先輩もライバル
あきらかに見たことのある二人組。
「う~ん、お稽古のあとのお蕎麦は格別ですわ!ね、楓子」
桃色の長い真っ直ぐな髪を右耳にかけながら、味わうようにゆっくりと蕎麦をすする者がひとり。
「姉さん、味わうのはいいけどあまりにもゆっくりしすぎると麺がのびてしまうよ」
桃色の短い真っ直ぐな髪を左耳にかけながら、静かにスープを口に運ぶ者がもうひとり。
そう、どこからどう見ても、私達の先輩、fleurの二人だった。先程の一般人達はフルールを見てテレビに出たアイドルだと話していたのだ。急に胸にツキツキと悔しさが込み上げる。
「おや、あれは……フルール先輩じゃないですか。挨拶だけでもしていきましょうかねぇ、京子さんが。」
「私がかよ」
今さっきまで喧嘩やら嫉妬やらで心がザワザワしていたばかりだというのに、笑顔を貼り付けヘコヘコと後輩面しなきゃならねぇのか……。小言を悶々と心に貯めつつ、社会不適合者じみたメンバーふたりを見てため息を吐いた。こいつらは駄目だ、私が挨拶にいかねば、と思った。なんて、そんな言葉を声に出したらシトラスの野郎にボロクソ言い返されるに違いない。
意を決して二人に近づく。先にこちらに気づいた様子の妹の楓子先輩は、私を黙視すると無表情のまま姉の桜子先輩に合図した。
「あら、やっぱり貴方たちだったのね!とても元気がよくて仲もよくって、ふふふ、聞いているとこっちまで楽しかったですわ」
「お世話になってます、桜子先輩。それに楓子先輩も。」
花が舞うような優しい聖母の笑みを浮かべる桜子先輩。しかしはて、聞いていると楽しかったとは何の話だろうか。
「貴方たち、お店のなかで話すには騒がしかったから。静かにして。」
桜子先輩のほんわかした雰囲気とはうって代わり、こちらの目すら見ずにぴしゃりと言い放つ楓子先輩。シンプルに怒られてしまった。
「以後気を付けます。あいつらにもきちんと伝えておきます」
「まあまあ……。まだ高校生くらいの若いうちは、周りに迷惑かけるくらいが可愛いし大丈夫ですよ」
頭を軽く下げるとすかさず柔らかな声でサポートに回ってくれる桜子先輩。この二人、双子だというのにこうも正反対な性格なのはどうしてなんだろうか……。
「姉さん、そろそろ時間だから行きましょ。」
「待ってください楓子、まだスープを完食していません……やっやだ、置いていかないで欲しいですわ!」
「待つよ……お会計済ますだけだから。」
いそいそと頑張ってスープを小さな口に流している。性格こそ正反対だけれど、顔立ちはやはり似ている。
メイクの好みも違うようで、桜子先輩はふんわりとした雰囲気の、女性的でまつげの長いフェミニンなメイク。楓子先輩は格好いい系の、ややつり目気味でボーイッシュなメイク。当たり前だが私服も全く違う系統を着るし、衣装ですら双子コーデを着ているところもあまり見かけない。双子らしくない訳ではないけれど、私が双子に生まれたらきっと双子感を全面に出してそれを自らのキャラクター(設定という意味での)にして売り出すだろう。それをしたらきっともっと売れるに違いないのに、それぞれ好きな雰囲気をまとって仕事をする二人。惜しいなあ、だなんて思わないけれど、私達ラブグローリーは今この二人を越える勢いで伸びようと試行錯誤している。同じ事務所の先輩にしてライバルだ。
「ごちそうさまでしたっ。とても美味しくいただきました!お母さん、また来ますわ!」
満足そうな笑顔で荷物を肩にかけ、外へ出る準備をする。すれ違う際に会釈をするエリザとシトラスを見つけ、桜子先輩もまた丁寧に頭を下げていた。
「おかえりなさい、京ちゃん……」
「ああ。私達も会計済ませてとっとと戻るぞ。」
財布を取り出す間、何やらびっくりした様子で私を見てくる二人。
「今日はもうレッスン終わりましたけど。ボケちゃいました?」
「まだ夕方までどうせ暇だろ。後輩だって出来たんだ、うかうかしてられっかよ」
さっきの勘違いの出来事はいささか心にきた。知名度もまだまだの状態で、あの一般人ども(と複数人参加予定)の枠を奪うには、あまりにも何もかもが足りなさすぎる。悔しさをバネに這いつくばってやろうじゃねぇか。
「京ちゃん、頑張りやさん……いい子いい子」
「こっこらうどんの汁がハネたかもしれねぇ服でくっつくな!」
せっかくお出汁のいい匂いで体が満ちていたのに、結局こいつの洗剤だか何だかのよくわからん華やかなオンナの香りで上書きされた。悪い気持ちではないがうどんの余韻に浸れないので勿体ない……。言いたい言葉はたくさんあったが、これ以上騒ぎすぎて出禁になる前に、とっとと帰ってダンスの練習でもすることにした。




