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カスケイドブーケ  作者: 餅原
芽吹き
9/20

仲直りだよ!昼飯大作戦

 ここだけの話、ラブグローリーはしょっちゅう喧嘩をする。

 決して仲が悪いわけではない。メンバー全員、我が強い故に度々衝突を起こしてしまうだけだ。そして衝突が起きたあとは、大体皆で反省会として飯を食いに行く。喧嘩中に誰がどのようにして飯屋に誘っているのかはローテーションで決まっている。前回はシトラスが誘ったから今回は私が召集した。もし次に衝突が起きたとしたら、エリザが誘うだろう。そんな風にして私達は成り立ってきた。

 今日の舞台はここ、そば処の忍州屋だ。前回喧嘩した際にうどん屋に連れていったところ、私がきつねうどんを食べたら「馬鹿にしてるんですかねぇ」とシトラスの機嫌を損ねさせてしまったことがあった。まったくもってめんどくせぇ。あいつが学校でその見た目からキツネというアダ名があることは知っていたが、きつねうどんを食べただけでそう捉えるなんて(はなは)だ滑稽な話だ。飯屋で仲直りができないとなると、ことさらにめんどくせぇことになる。だから今回はうどん屋はやめた。そばだ。そばにいてもいいかという意味にでも捉えとけ、という話だ。……というのは冗談だが。

「……。」

 店にはいってメニューを眺める間、沈黙が続く。カウンター席で三人となりに並ぶスタイルで、左奥からエリザ、シトラス、私の順に座った。

「……おそば、久しぶりだね」

 やや気まずい雰囲気が流れたあと、エリザが口を開いた。勇気をもって場をなごまそうとしてくれたが、今の私の口からは「そうだな」という四字しか吐き出すことはできなかった。意地を張っている、とわかっていても、今穏やかにガールズトークができる気分ではない。飯には誘ったし仲直りはしたいが、そのあとの直接的な謝罪はどうにも言えそうになかった。……毎回そうだ。大体エリザが謝って、それをなだめるようにシトラスも謝る。あいつも私なみに頭が固いクソガキだ、誰かが謝らないと己を省みようとしない。

 結局注文を頼む時までそれ以外の言葉は何も交わさず、とりあえず店員を呼んだ。

「すみません、この鴨蕎麦に餅巾着入れてもらうことって可能ですかねぇ」

 さも常連客のように不思議な組み合わせの蕎麦を頼む声に、私は耳を疑った。

「申し訳ございません、うちでは餅巾着は取り扱ってないんです」

「そりゃ無理に決まってんだろ、何頼んでんだ」

 そう言うと「そうですかぁ、じゃあただの鴨蕎麦に。」と注文を訂正した。あたりまえだ、ここではそもそもただの鴨蕎麦しか扱ってない。失礼なやつだな、と軽蔑した目で見たのが伝わったのか、私と目が合うとツンとした顔でお冷やを煽った。

「エリザは決めたか?」

「あ……私……カツ丼……」

 蕎麦屋だっつーの!

 なんでこうも常識のない奴らばっかりうちのグループにはいるんだと思いながら、私もざるを山盛りで頼む。がっついてやけ食いしたい気分だった。

「山盛りですかぁ?太りますよぉ」

 横やりに刺され軽くイラつく。毎度毎度、仲直りする気があるのかこいつ……と思ったが、考えたらこいつはいつでもこんな調子だった。メッキメキに腐った野郎だな。

「餅巾着も相当なカロリーだと思うが。」

「私はきちんと体調も体型も管理できるからいいんです、京子さんはそういうの苦手でしょう?」

「うるっせ!仲直りする気あんのかお前!」

 店内だというのについ声を荒らげてしまい、ハッとして座り直す。ニヨニヨと気持ちの悪いしてやったり顔を浮かべるそいつを思いきり睨んでやった。エリザはロシア語で何か私に向かって言ったがわからないので無視をする。

 しばらくまた沈黙が続き、口寂しくなったのか薬味と一緒に並べてあるカリカリ梅を箸でつまんでむしゃむしゃと食べ出すシトラス。いくらなんでも食べすぎだ、と言いたくなった次の瞬間、私達の喧嘩の間に入るようにカツ丼を持ったエリザが寄ってきた。

「やっぱりエリザ、真ん中がいい……」

「子どもか」

 つやつやと卵が照明を反射させて綺麗だ。美味しそう。蕎麦屋だがな。

「いいですよ、私がエリザがいたところにいけばいいんですね」

 なんでこうもこいつはエリザに甘いんだ。腹が立つ。私にももっと優しくしやがれ。変な争いはめんどくさいんだ、まったく……。

「うん……ごめんねシーちゃん……」

「私も意地はってすみませんでした。……いつものことですねぇ、これ。悲しいですが、直せないもんなんでしょう……」

 えっ、このタイミングで仲直りするのか?ていうか私は?

「あ……ご、ごめん、あたしからも言わせてくれ……」

 あたふたしながら続けてしゃべると、また沈黙。三人でフゥと息を吐いて、それぞれ目の前の食事に集中した。


「ねえ、見て、あの人たちってテレビで見たあのアイドルじゃない?」

 ゆっくりのろまに飯を食べるシトラスを待っていると、店のどこからか小さなざわめきが聞こえた。

 ほほーん、私達も顔バレするくらいには知名度が上がってきたんだな、嬉しい限りだ……。そう思い、心の底から沸き上がってくる笑みを抑えながら、あくまでも自然に、声のする方に視線を向けた。

 だが、声を発した一般人と思わしき者達の視線は別の方向を向いていた。

「京子さんもミーハーですねぇ、お行儀が悪いですから、そんなに周りを眺めながらキョロキョロしないでくださいよ」

 いつの間にか最後の一口をすすり終わり、口元にティシューをあてているシトラス。口角はわからないものの目が人を小馬鹿にするときの光を宿している。せっかく仲直りも終わったというのに、こいつの口はまだ減らねぇのか!

「うるせぇ!お前いい加減、何に対しても食ってかかんのをやめろ!」

「やめてふたりとも……お勘定、しよ……?」

 胸糞が悪い。財布を取りだし椅子から乱暴におりると、さっきのざわめきが聞こえた方から別の聞き覚えのある声が聞こえた。

「……あ」

 そこにはテレビで見たことのあるアイドル、もとい私達の先輩がいた。


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