いつもの昼
窓側の席のいいところは日差しがあたたかいことであり、悪いところは日差しがまぶしいところである。
退屈な授業を耳へと強引に押し込んでくる教師。パワーハラスメントなんじゃないかと思うと、よりいっそう授業が億劫になる。そう、これはきっとパワハラなのだ。意味はわからないけれど。
教師から隠れてお弁当を食べることは出来ないものか、くしゃみをするふりをして口におかずは放れないものか、などとダラダラ考えていると、もったいぶったような間延びした音でテロテロと終了の鐘が鳴った。
そう、この鐘が鳴るということは、楽しいお昼休みの時間がきたということ。こんなにも晴れやかな気持ちにしてくれるのだから、もっと鐘の音も豪華にしてほしいくらいだ。チャペルで鳴らすような……耳ざわりのよい音。
「お昼食べないの~?はづきち」
わたしの机に可愛い小包を置く。相変わらずことのの女子力は光ることをやめないなぁ……。私も白無地の弁当バッグをいそいそと取り出した。
「いただきます」
ふたりで目を瞑り、手を合わせて軽くお辞儀をする。
「そういえばさ、今日だよね」
私がそう呟くも、ことのは首を軽くかしげた。
「事務所に二人で行くのって」
「……ああ、そういえばそうだったねぇ」
首をかしげたままブロッコリーをかじり出す。……だんだんと不安な感情が込み上げてきた。
「ねえ、本当にことちゃんはいいの?本当に着いてきてくれるの?」
ことのはニッコリと笑って、ブロッコリーに苦戦しながら、首を縦に振ってくれた。
「着いていくよ。はづきち一人じゃ不安だしねぇ。楽屋のご飯とかひとりで全部食べちゃいそうだよぉ」
「あっひどい、そんなことしないもん」
本当かなぁ、と追い打ちをかけるように口にして、お互いひとしきり笑ったあと、ことのが何か閃いた顔で教室を見渡した。
「というかこういうのって普通、あの子とか誘うものじゃないのぉ?えっと……名前なんだったっけ……そう、乙川さん。美人さんだよぉ」
「乙川さん……すごい美人さんだよね」
廊下側の一番後ろの席に目をやる。そこが乙川さん……彼女の席だ。
乙川さんはいつも大体座って本を読んでいる。たまにクラスや同じ学年の男の子に話しかけられて楽しそうに喋っているところは見るものの、女の子と話しているところはあまり見かけない。喋ることが嫌いというわけでもなさそうだけれど……。
透き通った水色の細い髪に、ゆるめのウェーブがかかっていてとても可愛らしい。長くて細い、けれど柔らかそうな女の子らしい見事なおみ足が神々しいのだ(本当の事を言うと、おみ足という言葉を使いたかっただけである)。
「僕は、はづきちと一緒になにかが出来るっていうのは、嬉しいことだよぉ。でもこういうのって、ちゃんと考えて選んだ方がいいと思うんだよねぇ」
いつになく真面目なことを言いだす。そんなことも考えていたのか、ことのは大人だなぁと思っていると、私の手の中に視線を注がせていた。
「ねえ、有力な話をしたよねぇ、僕。ちょっとでいいから、そのココアが欲しいなぁ……」
私の両手にすっぽりとおさまっているココアの缶。残念なことに空っぽなのだけれど……。ことのの眠たそうな眼の奥にキラキラした光が見えて笑ってしまった。前々から知っていたことだったけれど、本当にココアが好きなんだなぁ……。
「そういうと思って、2本買っておいてあるのです。ふっふっふ」
「神様仏様はづきち様だぁ……ありがとう……!」
どこかで聞いたことのあるフレーズを口にして、ココアをゆっくりすすり出した。




