#異世界と俺とインスタ映え
Yuuki_hibino「パーティーと一緒にピース」
#はじまりの街・アルハノイム
スマホで撮った写真にはダブルピースをする俺こと日比野勇気と戦士さん、僧侶さん、魔道士さんの4人が映っている。街のシンボル・アルハノイム城を背景にして撮った写真は我ながらセンスがいいと自画自賛をする。
「あのうユウキ様?そろそろ出発しないと日がくれてしまいますよ…?」遠慮がちに真横で一緒に写真を撮った僧侶のマリナさんが言う。
中々の美人だ。もちろん、カレンには到底及ばないが。
「待って待って、あと一枚。今度はあの噴水をバックに撮ろう!」
「はぁ~」俺の後ろにボディガードのように立っている戦士のナイラスさんは疲れてしまったのか、深いため息をついている。
「ほらナイラスさん、笑って。マリナさんももっと俺のそばに!あ、魔道士のエマちゃんは俺の前でね。身長が小っちゃいから丁度いい!」
パシャと聞きなれたシャッター音が鳴る。
異世界での写真がまた一つ増えた。
「大丈夫なのか、この勇者様は……」
「だめかもしれないですね」
「しれないじゃなくて駄目だと思うよぉ、この人」
早速スマホで写真を編集する俺のうしろでパーティーのみんなが何か小言を言っているが、そんなことは知ったことではない。
マリナさんやナイラスさんの言い分は分かるっちゃ分かる。俺は1日前に魔王を倒す勇者としてこの異世界・ザウスに召喚された。だからパーティからすれば一刻も早く旅に出発したいのだろう。
しかし俺は今、モーレツに感動している!!
なぜならものすごい手土産を持って、地球に帰れるのだから。
“インスタ映え”は間違いない。彼女も必ず喜んでくれるはずだ。
俺は心を躍らせ、パーティーメンバーと写真を撮り続けた。
そう。―――インスタ映え、今の若者なら一度は耳にしたことのある言葉じゃないだろうか?
インスタブラム。それがアプリとして登場してから、今や日本では若者の文化の一つとして定着しつつある。
先に言っておくけど、俺は熱狂的なインスタブラマ―でもなければ、インスタに写真をアップロードして、フォロワーから「グッド!」ボタンを得て恍惚したい欲求は微塵もない。
すべては俺の最愛の人、園田カレンのためだ。
カレンとは大学のサークルが一緒で、はじめて出会った瞬間に俺は恋に落ちた。
風になびく艶のある黒のロングヘアーに毛先だけカールがかかり、顔は人形のように整っていた。太陽の光をモノともしない色白な肌に、細い指、この世の服という服はすべては彼女が着るために作られたのではないかと思うほどなんでも着こなした。
誇張はない。それほど彼女は綺麗で完璧だった
カレンを彼女にしようとした男連中は一人の例外もなく玉砕した。
高嶺のカレン、いつの間にかそんなあだ名で呼ばれ始めた彼女と猛烈なアタックの末、俺はデートに漕ぎ着けることができた。
そして夢のようなデートをしていた最中、スタバで彼女はふと呟いた。
「最近、インスタのフォロアーの数が伸び悩んでる」と……。
「え?でもたしか園田さんのフォロワーって10万人を超えているんじゃ……。一般の人で10万って結構すごいと思うよ?」
「足りないのー!!私のことを見ている人間が10万人しかいないなんて信じられない。せめて50万、いや100万人は必要よ!」彼女が怒ることは日常茶飯事だ、一部の男どもはカレンは性格が悪いなどと言うが、馬鹿め!こんなにも承認欲求が強いなんて魅力的じゃないか!きっと自分たちが相手にもされないこと嫉妬からだろう。
話が脱線したが、そうなのだ。彼女の趣味はインスタだった。彼女が狂信的なインスタブラマーだということは大学の男女問わず知れ渡っていた。
1年前にインスタを始めたと聞いているが、彼女は写真を撮ってインスタに上げることを生きがいにしていた。
カレンの家は超がつくほどのお金持ちで、度々海外へ旅行に行ってしまう。そのため、彼女のインスタは日本のみならず、海外のナウいグルメや「#有名観光スポットとわたし」的な写真で埋め尽くされている。
「どうすればフォロワーが増エマのかしら」と彼女は困ったような顔でいう。困った顔も一段とかわいい。
「んー、たとえば、誰も行ったことのない場所の写真をアップするとか……」
「あんた馬鹿?もうこの地球上に誰も行ったことのない場所なんて存在するわけないじゃないの」
しかし存在した。
未だ、地球人が絶対に写真を撮ってないであろう秘境が!!
それが異世界・ザウス……。
勝ったな。間違いなく勝った。撮った写真を持ち帰ればカレンに渡せば、俺の株が上がることは間違いない。周りの野獣どもと一気に差をつけられる。
そして俺は晴れてカレンと……。
ふ、ははは…。
ふはははははは!!!!!!
はっー、はっはっはっ!!!!
俺をこの異世界に召喚してくれた白いひげの爺さん、名前は……なんだっけ?
とりあえず、サンキュー!!