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この手に平和をもう一度 ~英雄再生譚~  作者: 小夏雅彦
終わりの足音
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来たる終わりの時

 城塞全体がピリピリした雰囲気に包まれている。滅多なことでは動揺しない信一郎も当たりの雰囲気に当てられ、つい固くなってしまう。


「ソノザキ、あまり気を張り過ぎるな。いつも通り、お前はいつも通りやればいい」

「分かっている。大物を相手にするのが俺の仕事だ。それくらいはやるさ……」


 空は厚く暗い雲に覆われ、遠くでは雷鳴も閃いている。あまりにもおあつらえ向きな状況。世界が終わるのならば、きっとこういう情景なのだろう。

 角笛の音が天高く響いた。銅鑼が、喇叭が、敵の襲来を告げる。地平線の彼方から土煙が上がり、地を震わすような轟音が城塞の上にも届いて来た。真一郎は《スタードライバー》を装着し、声もなく変身した。銀色の戦士が世界に顕現する。


 南の空が黒く染まった。否、それは空ではない。視界を埋め尽くすほど大量の竜だ!

 恐るべき咆哮を上げながらフィアードラゴンが飛来してくる!

 城塞に設置された改造型の魔導砲が火を噴き、空を埋め尽くすドラゴンに向かって飛来する! ドラゴンたちも負けじと火炎弾を放ち、城塞や平原を燃やす! 真一郎はそれらを冷静に観察した。


「現状は空への対応を行った方が良さそうだな。シルバーバックで奴らを迎撃する!」


 隣にいたクラウスは頷きながら、魔導砲隊への指示を出した。左手のブレスレット型デバイスのスイッチを押し、シルバーバックを展開。輝く羽根を開き、真一郎は空へと飛んだ。複雑なる銀の軌跡を描きながら、ドラゴンとシルバスタが対峙する!


 フィアードラゴンの背には、何体もの化け物が乗っていた。空挺降下でも行うつもりか。真一郎はかつてグロフキンス島で戦ったビーティアのことを思い出した。


 真一郎はドラゴンを前にして減速せず、むしろ加速! 背負った翼が刃のように閃き、ドラゴンの翼を切断! 地上から放たれた砲撃、そして不可思議な電光がドラゴンを次々に撃墜する! それでもなおドラゴンの密度は減らない!


「いいだろう、諦めないというのならば諦めるまで攻撃を行うだけだ……!」


 真一郎は火炎弾と詰め、そして牙の攻撃をかわしながら、次々とフィアードラゴンの羽根を切断する。頭が揺さぶられるが、しかしこの程度ならば問題はない。


「その言葉、そっくりそのままお返ししましょう。園崎くん……!」


 真一郎の強化聴覚は、ドラゴンの羽ばたきと咆哮、そして断続的な炸裂音と雷鳴の中でその声を確かに聴いた。声のした方向を見てみると、ドラゴンの背に乗った黒星の姿があった。すでにダークマターを身に纏い、キーを回そうとしていた。


『FULL BLAST。DARKNESS DLIVE』


 恐怖を喚起する恐るべき低音ガイダンスが二人の間に響いた。

 彼の両足に暗黒星のエネルギーが収束した。

 黒星は足場としていたフィアードラゴンの背を蹴る。

 それだけでフィアードラゴンは爆散した。


 避けられぬ。真一郎は咄嗟に翼を操作、前方に翼を展開し、自らの身を守るシールドと成した。黒い光を纏った黒星がそれに衝突した。


 背部スラスターを全開にしたが、まったく意味がなかった。真一郎と黒星の体は黒い尾を引きながら空を舞い、そしてウルフェンシュタイン城の敷地に落下。暗黒星のエネルギーが落下地点周辺にあったものを破壊した。




 吹き飛んで行った真一郎は、城の庭にあった立派な一本松に背中から激突した。根元から樹齢数百年の松がへし折れ、近くにあった池に埋没した。安全機構は働いていない、予想以上にダメージは小さい。真一郎は呻きながらも立ち上がった。


 ブースターを吹かしても、抵抗することは出来ない。そのため、真一郎は途中でそれを止めた。結果として、彼の体は吹き飛ばされ数秒早く地面に激突した。


「キミが這いつくばっているのを見るのはやはり気分がいい、園崎くん!」


 数秒遅れて、天十字黒星――ダークマター――が着地した。巨大なクレーターを地面に穿ちながら。嘲るような口調だが、その佇まいには一切の油断がなかった。


「ほざけ、黒星。俺は忙しい、貴様を殺してさっさと戻らせてもらおうか!」

「いいえ、キミは私に勝つことは出来ません。ここで私に敗北し、そして死ぬのです」

「黙れ! あの時死にきれなかったようだな……俺があの世に送り返してやる!」


 体勢を立て直した真一郎は走り出した。シルバーウルフの銃口を黒星に向ける。


「それでは通用しないということを、キミはまだ分からないのですか!?」


 黒星は苛立ったようにして言う。それを無視し、真一郎はシルバーウルフのトリガーを引く。だがもちろん、ダークマターの装甲を貫通するにはまったく不足だ。真一郎はシルバーウルフを握り込み黒星に向かって殴りかかった。ゼロ距離での発砲なら効果はある。


 もちろん、二度同じ攻撃を食らう黒星ではない。横合いから掌を当て真一郎の打撃を逸らす。放たれた弾丸が虚しく虚空を穿った。更に、捌かれ流れた背中に向かって強烈なチョップを繰り出す。頸椎をへし折らんとする強烈な一撃に、真一郎は何とか耐える!


 真一郎はバックキックを放った。だがそれは黒星の目から見ても苦し紛れの攻撃だった。足首を取られたかと思うと、捻じられた。折られる、そう考えた真一郎は自ら飛んだ。骨折は免れたものの、地面に転がることになってしまう。その隙を黒星は見逃さず、飛びかかり馬乗りの姿勢となった。真一郎には跳ね除けられない!


「残念でしたね、園崎くん! その愚かさの代償をキミが支払いなさい!」


 圧倒的不利な状況、しかし真一郎は嘲るようにして笑った。


「バカが、俺が何の策もなく貴様との一対一の勝負に応じるとでも!?」


 真一郎の内臓HMD(ヘッドマウントディスプレイ)には何本ものステータスバーが表示されていた。そして、今か今かと待ちわびていた瞬間がたった今訪れた!


「久しぶりの起動だからな、ブートアップに少々の時間がかかっていた……!」


 《スタードライバー》から両腕に向かってエネルギーが注ぎ込まれて行く。

 真一郎は黒星の腕を掴んだ。万力にでも掴まれたような感触を、黒星は覚えた。


『WILD GUARD LADY』


 《スタードライバー》が特徴的な機械音声で告げた。必殺の瞬間を。

 真一郎の両手には白銀に輝く巨大な手甲が現れた。

 指先に当たる部分には、その指を模したような巨大な打撃機構が備えられている。

 真一郎は黒星の手を握り込む力を強める!


「キミの無駄な努力には、いい加減うんざりさせられますね……!」


 黒星は追撃を嫌い、自ら真一郎との距離を離した。

 相対距離十メートルで、再び二人は対峙した。

 真一郎は威圧的な構えを取り、黒星を見据える。


「いい加減終わりにする時だな、黒星。俺とお前の因縁を、ここで終わらせる!」


 真一郎は駆け出した。ワイルドガードの重量ゆえ、機動性は当然落ちる。

 しかし、剣呑な打撃武器は当然ハッタリではない。

 倍近いパンチ力を装着者に与える! 更に!


 黒星は簡易フルブラスト機構を作動させ、腕部にエネルギーを収束。

 突撃してくる真一郎に向かって拳を繰り出した。真一郎は左甲を構え、受け止めた。

 破滅的なエネルギーの一撃は完全に防がれ、黒星は逆に一撃を食らい吹っ飛んだ。


 ワイルドガードの持つ最大の特徴、それは防御力の増強だ。自身のフルブラストでさえ傷一つつかないほど強固な装甲はダークマターの一撃にさえ耐え切る。圧倒的な攻撃力と防御力、その合わせ技こそがワイルドガードの真骨頂なのだ!


 吹き飛んだ黒星に向かって、真一郎は更に一撃を繰り出す。黒星は舌打ちし防御しようとするが、一瞬遅い。ワイルドガードのピストン機構が作動し、瞬間打撃の射程を伸ばしたのだ。ワイルドガードの一撃が頭部に炸裂、更にもう一発が腹部に炸裂!


「これで終わりだ、黒星! 貴様が死んで、それで終わりだ!」


 真一郎はシルバーキーを捻った。

 『FULL BLAST! WILD GARD!』、通常は脚部に収束するはずのエネルギーが、両腕に収束した。白銀の手甲が眩く輝き、暗黒星をも照らした。


 真一郎は駆け出し、拳を振るう。

 同時に放たれたストレートパンチが、ダークマターの胸部装甲で炸裂。

 圧倒的エネルギーでそれを焼却した。


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