#3 水と伯爵とインスタ映え
ガージス大陸・西の都・サモアラン
「ねぇナイラスさん、船に乗って新しい街に来たのはいいけど、なんでこんなに暑いの?」
立っているだけで汗が噴き出る。その暑さは昨今、高温注意報が発令される東京のうだる様な暑さを軽く越してきた。これは死ねる……。
「それはですね、この大陸にはガージス火山と呼ばれる活火山があって、おまけに雨が降りづらい砂漠のど真ん中にある都市だからですよ」
「あぁ、そうなの……」見た目に似合わず、ナイラスさんは博識だった。人を見た目で判断しちゃいけない。しかしカレンは見た目で判断した。あの子は特例だ。だってかわいさが限界突破してるんだもの。
「んん?おかしいですな」
ちょうど街の中央にあたると思われる噴水広場に来たとき、ナイラスさんは足を止めた。
「なにが?」
「いや、2年前にこの街に来たときはこの中央広場で毎日のようにバザーが開かれていて随分と賑やかだったもので」ナイラスさんが首を傾げたようにその場で考え込む。
「言われてみれば確かに、街に入ってから人とひとりも出会ってませんね」ナイラスさんに同調するようにマリナさんが言う。いつの間にか膝下まである青色のローブを脱いで、薄いワンピース姿になっている。……エッチだ。
いやいや、この暑さだもん。みんなクーラーの効いた涼しい部屋で麦茶飲みながら海外ドラマでもダラダラと見たいでしょ。俺だったらそうする。
あれ、でもクーラーってこの世界にあんの?
「あっ。子供がいる!」同じく子供のエマちゃんがそういって民家のほうを指さす。
バタッ!
少年が覚束ない足取りで出てきたと思ったら、その場に急に倒れこんでしまった。
慌てて駆けつけると、少年はだいぶ憔悴していた。
「ん?何か言っているぞ」声を聞き取ろうとナイラスさんが少年の顔に耳を近付ける。
「み…ず。水?」
―――民家にて
「ありがとう。勇者さまたちがいなかったら、ぼく死んでたよ……」
バンと名乗った少年は俺たちが港町で補給してきた水を勢いよく飲むと、精気を取り戻したかのように元気になった。
「それでバン君、水がないとはどういうことなんだい?」
ナイラスさんがバン君に事情を尋ねる。こういうコミュニケーションはナイラスさんに任せよう。
俺にはさっきから気になっていることがある。
「うん……。全部魔王軍から派遣されてきたローニッヒ伯爵のせいなんだ!」
「魔王軍のローニッヒ伯爵?いや、しかしここの領主はウーマ殿のはずでは?」
ナイラスさんとバン君との会話に聞き耳を立てながら、俺はバン君の民家を見回す。
におう…におうぞ。
この民家、明らかにおかしい。
「もう1か月以上、領主様の姿は見てないんだ。きっとウーマ様は殺されたんだよ。あの伯爵に!」
「なんだと!?」
やはりおかしい。この民家にはクーラーがない、なのにめっちゃ涼しい!!
ん?あれはなんだ?
もう一度、部屋をよく見ると壁に青い光を放つ宝石みたいなものが取り付けられている。
「ねぇ、ねぇエマちゃん。あの壁の宝石、なに?」俺は耳打ちするように隣にいたエマちゃんに聞いた。
「あれは蒼冷石だよ。あれで、部屋の気温を下げられるの」
やはりか!!!すごい、石で部屋を涼しくするなんて地球では絶対ありえない代物だ!
撮りたい!
「それで、領主が伯爵に代わった途端、街の全部の水道が止められて……。水が欲しいんなら20ゴールドを伯爵に納めろって。僕の家は貧乏でそんなお金、1か月働かないと稼げないから…」
「なんとむごいことを……許せん!勇者様、さっそく伯爵の家に向かいましょ……!!」
パシャ。
「よし上手く撮れた!……で、なんだっけ」
#3・水と伯爵とインスタ映え