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祝勝会

「さて! 皆良く戦ってくれたな! 先ずは戦いの勝利を祝うのだ! かんぱーい!」

「「「かんぱーい(であります!)」」」


 コロンの掛け声に手に持つジョッキをぶつけ合う。

 リビングの隣にある会議室で一同はささやかだが祝勝会を開いていた。机の上には真ん中に鳥丸ごと使った料理が鎮座し、その他にも数多くの料理が並ぶ。参加者はコロン、リリアン、ビアンカ、リコの四人だ。オリビアとエンリケとティノは残念ながら負傷した猿達の治療にあたり、アリアは「今日は気分が乗らないや」との事で不参加だ。他の二人(・・)も似たような理由で不参加である。


「うむ! やはり、飲み物は()()()に限るな!」

「あんまり飲み過ぎないでよ? コローネは飲み過ぎると悪酔いするんだから」

「わかってるわかってる。……リコ、もう一杯!」

「分かってないじゃない!」

「まぁまぁ、折角の勝利の美酒なんだから少しくらい羽目を外しても良いだろリリー? うむ、美味い」


 口に泡のお髭をつけたコロンが笑いながら焼き鳥をつまみ、その味に頷く。もう、と思いながらも上機嫌なコロンをリリアンは優しげな瞳で見つめていた。


「自分はビールより、ワインの方が好きだな」

「リコはそんなの飲めないであります。なんか苦味しか感じないであります」


 優雅に葡萄(ぶどう)で作られたワインを飲むビアンカと果実で作られたジュースを両手でコクコクと飲むリコ。飲み方一つでもかなり差が出ている。


「しっかしこれほどの食事は久々だな! あの船も中々に財宝を溜め込んでいだおかげでこちらの金庫は潤った。いい事尽くめだ!」

「根こそぎ奪えばもっとあったと思うけどね」

「それはダメだ。たとえ敗者であろうと生存できる必要最低限の食糧と金は残しておいてやらないと」


 コロンは《悪辣なる鯱》を皆殺しにはしなかった。それどころか食糧も残しておいた。

 これはこの船独自のルールだった。理由はどうあれ戦った相手には最低限の物資を残すというもの。戦いの最中に死んだのならば放置で良いが、生きているのならば食糧は必要だ。だからこそ生存できるくらいの物資は残しておく。


 コロンにとっては世界一周が()()であり、戦闘は目的ではない。


 最低限なのは、その後にどうするかはコロンの知った事ではないからだ。死のうがどうでも良い。ただ機会は与えておく。

 冷たいと思うがそもそも負けた海賊は奴隷落ちか皆殺しかの二択なのでこれでもかなり恩情(おんじょう)がある方だ。


「勝てば生きるし、負ければ死ぬ。それがこの世界のルールだと自分は思う。だからコロンの対応は甘過ぎると言わざるを得んが……」

「戦いに勝った後に殺すとか血生臭いは好まない。別に戦うのは好きだがな! だが気持ち良い勝利の後にそんな事したら気分が悪くなって飯がまずくなるではないか!」

「結局行き着くのはご飯なのよね」


 呆れたようにリリアンは呟く。今回の祝勝会もコロンのゴリ押しで開かれたのだ。小さい体に見合わず大食いなコロンは必ず勝利の後はたくさんご飯を食べれるように祝勝会を開く。

 これはコロンに限らず海賊ではよくあることだった。それは明日をも知れない航海で生きていることを実感するために必要なことでもあった。




「ふぅ、それじゃ祝勝会はこれぐらいにして本題に入るわ」


 机に並べられた料理も残り少なくなった時、その声に緩んでいた空気が引き締まる。今回会議室に集まったのは何も祝勝会だけを行う為ではなかった。


「さて、私達は今現在北東へ進路を決めて進んでいるわ。風も偏西風に乗れてるから何か進路がズレる大幅な出来事が起きないなら予定通りならこのままの航路でドラゴ国の港町に着くはずだわ」

「新天地への玄関口だな」

「そうよ、そこに行けば私たちは世界一周への一歩を進めることが出来る」


 ビアンカの言葉に頷く。

 ドラゴ国はその先にある新天地……《未知の領域》へ向かう為の玄関口なのだ。その為にはドラム国の港町サンターニュに行き着く必要がある。《サンターニュ》は行き交う商船や冒険者、海賊達が集う交流地として栄えているのに有名な所だ。各国からの商船が《未知の領域》から持ち帰られた素材を求め集まり、海賊達も商船が持って来る物資を求めて集まる。


 海賊達が集うのならば略奪が起きるのではと危惧すると思うがドラゴ国の兵士が屈強な事と、数多くの海賊も一ヶ所に集う事から一度争えばその規模も大規模にならざるを得ず、そうなると被害も甚大になる。そうなると交渉にも影響が出てしまう。それは海賊達にしても貴重な物資を補給できる場所なので大損害になってしまう。

 それでも抗争は起きる時は起きるがそれを煩わしく思う商船や海賊の大勢力に鎮圧される。

 結果、海賊がいるとは思えないほど《サンターニュ》は活気に溢れ、その賑わいは各国の王都とも引けを取らないと言われている。


「本来ならこのままドラゴ国に向かって進む予定だったけど、けど私は一度ここから北寄りに向かおうと思っているわ」

「む? それはどういうことだリリー?」


 代表して質問したコロンに、「これを見て」と海図を広げる。そのまま指でトントンと一箇所を指した。一同が覗き込む。


「相手方から押収した物の中に海図があったわ。私達が持っていたのよりずっと正確なのをよ。それによるとここから北西に向かうと港町があるわ」

「港町でありますか?」

「そう。記された内容によると《トロイ》と呼ばれる港町ね。規模は小規模で《サンターニュ》とは天と地ほどの差があるわ。一応国には属してはいるけど末端らしいわ」

「リリアン、その海図が罠の可能性はないのか?」

「私もそれは考えたわ。だけどコロンの力を見たせいか向こうも抵抗せず寧ろ差し出す勢いで渡してきたわ。あの怯えようから見て嘘の情報を渡すとも思えないし、途中まではこっちの地図とも周辺の島の一位置も一致しているし可能性は低いでしょうね」

「ぬぁーはっハッー! なるほど、私のおかげか!」

「力ほど単純かつ効果的なのはないという訳か」


 自らのおかげという事にコロンの機嫌が良くなる。


「ドラゴ国の港町に停泊する予定だったけど、近くにあるならそこで補給することにするわ。理由はこのままだと、計算したら食糧がギリギリな事と生活必需品と軍需品を補給するためよ」

「そうだな。あいつらから奪ったとはいえ、少し心許無くなってきたからな」

「全く! 食糧が無いなど管理を怠ったんじゃないかリリー?」

「そうでありますなぁ。リリアン殿も案外ぬけているところがあったんでありますな!」

「うっさい、そこの大食い二人。だ・れ・のおかげで二ヶ月分の食糧が一ヶ月で尽きたと思ってるのかしらぁ〜? 」

「い、いいいいたいいたいリリー! 頰をひっぱらないでくれっ!!」

「み、耳は嫌でありますぅぅ!!」


 リリアンは当初ドラゴ国につくまでに必要な食糧を計算し、しっかり計算して積み込んでいた。

 だが途中宴やら、船員(エンリケ)が一人増えるなどの想定外な事態を挟み、予想以上に食糧を消費してしまったのだ。特に宴の時に沢山食べたのもこの二人だ。

 今回の祝勝会も相手から食糧を奪えたのとコロンがどうしても言ったからこそ出来た事だ。本当ならば開く余力はあまりなかった。


 引っ張っていたのをやめると二人は「あうちっ」と声を出しながら患部をさする。


「というかリコ、あんた勝手に猿達相手に食糧を配っていたわね」

「あ、あれはふぁみり〜達の息抜きも兼ねていたのでありますっ。最近は戦闘も全くなくて食事も質素だったでありますから何か目に見えての褒美と言うでありますか、やる気は引き出す何かが必要だったのであります!」

「そうね。それ自体は責めはしないわ。……問題はその褒美を私が食糧を見る前に猿達が手をつけてしまったことよ! すこし楽になると思ったのに!」


 猿達は確かに活躍した。しかし、海賊を追い回す途中に食糧庫に侵入した猿達がその食糧を食べ荒らしたのだ。《いるかさん号》のキッチンならこのようなことは起きなかっただろう。敵の船だったこそ起きた事である。

 結果、食糧は奪えたが猿達が食った上に相手にも残したので、それほど増えてはいない。ドラゴ国ではなくトロイ港町に向かおうと決めた一因もこれである。


「そしてその件で決めたことがあるわ。罰としてリコ、あなたの食事は三日間量を減らすわ」

「え、えぇぇぇーーっ!!? そんなリリアンどのー! せつしょーな!」

「殺生よ。……私だって本当はこんなことしたくないわよ! だけど、船において決まりごとは守る必要はあるわ。今回の件は貴方の監督不行き届きのせいよ」

「うぅ〜……」


 しょんぼりと落ち込むリコに心が痛む。だけどこれは必要な事だ。それに少なくなるだけで食べさせない訳ではない。三日経てば元に戻すのだ。リリアンは自身の良心をそう言って納得させた。

 下を向くリコだが、実はそんなに落ち込んではいなかった。食べる量が減るのは確かに悲しいがリコには秘策がある。


「ま、まぁリコはいざという時はししょーに作って貰えれば……」

「何か言った?」

「べべべ、別に何でもないでありますよリリアン殿! あー、ざんねん、ざんねんでありますなー」

「……?」


 多少怪訝(けげん)に思ったようだが今は気にするほどではないと海図に視線を戻すリリアン。

 分かりやすくほっとするリコ。


「とにかくっ! このままではドラゴ国に着く前に飢えちゃうわ。クラリッサに言えば最低限の魚は確保出来るけど、ただでさえあの子には頼っているのにこれ以上甘えることはできないわ」

「余り個人の力に頼りすぎると組織としての体がなされない、ということか」

「そうよ。自分達で出来ることは自分達でなるべくする。あの子と私たちはちょっと違う(・・・・・・)のだから。だからこそ協力して物事に対処する必要があるわ。まぁ、私達の船は個人の力が色んな方向に特化し過ぎて協力が難しいんだけど……」


 ぼやくようにつぶやく。この船に乗るメンバーはそうした色々と訳ありなのが多いのだ。


「これが私が航海士としてもドラゴ国ではなく、《トロイ》に向かおうと思った理由よ。それでコローネ、何か問題はあるかしら?」


 念の為コロンに確認する。何だかんだ言ってこの船の船長はコロンなのだ。


「うむ! そうだな、ならリリーの言う通り目標は北の向かおう! その海図の港町とやらにも興味があるからな!」


 その一言で今後の方針は決まった。


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