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この手に平和をもう一度 ~英雄再生譚~  作者: 小夏雅彦
終わりの足音
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天を裂く閃光

この話は「最弱英雄の転生戦記」の77、78話とリンクしています。

よろしければそちらもご覧いただければ幸いです!


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 雲が高速で後方に流れていく。空はこの先の状況を暗示するような暗雲に包まれており、どこかから雷鳴が聞こえてくるような気がした。真一郎は万が一のことを軽快し甲板で待機していたが、幸いにしてドラゴンが現れて来るような気配はない。船上では騎士や整備士たちがせわしなく動き回り、緊迫した状況を作り出していた。


「……精神を張り詰めてばかりでは、肝心な時に動けなくなるぞ。ソノザキ」

「ほらほら、あったかいお茶でも飲んでリラックスして下さいな。旦那」


 そんな真一郎を気遣って、クラウスとフィネが近づいて来た。フィネの手には大きめの金属ポットと、まだ湯気を立ち上らせる熱いお茶が握られていた。真一郎はそれを取る。


「すまんな。どこかから敵が襲い掛かってくると思うと、落ち着いていられなくてな」

「お前が落ち着いていないのは、それだけが原因とは思えないのだがな」


 朝から自分のことを見ているクラウスにとっては、お見通しということか。真一郎は苦々し気な表情を作り、舌打ちを一つした。その通り、緊張の原因はこれだけではない。

 前日、リナは同行を断った。いままで一緒に旅をしてきた仲間が、だ。


「いまの緊張状態のこと、首都にいる両親の耳にも入ってきているみたいなんです。飯の種がないからってほっぽり出してたのに、まったくかってな人だと思いませんか?」


 そう言うリナの表情は呆れていたが、どこか充足したというか、楽し気なものでもあった気が真一郎にはした。当然だろう、何年も断絶状態だった家族から報せが来たのだから。ただ、両親からもたらされたのは必ずしも喜ばしいことだけではなかったようだ。


「家に帰ってくるように言われました。グラフェンは『帝国』と国境を接している危険地帯、『真天十字会』とやらが入ってくるなら必ずグラフェンからだろう、って言われて。どうしたらいいんでしょうね、私。大事な家族には変わりないんですけど……」


 そこから先の言葉を、リナは紡がなかった。『大事な家族には変わりない。けれども、自分には大切な仲間もいる』。そう言いたいのだと、いや、そう言ってくれるのだと真一郎は思った。だからこそ、彼はリナの両肩を掴んで、こう言った。


「この旅が危険だというご両親の懸念は、正しい。だからこそ、リナ。キミが選んでくれ。両親の願いを聞き届けるか、旅を続けるか。キミの意志がすべてを決める」


 言ってから、どこか突き放した物言いだったな、と真一郎は反省した。そして、そんなことを言うべきではなかったな、と彼女が放った二の句を聞いて後悔した。


「……向こうに行ったら、お見合いをしろって言われました。『亭主を持って身を固めて、早く孫の顔を見せてくれ。こんなご時世、いつ死ぬか分からない。だからお前にも、幸せな未来を掴み取ってほしい』、って。そう言われたんですよ」


 すべてはもう決まっていた。けれども、後押しが欲しかった。そう気付いたのは終わってからだった。そう、園崎真一郎は……いつも終わってから出ないと気付けないのだ。


「リナさん、引き留めて欲しかったんすかね。ご両親のことは大事に思いながらも……」

「強制力を持った『何か』を求めていたんじゃないか、と思う。彼女の意志も、両親の意志も、すべて吹き飛ばしてくれるような、そんなものを彼女は求めていたんだ」


 もちろん、これは真一郎の想像に過ぎない。けれども、去り際に見せた彼女の寂しげな表情は、それを物語っていたように思えた。なぜ、止められなかったのだろうか? 彼女と一緒に旅をしてきた一か月間は、満ち足りた時間であったはずなのに。


(……依存するな、真一郎。彼女は俺のものでも、誰のものでもない。彼女の心は彼女のものだ。彼女がそれを選んだのならば、それを肯定するのが俺のすべきことだろうが)


 それでも。彼女について来てほしかった。彼女の口から、『一緒について行きたい』という言葉を聞きたかった。自分のエゴイズムと独占欲とが、たまらなく恥ずかしかった。


「……! 南南西四十度の方角から黒い影が迫ってきている! ドラゴンだァーッ!」


 飛行船の物見台から悲鳴のような叫び声が聞こえて来た。真一郎もクラウスも、その方角を見た。南南西の空からは雷鳴が轟いて来ており、時折稲光が暗雲を白く照らす。その中に、巨大な翼を広げた怪物の姿があった。まだ遠いが、ドラゴンに間違いない。


「どうやら来たようだな。ソノザキ、奴らを排除するぞ」

「分かっている。フィネ、下がっていろ。奴らの相手は俺がする」

「了解っす、旦那! でも、困ったらフォロー頼んでくれてもいいンすよ?」


 フィネはサムズアップし、下がっていった。そうなったら、遠慮なく呼んでやろう。そんなことを考えながら、彼はシルバーキーを装着した《スタードライバー》に挿入した。


「変身」


 まばゆい光が辺りを包み込み、そのコンマ一秒後真一郎の体が銀色の装甲に包み込まれた。異界の星神の力を鎧う、最強の戦士。シルバスタがここに降臨した。


「俺がウルブズパックでドラゴンどもを叩き落す。撃ち漏らしを頼んだぞ、クラウス!」

「分かっている。俺とて騎士団長から魔導兵器を賜った身。一歩でたりとも退かん!」


 真一郎は銃剣シルバーウルフの銃口にシルバーバックをセット、グリップを一回ポンプした。ALPHAモード、すなわち長距離射撃モードを起動させた。シルバーバック装備時のシルバーウルフはちょうだいな射程を誇るが、レティクルの類はない。元々は市街戦を想定していたので、五百メートル以上の射撃は想定外だ。だがやるしかない。

 シルバーバックとシルバスタの視界とをリンクさせる。望遠モード視界が、二キロ先の光景を真一郎の網膜に投影した。真一郎はウルブズパックを構えた。ショルダーパッドはないので、いつも通り腰だめにして撃つしかない。真一郎はトリガーを引いた。


 空気を切り裂くすさまじい発砲音とともに、光の矢がウルブズパックの銃口より発射された。放たれた光弾は高速で飛翔、二キロ先にいたドラゴンに到達。小爆発が見えた。爆炎が晴れるとそこには頭を失ったドラゴンがおり、果てしない空に落下していた。


「一匹落ちたな! よくやった、だがここからが本番だ! 連中が散開しだしたぞ!」


 真一郎は舌打ちした。彼の強化視覚は、その後方から飛んでくる更なるドラゴンをも捉えていた。今回出撃してきた船は十隻、そのすべてを守り切らねばならぬ! 行きだけではない、帰りも! 全神経を集中させ、真一郎は眼前の空を睨んだ!


「俺は一番遠くにいるドラゴンを狙う! 近付いてきた奴への牽制は、任せる!」

「分かっている! お前の取りこぼしを貰えるのならば、ここにいる価値もある!」


 クラウスは珍しく軽口を叩き、腰に差した剣を抜いた。緑色の宝石が美しく輝く。


「吼えろ、シルフィス! お前の敵はそこにいるぞッ!」


 クラウスは自らの剣の名前を呼んだ。よほど気に入っているのか、と思ったが違ったようだ。彼の声を聞いて、剣は覚醒したかのように光り輝いた。緑色の輝きが剣を包み込み、刀身の周りで風が逆巻いているのを真一郎は感じた。クラウスはそのまま剣をなぎ払う。風の刃が剣の軌道上に現れ、飛んで行った。飛翔するフィアードラゴンに命中。


「なるほどな、お前の声は剣を目覚めさせるための機動キーということか」


 真一郎は一人納得し、次なる標的に向けてトリガーを引いた。攻撃を何らかの方法で察知したのか、ドラゴンは旋回。軌道を逸らされたことによって、弾丸は虚空へと消えて行った。舌打ちを一つし、次弾を放つ。次の弾はドラゴンの翼に命中、空中で支えを失ったドラゴンは、耳が痛くなるほどの咆哮を残して無限の空へと落ちていく。


「チッ、このペースで撃ち続けると考えると……それほど先は長くないな」


 シルバーバックの抱える明確な弱点の一つとして、エネルギーの大量消費が上げられる。強力な分、連射には制限がかかっているのだ。フルパワーでの運用は十分が限界だ。エンブリオとの連携でその弱点をカバーしてきたが、残念ながら相棒はいない。


(この世界に来てから、己の小ささを思い知らされることばかりだ……!)


 ドラゴンを次々撃ち落とす自分を見て、『共和国』の騎士たちはどう思っているのだろう? 頼りになるヒーローとでも思ってくれているのだろうか。そう考えると罪悪感が湧いて来る。自分は正義のヒーローなんかじゃない。ただの弱い人間だ。叫びたくなる。


 だが、そんな弱気な叫びに負けるわけにはいかない。いまの自分は、まぎれもなく彼らのヒーローなのだから。ドラゴンを捕捉し、撃ち、またドラゴンを捕捉する。その瞬間だけは、彼の心は自由だった。考え事などする必要は、一つもなかったのだから。


 真一郎とクラウスの奮闘によって、救助船に迫る大部分のドラゴンは撃墜された。二つの防御網を持すり抜けて船に迫ってくるドラゴンは、戦場の騎士たちが放った矢や打ち落とされた錨によって沈められた。二人の攻撃に対する回避行動を取らなければならない以上、接近してから攻撃するまでに若干のラグがある。そこを突いた形だ。


『WARNING! WARNING! ENERGY、EMPTY!』


 シルバーバックから奇怪な警告音が聞こえて来る。同時に、シルバーバックがダウン。エネルギー切れだ。真一郎が想定してた事態の一つが起こってしまった。


「その銃は、もう使えないのか! どうするつもりだ、ソノザキ!」

「もちろん、この程度のことは想定済みだ! 少し留守にするぞ!」


 真一郎は走り出し、そして踏み出した。無限の大空に向かって。


『SILVER BACK。READY』


 無論、投身自殺ではない! 背部装甲が展開され、そこから巨大な羽根とブースターが展開! シルバスタは空を駆ける! 眼前には多数のドラゴン!


「さあて、空中戦としゃれこもうじゃないか!」


 眼前のドラゴンたちが火炎弾を発射! 真一郎はそれを切り揉み回転で回避し、一切スピードを落とさずに接近! ドラゴンの羽根とシルバスタの羽根とがぶつかり合い、シルバスタの羽根がドラゴンの羽根を切断する!


「はぁぁぁぁぁーっ!」


 次なるドラゴンが接近してくる。炎を纏った咢を大きく広げ、真一郎を噛み殺さんとしてくる。真一郎はその眼前で急停止し、上昇。ドラゴンの咢が虚しく空を裂く。目だけを上げて真一郎を追ったドラゴンは、急接近してくる銀色の影を見た。

 シルバスタの重い蹴りがドラゴンの頭部に突き刺さる。ドラゴンの顔面がクレーターめいて歪んだ。恐らく、顔面の骨が粉砕されているのだろう。真一郎は反動で跳躍、船に迫るドラゴンの眼前に躍り出た。その手にはキーの刺さったシルバーウルフ。


 『FULL BLAST!』、その声を聞いたのは目の前にいるドラゴンだけだっただろう。ドラゴンの顔面に強化されたシルバスタの拳が突き刺さった。ドラゴンの顔面が、光の粒子となって消えて行った。シルバーバック展開中はほとんどの武装が使用できなくなるが、シルバーウルフはその中にある数少ない例外である。


 ドラゴンを打った反動で、真一郎は後方に跳んだ。すなわち、先ほど頭を潰したドラゴンの真上に。ほとんど死にかけているが、死んではいない。ドラゴンは愚直に船を目指した。させるか、そう思いながら、真一郎はキーをドライバーに戻し、もう一度捻った。

 エンジン音のような、この世界の人間が聞いたことのない音が辺りに轟いた。『FULL BLAST!』、そのかけ声とともに真一郎の右足にエネルギーが収束されていく。右足を突き出し、跳び蹴りのような姿勢を真一郎は取った。自由落下の速度を、背負ったブースターが加速した。圧倒的なエネルギーを注ぎこまれ、今度こそ首が落ちた。


 反動で真一郎は再跳躍、高度を取り戻し、船へと戻っていった。冷静に甲板に着地、《スタードライバー》を腰からはがし、変身を解除。直後船外に嘔吐した。


「それがなければ、よくやって来たと賞賛してもいいんだがな」

「だったらお前がやってみろ……!」


 生体認証(イニシャライズ)が成されているため、自分以外の人間に使うことは出来ないと分かっていつつも、そう言う口さがない物言いには反発したくなるのが人情だ。


「悪かったよ。お前の働きのおかげでドラゴンどもはほとんど掃除された。安全に航行することが出来るだろう、少なくとももうしばらくの間はな」

「アルクルスとやらにひしめいている《ナイトメアの軍勢》は、この比ではないんだろうな。いま飛んできたドラゴンが野生の連中でなければ、だが」

「『真天十字会』は《ナイトメアの軍勢》を使役する。ドースキンでも見たようにな。島に近付くにつれて、敵の攻撃は激しくなっている。無関係とは思えないな」


 まったくその通り。続けようと思ったが、吐瀉物が口を突いて出て来た。


■~~~~~~~~~~~■


 眼下に、地獄が見えた。戦場など一度も見たことのない真一郎にも、その状況の危険さは理解出来た。石造りの教会が燃え、周囲に築かれた城塞が破壊され、死体が荘厳で霊的な空間を押し潰す。そこは紛れもなく、死と退廃が支配する戦場だった。


「降下し『帝国』、及び協会避難民を収容する! フィネ、手伝ってくれ!」

「クラウス! こっちは《ナイトメアの軍勢》の相手をしていればいいんだな!?」

「そうだ! 城塞を越えてくる奴らを中心に対処しろ! 大型を狙ってくれ!」


 避難船からロープが垂らされ、クラウスたちが船から身を踊り出した。慌ててそれを視線で追うと、ロープを掴みラぺリング降下めいて地面に降りていく。船は下りない。


「船はここに固定し、地上の支援を行うのか?」

「はい! 残りの九隻で避難民の収容を行います。私たちはここから《ナイトメアの軍勢》を牽制し、避難民たちの収容をサポートするのが役目です!」


 銃を相手にするなら、高度があった方がいい。銃弾とて物理法則に従うものであることに変わりはない、真っ直ぐ放たれた弾丸も徐々に高度を落とし、落下していく。半面、撃ち下ろすかたちになるこちらの攻撃の的中率は相当高くなるだろう。

 真一郎はウルブズパックを装着し、構えた。眼前の地獄を構成している、もっとも大きな要素はなんだ? 考えるまでもない、城塞に纏わりついている巨大な怪物だろう。これまで相手にしてきたサイクロプスもいるが、それよりも巨大な、ゴツゴツとしたい喚いた巨体を持つ怪物もいる。名を冠するならギガンテスと言ったところか。


 ギガンテスが城塞を破壊し、破壊された壁から『真天十字会』の兵士たちが敷地内に乱入してくる。時折ギガンテスが振り落とした瓦礫にぶつかり命を落とす者もいる。

 真一郎はウルブズパックのグリップを二回ポンプし、散弾モードを起動させる。そして、眼科で走り回る兵士たちに容赦ない銃撃を繰り出していく。何度も放たれた弾丸が、兵士たちを撃ち殺していく。これでは鴨打か何かだ、真一郎はそう思った。


「デカいのの相手は俺に任せろ! みんなは地上の兵士たちを頼んだ!」


 真一郎は射撃モードをベーシックに戻し、グリップを一度ポンプ。シルバーウルフにシルバーキーを突き刺し、捻った。『FULL BLAST! ONLY ONE ALPHA!』、奇怪な機械音声が流れたかと思うと、銃口にエネルギーが集中する。

 真一郎は視覚リンクを作動、ギガンテスとサイクロプスを狙った。光の点が怪物の頭部に重なり、『LOCK ON!』の表示が現れる。次々と怪物の頭部に点が描かれる。その光点が限界まで発生したのを確認し、真一郎はトリガーを引いた!


 圧倒的なエネルギー量を持って放たれた光の弾丸が、ギガンテスの頭部を貫通! しかしそれだけに留まらない、頭部を貫通した弾丸は湾曲し、別のギガンテスの頭部を貫通! しかしそれだけに留まらない、弾丸の勢いは決して止まらない!

 これぞALPHAモードの切り札、マルチロック射撃! 追尾機能の応用で複数の敵をロックオン、同時攻撃を行う! この勢いならギガンテスを全滅させられる!


 しかし、そうはいかない。真一郎の視界の端で光が瞬いた。その瞬間、頭部に衝撃。遠距離から何かを食らったと理解したのは、吹き飛ばされ床に転がった時だった。


「そ、ソノザキさん!? だ、大丈夫なんですか!?」


 真一郎の眼前で火花が散った。比喩表現ではない、シルバスタの頭部装甲とぶつかり合った弾丸が放ったものだ。転がった真一郎はしかし、すぐに体勢を立て直した。


 甲板に転がった弾丸を見た。非常に巨大なものだ。砲弾を思わせるほどに。真一郎はよろよろと立ち上がり、辺りを見回した。ALPHAモードの弾丸は既になかった。先ほどの攻撃によってロック機能にダメージがあったのだろう、真一郎は舌打ちした。

 だが、それ以上に問題なのは眼下で繰り返される殺戮だ。何者かが放った弾丸が、避難民たちを攻撃しているのだ。一番大きな教会の影から出て行こうとした人々が、バラバラの肉塊になって壁に叩きつけられる。攻撃された人々を庇おうとした少年が巻き込まれた。それを守ろうと何人かが立ちはだかった。だが、どれほど保つだろうか?


「俺を殺したと思っているのか? だとしたらそいつは残念だったな……!」


 こちらの第二射を軽快している気配はない、と真一郎は判断した。そうであるならば、あれほど大胆な狙撃を行ってはこないだろう。こちらが放った二射だけで位置を特定し、一撃で頭を打ち抜いた腕は見事なものだったが、詰めが甘い。もっとも、頭部を撃ち抜かれて生きている人間など存在しないのだから当たり前なのだが。


 真一郎はウルブズパックのグリップを三度ポンプした。『OMEGA MODE! RUNNING! WILD!』。凄まじいエネルギーが銃口に収束する。これにシルバーキーによるフルブラスト機構を組み合わせることも出来るが、銃身が保たない。いずれにしろ、人間一人を消し飛ばすには十分すぎる威力を持っている。


(撃って来い……俺か、あるいは、彼らを……そうすれば殺せる……!)


 眼下では攻撃を警戒する一人の男の姿があった。もう一人女がいた気がするが、気のせいか。いずれにしろ、あの男は正体不明の相手からの狙撃に対応しているようだった。一撃撃たせれば、位置が分かる。真一郎はその瞬間を待った。


 そして、その時が来た。山頂に近い森から光が瞬いた。その位置を、シルバスタのセンサーは完全に捉えた。真一郎はウルブズパックのトリガーを引いた。


「消え去るがいい! 食らえェーッ!」


 ウルブズパックから放たれた光の柱が、山頂部分に収束していく。山の頂上を削り落とし、地形さえも変える一撃。あれを食らって、生きている人間などいるはずがない。


「す……すごいですよ、ソノザキさん! ほ、本当にあんなことを……」

「いまのうちに避難民を収容して、撤収するんだ! 敵はまだ残っているんだ!」


 撃ち漏らしたギガンテスが九隻の避難船にゆっくりと接近してくる。エネルギーを消耗したウルブズパックでは、あの怪物を殺すことは不可能。真一郎は歯噛みしながらもグリップをポンプ、単射モードで迫り来るギガンテスの軍団を牽制した。

 やがて、船が動き出した。空に浮かぶ島から、船がドンドン離れていく。追撃がなくなった頃を見計らって、真一郎はシルバーキーを引き抜き、変身を解除した。


 クラウスは、フィネは、無事だろうか。真一郎の心にあったのは、それだけだった。


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