていうかアナっちって辞めてよ!  私はリリアンよ!」

「やだ! アナっちはアナっちだもーん。それよりも、コロっち、ヒョロじゃなくて龍だよ! いい加減名前覚えてよ!」

「いや、白くでひょろひょろしているからヒョロだろ」

「ちーがーうー!」


 《いるかさん号》の上でプリプリと尾を振りながら、頰を膨らませるクラリッサ。

 どうやらコロンのつけた龍のあだ名が不満らしい。

 龍はその厳つい顔に似合わないオロオロとした態度で、主人とコロンを見比べていた。


「大丈夫ですかぁ? 少しずつ、龍くんに慣れていけば良いんですよぉ〜」

「……ぅ、ぅん」


「まぁ、クラリッサの言葉は後で聞くとして。……それにしてもデッカい島だなぁ。見渡す限り樹しかないぞ。特に島に寄った時にあった中央の馬鹿でかい木は凄いな! そうだ、島に着いたなら名前をつけないとな。うむ、名付けるならコロン島だな!」

「あー! ずるいであります、リコ島の方が良いであります!」

≪うききー!≫

≪うっきうっき≫

「え、ふぁみり〜たちも自分の名前をつけたいでありますか?」

≪うき!≫

「ふむ、最初に見つけたのは自分なのだからビアンカ島か?」

「何アンタまで張り合ってるのよ……」

「ふふん、只の気まぐれだ」


 何処か得意げに腕を組むビアンカ。

 アンタまであんな(コロンとリコ)みたくなったら身が持たないわ、と呟くリリアン。


 その騒ぎを《いるかさん号》の上でアリアとクラリッサが見つめていた。


「やれやれ、みんな名前を自らの名前にするなんて安直だよ。ボクとしたら溢れんばかりの自然の生命力にあやかって《緑の大地(ベルデ・ティエーラ)》なんてのが良いと思うんだけどどう思う?」

「……」

「? どうしたんだい、海の歌い手(メロウ)? まだ、船長が言ったことに()ねてるのかい?」

「違うよ。いや、違くはないんだけど。……あのね、なーんか変な感じがするの。この島。何というかな、見た目は綺麗だけど中身は違うって言うか……。あたしもうまく表現できないけど」

「そうかい? でもおかしな所は特にないと思うんだけど……」


 アリアは島に目を向けるがクラリッサの言うような違和感を覚えない。精々植物が多いくらいだ。特に中央に聳えていたあの巨木は凄い。高さにして100メートルは優に超えている。


 あそこまで大きいのは見たことがない。

 だが、それ以外は普通のジャングルだ。クラリッサが言うようなおかしな所は何もない。


「……やっぱり、あたし気になる! ごめん、アリア。あたし海の中で島の周りを見てくるからみんなに言っておいて!」

「えっ!? ちょ、ちょっと」


 止める暇なくクラリッサは海の中に入っていった。途方に暮れるアリア。

 その間もコロン達の間では話は続く。


「むぅ、平行線だな。名前云々は後にすることにしよう。とりあえず探索だな! 私の冒険心がウズウズする! もしかしたら見たことない景色があったり。他の海賊が隠した財宝が眠っているかもしれない」

「待ってよ、船の修理はどうするのよ?」

「それはお猿さん達に任せる。私は細かい作業は苦手だ」

 過去に力任せにハンマーを振りかざし、逆に損傷を増やした過去があるのを思い出し渋い顔をする。

「そうよね。ならその間、島を探索してもらった方が有意義かしら……。水の方もクラリッサに頼らないで確保出来たら良いに越した方が良いし。でもそう都合よくお宝があるかしら」

「別に無くても構わない。けれどもあるかもしれないという浪漫があるだろう?」

「私にはその浪漫ってのがちぃーともわからないわ」

「せんちょー、探検するでありますか? ならリコも行くであります。今度は置いていかれる訳にはいかないであります」

「猿たちへの指示はどうするのよ?」

「さる吾郎に任せるであります。ふぁみり〜の中でもえらいさる吾郎なら任せても大丈夫であります」

≪……ゔき≫


 任せろとその厳つい顔で親指を立てるさる吾郎。けん玉でエンリケが技を見せて以来何かと付き従うので忘れているが、そもそもさる吾郎はミラニューロテナガザルでも地位の高い個体である。

 他のミラニューロテナガザルへの統率もお手の物だ。


 リリアンもリコの言葉に頷く。

 ここで駄目というとリコが行きたいと行きたーい! とごねる可能性があった。なら素直に行かせた方が良いとリリアンは判断したのだ。


「よーし、それじゃリコ! 私と一緒に冒険に出発するぞ!」

「おー! であります」

「待ってくれ。……すまないがC・コロン。俺も連れて行ってもらえないか?」

「キケ? 別に良いが急にどうしたんだ?」


 エンリケ自ら同行を申し出るのは珍しい。そう思ったコロンが質問する。

 エンリケは少し考え込む表情をする。


「……この島は植物が豊富だ。もしかすれば治療薬を作成するための薬草が見つかるかもしれない。ならば採取しない手はない。調査の為にな」

「ならいいぞ! 探検は人数が多い方が楽しいしな!」

「ししょーも来るでありますか! なら百人力でありますな! 怪我をしても怖くないであります!」

「リコちゃ〜ん? 先ずは怪我をしない努力をしましょうねぇ?」

「ひぃっ! わ、わかったであります。安全第一に行動するであります!」


 オリビアの言葉に「安全、怪我なく、慎重に」と繰り返す呟くリコ。

 一連の流れを見ていたビアンカが、肩を(すく)める。


「なら自分は《いるかさん号》で待っておこう。船を襲おうとする魔獣がいないとも限らないしな」

「任せたぞビアンカ!」

「ふぁみり〜達を守って欲しいであります!」

「無論だ」


 そのまま船に戻っていくビアンカを見送る。最後、リリアンとすれ違う時ビアンカはリリアンを見た。だが、何も言わずに戻っていった。

 エンリケはオリビアへと話しかける。


「オリビア、悪いが怪我をしたミラニューロテナガザル達を頼む。今の所命に別状はないだろうが念の為にな」

「はぁい、わかりましたよぉ。エンリケさん、薬草の方期待していますからねぇ〜。ほら、ティノちゃん。皆行くらしいですよぉ」

「ぁ、ぅ。みんな、がんばって……ね……」

「うむ! 任せておけ!」


 こうして留守番組と、探検組に別れた。

 改めてしゅっぱーつ、と意気込むコロン。

 その後ろで顔を俯け、何やら考え込んでいたリリアンだが、バッと顔をあげる。


「……待って私も行くわ」

「リリー? 何時もなら来ないのにどうしたんだ?」

「あんたたち三人だけで行かせたらそのまま迷子になって帰って来なさそうだもん。大丈夫、私はコンパスを持っているから道に迷うことはないわ」

「そんなことない……であります?」

「何で疑問系なのよ。その時点で不安しかないわ」


 こてんと首を傾げるリコにリリアンは呆れた視線を向ける。


「私は良いぞ! リリーが来てくれるならこんなに頼もしいことはないしな!」

「俺も異存はない」

「そうでありますな! ししょーと合わせてえっと……えっと……ゆ、指が足りないであります」

「アホなこと言ってないでさっさと行きましょう。このままのペースだと日が暮れるわ」

「そうだな! それじゃ、任せたぞ!」


 こうしてコロン達はジャングルの中へと入って行った。

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