その2 導かれし勇者達
勇者認定試験が終わり、学院では卒業式が行われた。
合格したものは後日ノヴェラ城で王から勇者の契約を結ぶ儀式を行う。不合格だった者は、学院に残り各学院専門科へ成績ごとに振り分けられる。大陸で仕事を持たない者はいない。数学や心理を読む力に富む者は「商人」、力と体力に富む者は「建築士」、自然科学や魔法をよく理解してる者は魔法によって効率化され必要な栄養素のすべて揃ったたこの大陸トゥールの名産物である電子ピザとマーブルチョコの開発を行う「調理師」やその生産を行う工場ロボットを開発する「科学者」等みな勇者に劣らず必要不可欠な職に就いている。
幼い頃から憧れていた街の中央にある城の門を俺はくぐり、大講堂へ向かった。王族に仕える執事やメイドが俺に礼をしている、なんとも不思議な気分だ。
大講堂にはすでに新勇者たちが座るための座席が用意されており、俺は自分の名前が書いてある席へ向かい座った。新勇者たちの周りには屈曲な先輩達が武器を持って俺たちを囲んでいる。嫌でも緊張してしまう。当然ここにいる新勇者たちはみんな俺と同期の学院卒だから殆どの人とは知り合いではあるのだがとてもじゃないがくだらないことをお喋りする気分にはなれない。俺は、いや皆が王が現れるのを待っている。
ガチャッ
王と側近の大臣が巨大な扉を開き入ってきた。
緊張のひととき。
「諸君!よくぞ私が大陸一優秀な私の頭を数ヶ月捻りつくった難問ばかりの試験を突破した!おめでとう!!
おまえたちはこれからは立派な勇者としてこの国を守ってもらう使命にある。」
王は懐から金色に輝く巨大な剣を持ち上げた。
「これからガイアの力を受け取るのだ。己の魂とガイアの間でアニマの契約をこれから結んでもらう!」
アニマの契約とは惑星の魂であるガイアとの間に結ぶ契約だ。各勇者が生まれながらにして持っているオーラに応じて、契約を交わしたあとにガイアのオーブの力を具現化した剣、弓、鞭、杖、魔法剣などの武器を持つことになる。
大臣が続ける、
「新勇者達よ、名前を呼ばれた順にこの水晶玉に触れる。すぐに契約は終わる。それでは契約を始める。」
大臣は王の方を向いた。王は静かにうなずいた。大臣はなにか呪文のようなものを詠唱し、水晶玉は重力から解放され、宙に浮いた。噂で聞いただけだが大臣は賢者を極めた大勇者であり、大陸一番の強力な魔法を使うらしい。
一人一人点呼され水晶玉に触れていった。すると触れた新勇者たちの身体は一瞬光を放ち自信の魂とガイアが呼応してうまれたさまざまな形状の武器を具現化していった。
俺の名前も呼ばれたので同じ儀式を行った。水晶玉に触れると、身体に少し電撃らしきものが走るのを感じた。触れた時間はほんの数秒のはずなのだが自分の意識がとてつもない距離を移動したかのような不思議な感覚を味わい、気がついたら手には白く輝く剣が握られていた。
2時間ほどで30人の新勇者達全員の儀式が終了した。そのあと大臣はどこかからか巨大な掲示版をもってきた。そこにはすべての新勇者達が3人組に組み分けされ記載されていた。大臣がまたしゃべり始めた。
「契約を終えた君たちは、アニマの契約によって武器を持ってるとき己の攻撃力もしくは魔法力を10〜50倍にいつでも高めることができる。つまり諸君は基本的に力の使い方さえ間違えなければ街の外の魔物に負けることはまずない。ただ、肉体そのものは生身なので、常に敵を【オーバーキル】する覚悟で臨まなければ下手したら死ぬ。過去にも何人かの新米の勇者達が力を出し惜しみ、魔物にはらわたをえぐられ、回復魔法を施す間もなく即死した。常に【オーバーキル】することを忘れるな。また、君たちは戦士タイプ、魔法使いタイプ、賢者タイプのもっとも危険性のないパーティーでこれからは王からのクエストをこなしてもらう。この掲示版に記載されてるパーティーで、つねに敵の数十倍の戦力で戦ってもらう。私たちの約束さえ守れば君たちの身には危険は一切ない。【オーバーキル】することを常にわすれるな。」
俺は掲示版をみて驚いた。あいつ、天才のあいつ、ケンと同じパーティーじゃないか!なんという腐れ縁、しかしここは心強いということにしておこう。もう一人のメンバーの名は「泉ヒトミ」とかいてある。名前からして女性らしいな。まぁ男ばかりのむさいパーティーよりはいいか。
ケンは杖を持っていた。悔しいが正直とても似合ってまさに魔法使いという感じだ。
「よう、親友!いままでは一緒に学び合う仲間だったな、これからは一緒に働く同僚ってとこか、ははは。」
「なぁにが同僚や。まぁいい、おめーがいると正直俺とて心強い。ところでもう一人の泉ヒトミって方はどこにいるかわかるか?」
「ああ、彼女ならおまえの横にもういるぞ。」
俺の左側をみた。誰もいない。右側には見覚えのある美しい少女が立っていた。試験の日に俺にぶつかってきたマーブルチョコの女じゃねーか…
「あらー、あなたが春日さんなんですね。あのときはほんとうに申し訳なかったですぅ。でもなんだか運命的ですね。よろしくお願いしますネ、私は泉ヒトミ、ヒトミでいいわよ。」
泉さん、いやヒトミは美しい弓を持っていた。3人で改めて自己紹介をし、
俺「春日アキラ」は
戦士 武器:剣
「星野ケン」は
魔法使い 武器:杖
「泉ヒトミ」は
賢者 武器:弓
であることがわかった。
なんつーか、すごい新鮮味のないパーティーなんだが、これから当分はこの3人で王からのクエストをこなしていくことになることを思い、俺は心に覚悟を決めた。
他のパーティーとも一通り挨拶をし、俺は家へ帰り、長い一日が終わった。家の扉をあけるとルミ子が抱きついてきた。恥ずかしいとりあえずからぶん殴った。ささやかなお祝い会を家族で行った。ちなみにルミ子12歳、いい加減そういうのはやめてほしい。あとお風呂に一緒に入るのもそろそろいやだ。
徐々に世界観明らかにしていくよ。