#2 問題点とエレキテルとインスタ映え
港町・カフテル 宿屋・食堂
「はぁーー。絶望した。俺はこの世界にもう絶望しか感じない」
テーブルに突っ伏す。夕方この港町にたどり着いたが、テンションはがた落ち。すべてのやる気も失せた。食事も喉を通らない。
「どうしたの、お兄ちゃん?」隣でココアのような甘い匂いのする飲み物を飲みながらエマちゃんが言う。
「これ見てよ……」ポケットからスマホを取り出してテーブルの上に置く。
「あれれ、いつもみたいに光らないですね」エマちゃんがスマホを両手で持ち、慣れない手つきでボタンを押す。
しかし何度押してもスマホの電源は入らない。
そう。充電が…………切れよった。
異世界に召喚されたとき、なぜ充電器も一緒に携帯していなかったのか、俺の馬鹿!!
……いや、そもそもコンセントがないから意味がないか。
はは、終わった。この世の終わりだ。
魔王だかなんだか知らんけど、ひと思いに殺してほしい気分だ。
「ねぇお兄ちゃん、この平べったい石は何で動いていたの?」
「これはね、電気っていうすんばらしい現代技術によって動いてたのさ……」
「電気?もしかしてエレキテルのことかなぁ?」口元に幼い指をあて、エマちゃんがそう言った瞬間、息を吹き返すように俺は椅子から立ち上がった。
「…知ってるの、エマちゃん??」
「知ってるも何も、私エレキテルを使った魔法使えるよ?」
ガッ!!
「ひゃ!」俺はエマちゃんの両手をガッシリと握りしめた。
「先輩、お願いします!!このスマホ、直してください!!」
周囲がざわめく。
理由は簡単だ。俺が異世界では見慣れない恰好で、しかも目の前のロリッ子に土下座して頼みこんでいるからだった。
「お兄ちゃん、そんなことされたら恥ずかしいよぉ。部屋行こう、エマ、試してみるから」
部屋に入るとエマちゃんはベッドに座り、俺はその対面に座った。
エマちゃんが両手で包みこむようにスマホを持つと指の間から青白い光が出てきた。
「おおぉ……」素直に魔法というものを見るのが初めてだったし、地球ではまずお目にかかれない幻想的な光景だった。
撮りたい、なぜ今、スマホの充電は切れているのか、悔やんでも悔やみきれない。
次第にピリピリと音を立てて電気のようなものがエマちゃんの手の中で発生しているのが分かった。大丈夫なのだろうか、プラグから電気を送らず充電したら逆に二度と使い物にならない、そんな一抹の不安が俺の心の中をよぎる。
10秒もしないうちにその現象は収まり、青白い光も消えていった。
「はい、終わり!」
「う…うん」エマちゃんからスマホを受け取り、恐る恐るスマホの電源ボタンを長押しする。
ゴクッ…。緊張と不安からか、自分の生唾を飲む音すら聞こえる。
数秒後、そこには見慣れたマップル社のロゴが点灯した。
「ふぉぉおおおーーー!!直った!!ありがとうエマちゃん!!君は俺の充電器だぁーー!!!」嬉しさのあまり俺は対面にいたエマちゃんに抱き着いた。柔らかい、これが地球ならきっと事案だ。
「えへへ、だってエマは大魔道士・フェリオの血を継いでるんだもん。これくらいお手のモノだよぉ」
充電器は見つかった。俺の異世界旅行の不安定要素はオールクリアだ。
「ところでエマちゃん、もう一回さっきの充電見せて。撮るから」
「え?」
パシャ。
#2・問題点とエレキテルとインスタ映え