その6 夢と少女とドラゴンと死の山脈2
王立シカオ社の腕時計には
「気温-18℃、湿度78%、風速19m/s、標高4980m」
あまり人が過ごすには快適ではないね。
城から「上以心伝心」で情報が入ってきた
【先発隊が負傷を覆い退去した。危機を感じたら即座に退去せよ。】
今更引き返す訳にもいかない。マーブルチョコ覚醒+弐を二乗摂取し、一錠ヒトミに渡した。
ここは桃色峠の北東の尾根、泉ヒトミと二人で、星野ケンを追いにこの絶望的な環境の中を魔力で体力を回復しながら走っている。
数分後ケンと合流できた。
体調20mほどはある巨大なドラゴンが20mほど離れたところにある岩陰の向こうで寝ている。爪だけで1mはある、吐息で周囲の雪が瞬時に昇華する。
「いいか、あいつは怒ると鉄をも溶かす灼熱を吐く。迂闊に動いて起こしたりしたらただですまないぞ!」
「でも…それじゃあどうやってあいつを倒せばいいのよ?」
「ヒトミがまずこの拠点に魔法壁を貼る。俺はやつに忍び寄ってから筋弛緩の術で守備力を下げる。」
「え?それだとケンさん、危ないじゃないの?」
「大丈夫だ、術を使用後俺は飛翔でこの拠点まで戻る。やつはここで灼熱を確実に吐くが魔法壁のおかげで確実に俺らは耐えれる。そのあと、ヒトミが中水霊、俺が中雷鳴、アキラが雷神剣を打つ。そのコンボでやつを倒せるはずだ。作戦はじめるぞ!」
「「了解!」」
ヒトミは意識を集中し、淡い白色の魔法壁を築きはじめた。ケンは忍び足でドラゴンに近づき、魔法壁が完成したと同時に筋弛緩の術をドラゴンにかけ、全身を覆う強靱な肉壁を弛緩させ守備力を下げた。次の瞬間、ドラゴンの爪はケンを襲ったが、間一髪、飛翔で魔法壁の中へ潜り込むことに成功。三人は防御の態勢をとる。ドラゴンは煉獄の如き灼熱を吐く、壁内の温度がどんどん上昇する、ヒトミはケンに魔力譲渡し、次の瞬間俺とケンは飛翔でドラゴンの背後へ回った。
「いまだ!」
ヒトミは中水霊を放ち灼熱を中和しつつダメージをドラゴンに与える、1秒もたたぬ間にケンは中雷鳴で追撃、呪文と弛緩術で傷がついた急所に俺は全身全霊の雷神剣を放つ。ドラゴンの身体深くに剣がめり込む。
「勝ったか!?」
「うん、
ああ!!?」
致命傷を与えたと思ったがドラゴンはかろうじて息の根を止めていなかった。ヒトミは咄嗟に魔法壁を俺とケンにかけ、俺とケンは2発目の灼熱を受けた。これで俺のHpは10残り以下だ。身体が動かない。ケンも動けない、大きなダメージを受けたようだ。ヒトミはケンに中回復を放ち、次の瞬間ケンはドラゴンに中雷鳴を3,4発Mpの限界まで急所にめがけて連発した。ドラゴンは倒れた。心臓は真っ黒に焦げ、完全に生命の機関を止めていた。かろうじて俺達はドラゴンに勝てたのである。次の瞬間ケンは意識を失った。
ヒトミは俺とケンに中回復をMpの限界まで放ち、俺は完全に体力を回復したが、ケンの意識は戻らない。
俺とヒトミは麓の村までケンを運び、城に救急を要請した。
パーティーは魔法の絨毯で王宮へ運ばれ、世界樹の点滴を受け、3人の体力は回復した。しかしケンの意識は戻らない。それ以外の心肺機能などは正常だ。
3日後、ケンの意識が戻った。ケンははじめ離人感のためかうろたえていたが、数時間もしないうちに状況を飲み込めたようだ。そして、俺とヒトミに感謝した。
パーティーはこれまでで一番の祝福を街中から受けた。
俺は心底歓びを感じた。ドラゴンとの戦いはまさに命がけだった。いまでも血なまぐささが鼻からとれないが、国全体から祝福されてる歓びがその不安を上回る。しかし、意識を長時間失っていたケンのことがなんとも不可解で、心から安心することはできなかった。ヒトミにこのことで相談したら、ほとんど俺と同じことを代弁してくれた。
「人の体力は理論上HpとMpのみであらわされるものなのよ。魔力譲渡に中回復を施し、世界樹の点滴を受けたケンが長期間意識を失っていたことはこの魔法文明の時代にあってはならないことなのよ。」
「うん。俺もそれが腑に落ちない。」
「でも…だからって私たちにどうにかできることってなにもないよね、」
「そうだよな…とにかく次の戦いに備えないとね。よりコンビネーションを練らないといけないな、今回の戦いでコンビネーションの大切さが痛いほどわかったよ、ヒトミ、あ、いや、泉さん、ケンが元気になるまで俺らがパーティーを引っ張っていかないといけないから、これからはもっと気合いいれて練習にとりこもうぜ!」
「そうね!私たちにできることはやりたいね!あと、私のことはヒトミでいいわよ、名字で呼び合うなんて、同じパーティーなのに変だよね、アキラくん…」
「う…、そうだな、ヒトミ…、まぁよろしくな」
二人は「歴代勇者としての戦士の心構え」などの戦術書などで読書会をし、武術、魔法などの実践練習に育んだ。しばらくしたら、ケンも回復し、練習に参加した。
ケンの意識は半分普遍的無意識の海へ埋もれていて、目は輝きを失っていた。
その様を第三の瞳で観ていたのは大臣だった。
【偉大なるマーズの大王に捧げた我が魂、誓いは忘れてない。アニマの契約は順調だ。不安分子は力なき知恵と勇気で戦う真の勇者。そんなものは決して存在してはいけない。】
長時間椅子に座ると腰が痛くなるのでよく神田川へ行きます。あそこはいいところです。