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駆逐艦「ブルー・バード」

 以前活動報告で出したネタが頭の中で形になったので、それを小説にしたものです。


 一応拡張性を担保するため、連載としていますが、今後続けるかはわかりませんので、御了承ください。

「おお!すっかり直ったな」


 俺は埠頭に繋がれた艦を見て、上機嫌に声を上げた。


 半年前、俺が先任士官を務めていた駆逐艦「ブルー」は、敵艦との戦闘で魚雷を艦中央部に喰らって、艦体が二つにポッキリ折れちまった。


 普通ならそれで沈没だったけど、幸か不幸か折れるまでには少し時間があって、損傷の酷かった後部は諦めて自沈させるしかなかったが、前部は防水処置を講じてなんとか沈ませずに済んだ。


 戦闘終了後、「ブルー」(厳密にはその前半部のみ)は僚艦に曳航されてこの港のドッグに入った。


 一方の俺はその時の戦闘が原因の負傷で3カ月の入院。さらに退院後は、教官職を命じられていたが、体も全快したことだし、やっぱり海に出たいのが海軍軍人の性分ってもんだ。


 そう言うわけで、転属願を毎日出し続けること3カ月、ようやく俺は前線へ戻る辞令をもらった。それも駆逐艦の艦長としてだ。さらに嬉しいのは、赴任することになった艦は「ブルー・バード」。半年前まで乗っていた「ブルー」の生まれ変わりだ。


 何で名前が変わったのかと言えば、それは文字通り、この艦は「ブルー」と別の駆逐艦「バード」をくっつけた船だからだ。


 後ろ半分を喪った「ブルー」。普通なら代替の艦体を建造するなりして繋ぎ合わせるのがベストだが、戦時下にそんな悠長なことしてはいられない。


 そんな時、ちょうど同型のB級駆逐艦の「バード」が、艦体の前半部に触雷してドック入りしていた。


「バード」の方は「ブルー」とは逆に後ろ半分が無事で、前半分を修理しようと思うと何年も掛かる大損傷だった。


 そこで、ドックの技術屋たちは、同型艦ということで「バード」の艦体をカットして、「ブルー」に繋ぎ合わせるって言う、荒業を考え出したわけ。


 つまりはニコイチというわけだ。


 なんか話だけ聞くとツギハギの不格好な姿になってないか心配になってくるが、そこはそれ。さすがはベテランの工員がいる造船所だけある。修理された「ブルー・バード」はまるで新品同様の姿を海上に浮かべていた。


「艦長乗艦する!」


「乗艦を許可します。ようこそ艦長、「ブルー・バード」へ」


「おう、今日からよろしく頼む」


 艦に乗り込むと、舷門の水兵が出迎えてくれる。そして俺のことを、初めて艦長と呼ぶ乗員第一号となった彼に、答礼する。


「お!先任士官!いえ、艦長。お着きになられたのですね」


「おう!水雷長。お前さんが先任士官か、よろしく頼むわ」


 半年前は水雷長だった先任士官と気軽に挨拶を交わす。何せこいつとは、2年間この艦の士官室で一緒に過ごしたんだからな。


 そう考えると、艦長として個室が与えられるのはちょっと寂しい気分だ。


 とは言え、艦長たるものそれに見合った威厳がないといかんからな。


「どうだい?「ブルー・バード」の具合は?」


 俺は上官として先任士官に問いかける。


「う~ん・・・まあ、艦としちゃ悪くないですね。ドックの連中いい仕事してくれましたよ。ただなあ~」


 なんだ、随分歯切れが悪いな。


「どうした?・・・まさか、「ブルー」の奴。艦魂に何かあったのか?」


「まあな」


 ムム。そいつはいけないな。


 艦魂は、字の如く艦の魂である。艦を呼ぶ呼称で「姉妹艦」とあるように、艦は通常女性として扱われる。だからその船に宿る魂も女性の形をしている。


 この艦魂についてだが、これが中々、をお伽噺のように軽く片付けてはいけない。というのも、この艦魂と乗員が如何に心を通わせられるか、これが艦を生存させる大きな要素となるからだ。


 艦に宿る魂なのだから、つまりは艦魂とはその艦の化身。その艦の状態を如実に表している。だから例えば艦魂の調子が悪いと、艦そのものの調子が悪い(エンジントラブルとか艦体に異常とか)ことを意味する。


 また艦魂のメンタリティが悪いと、これまた船の運命に悪い影響を与える。ぞんざいに扱った挙句、戦闘どころか事故などで沈没してしまうなんてこともあるのだ。


「そう言えば、この艦の艦魂はどんなやつだ?」


 すると、先任に加えて周囲にいた水兵や下士官までビクつきおった。俺何かマズいこと言ったか?


 実はこの「ブルー・バード」の艦魂がどんな姿をしているのか、ちょっとばかり気になっていた。何せこの艦は2隻の艦を1隻にしたニコイチ艦。もともとそれぞれに艦魂がいたはずだが、艦魂は1隻に一人だから、果たしてどんな姿になっているか?


 病院でそんなことを他の患者と話していたが、誰もそんな艦魂を見たことはないので、答えを出すことができなかった。


 普通にどちらかの艦魂が残るか、全く違う艦魂になるか。スゴイ答えだと体が半分ずつくっつくとか、怖いこと言ったやつもいたな。


 うん?もしかして、そういうヤバイ奴なのか?


「あ~。艦長自身の目で御覧になればわかります。それから、言葉には気を付けてやってくださいね」


 先任士官は答えなかった。しかしその言葉からは、別の意味でヤバそうだと言うことは伝わってきた。


 とにかく、まずは艦長室に行き荷物を降ろす。そして艦内用の服に着替えて、件の艦魂を探すことにした。


「あ~、そこの水兵。この艦の艦魂を見なかったか?」


「か、艦長!?・・・あ、はい!艦魂なら、艦尾にいました!」

 

 若いその水兵は、俺に声を掛けられてよほど驚いたらしい。


「はは。ここは戦艦や巡洋艦じゃないんだ。士官相手にそんな緊張せんでもよろしい」


「はい!失礼します!・・・あ、艦長!」


「何だ?」


「その・・・艦魂に会う時は、出来るだけ気遣ってあげてください」


「む・・・」


「失礼しました!」


 ガチガチな敬礼をすると、水兵は行ってしまった。


「あんな新米水兵まで艦魂について注意か」


 嫌な予感しかしない。しかしこれから運命をともにする艦長として、艦魂と向き合わないわけにはいかない。


 俺は艦尾に向かって歩みを進めた。すると。


「何だ?」


 なんというか、重い空気を感じる。負のオーラと言えばいいのか?


 近づいてみると、見覚えのある青色の髪型見えてきた。


「ブルー」の艦魂は、艦名とおりの青く長い綺麗な髪を持った、贔屓目に見ても美女であった。髪の色はどうやら「ブルー」のままらしい。


 しかし、近づいてみると記憶にある「ブルー」とは大いに違うことに気づいた。


 艦魂らしい少女が艦尾爆雷の投射器に腰かけながら、海を眺めている。だがそのシルエットが、記憶にあるそれより一回りは小さい。かなり幼い印象だ。そして何より・・・


「?」


 と、艦魂の少女がこちらを向いた。


「・・・「ブルー」の先任士官さん?」


「ああ、そうだ。今日からはこの「ブルー・バード」の艦長だ」


「・・・そうですか、よろしくお願いします」


 何だこの負のオーラは!?おかしいぞ!「ブルー」の艦魂はおっとりとはしていたが、明るい笑顔が似合う女性の姿だったのに!?


 うん!?待てよ、そう言えば・・・


 俺は病院で会った元「バード」の乗員との会話を思い出す。


「「バード」の艦魂はいい娘だったんですけどね、外見がどう見てもロリでしてね。そっち系が好きな奴とか、子持ちの奴らはいいんですけど、俺みたいな独り身からすると、物足りなくて」


 女性が聞いたら眉を顰めるであろう発言だが、まあ男所帯な軍隊での会話なんてこんなもんだ。勘弁してほしい。


 とにかく、その「バード」の乗員によると、「バード」の艦魂は髪こそ「ブルー」と同じ蒼いロングヘアだったが、外見は幼児体型ロリだったらしい。


 艦に宿る艦魂の姿にはあまり規則性はない。同型艦でもグラマーなやつもいれば、全く逆の幼児体型な奴だっている。


 そうなると、この目の前の「ブルー・バード」の艦魂は元の二つの艦の艦魂が混ざったということだろうか?それなら、外見にも納得がいくな。幼児体型とは言わないが、ボリュームは「ブルー」のそれとは比較にならない。とくにム「艦長・・・」


「ブルー・バード」が小さく呟いたが、その声は恐ろしいほどに、そう。それこそナイフの刃のような鋭さと冷たさを含んでいた。


「今私について失礼なこと考えたでしょ・・・」


 何でそんなことわかる!?


 そして、それを認めたら色々とヤバイ。この艦が、それこそ港内で原因不明の爆発事故を起こす。それくらいのことが起こり得そうなくらいなマズイ。


「別に、そんなことないぞ」


 とりあえず否定するに限る。


「・・・本当ですか?」


 こいつ一言一言が冷たく重い。なるほど。先任士官やさっきの水兵が忠告したのもよくわかる。下手な対応すると命がない。いや、本当に、冗談抜きで。マジで。


「・・・わかりました。今は信じてあげましょう。あなたは私の艦長なんですから。これからよろしくお願いしますね。艦長」


「ああ、よろしく頼む」


 今はと限定したのが無駄に怖い。


 しかしこれはマズいことになったな。とりあえず、乗員たちには艦外でこいつの機嫌を損ねる言葉は絶対に口にしないように言明しないとな。貧乳とかツルペタとか、ドラム缶とか洗濯板とか。


 多分口にした日には、艦が沈む!


 それから、こいつのモチベーションを何とかあげんとな。こんな黒いオーラを出しているってことは、絶対に艦の運行に問題出るぞ!


 全く困ったな。俺独身どころか、女と付き合った経験なんてないぞ!


 さてさて、どうしたものか・・・


 うん、わからん。


 まあいい。着任したばかりで疲れた。何か甘いもんが欲しいな。食堂に行って何か甘い物でも食うか。


 ・・・待てよ、甘いものか。


「おい!」


「・・・何でしょうか?艦長?」


「少し疲れてるから、士官食堂で甘いもんでも食べようと思うんだが、お前も何か食うか?もちろん、俺がおごるぞ」


 餌付けみたいで複雑な気持ちだが、胃袋を抑えるのはどうだ?


「・・・では、御相伴にあずかります」


 よしよし、作戦の第一段階は成功だな。と言っても、気を抜けんな。まだ食堂に誘いだすのに成功したにすぎない・・・


 はあ。これからこんな気苦労を毎日しなきゃいかんのか。


 俺は憂鬱な気分になりつつも、ブルー・バードを従えて士官食堂に向かった。




 

御意見・御感想よろしくお願いします。


なお作者の脳内イメージとして、「ブルー」の艦魂は某91なアイドルさん。「バード」の艦魂は某ハンバーグ大好きな魔工師さん。「ブルー・バード」の艦魂は某72なアイドルさんです。

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