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この手に平和をもう一度 ~英雄再生譚~  作者: 小夏雅彦
空を渡る船/裂空のウルブズパック
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オークの見本市

薄暗闇の中、島の輪郭が映し出されて行った。

上空ではフィアードラゴンが旋回しているが、それが船を見つけたような

気配はなかった。鳥目なのだろうか。

尾上は船首にあった装置を手に取った。銃座のようなもので、

先端には錨がついている。尾上は狙いをつけ、ペダルを踏んだ。

圧縮空気を放出する『ボフ』という音がして、鎖付きの錨が勢いよく

射出された。木々の隙間を縫って錨は地面に突き刺さった。

反対側にも同じような装置があり、尾上はそちらの錨も射出した。


船体がゆっくりと島に近付いて行き、大きな衝撃とともに着地した。

船の羽根についていたプロペラが、ゆっくりと動きを止めた。

それと同時に船底を支える『足』が、船体側面から何本も突き出て来た。

そこで、ようやく船は動きを止めるのだった。


「さーて、それじゃあここからは潜入作戦だ。気張っていってくれよ、真一郎くん?」

尾上は真一郎の肩を叩き、船首についていた縄梯子を降ろした。


「こいつ、離陸するときはどうするんだ? 出てくるときのは使えないだろ」

「それに関しては心配ない。風の魔法石で浮かべるんだ。原理は知らないけど」

「……浮かべるなら、あんな方法で打ち出すことはなかったんじゃないのか?」

「魔法石に込められるエネルギーは有限さ。出来るだけ節約しないと」


そこまで言って、尾上は目線を横に向けた。

リナ、フィネ、クラウスの三人が、装備を整えそこに立っていた。

話はそこまでだ、と言いたいのだろう。


「救出隊の音頭はクラウス、あんたが取ってくれ。あんたが頼りだ」

「……分かった。では、陽動はお前に頼む。敵を出来る限り、引きつけてくれ」


真一郎に用兵術はない。元の世界では一介の学生だったのだ、

当たり前だろう。兵士を使うのはサッカーでポジションを決めるのとは

ワケが違う。戦争にルールはあるが戦場にはルールがない。

刻一刻と変化する状況、どこから襲い掛かってくるか分からない敵に

対して、一瞬の判断を行う。知識だけでどうにか出来る代物ではない。


もちろん、そんな態度はおくびにも出さず、彼は縄梯子を使わず船を

降りた。ビル二、三階分にも匹敵する高さによる衝撃を巧みに相殺し、

ゆっくりと歩みを進めていく。


「そ、それじゃあ……その、尾上さん。船のことは、よろしくお願いします」

「ああ。キミたちは人質の救出に専念してくれ。船は僕らが守るから、さ」

「……必ず、この船に全員で戻ってくる」

「そうっすよ! 旦那はあっしらにお任せください! では!」

「ハヤテさんにも、よろしくお願いしますと、お伝えくださいね」


 三人は思い思いの決意を口にし、船からゆっくりと降りて行った。


「ユウちゃーん、どうやねんあんたから見て。あの真一郎って坊ちゃんは?」

そして全員がいなくなったタイミングを見計らって、ハヤテが出て来た。

着物の上をはだけさせ、体をすっぽり覆うような、袖のない服だけに

なっている。袖に隠れて見えなかったが、両腕には革製の簡易な

ガントレットが着けられている。


「なんてことはない。っていう判断は、キミと一緒だと思うな」

「なんや。上は相当警戒しとったけど、タダのガキってことかいな」

「虚勢を張るのは上手いよ。だからみんな騙されるんだろうけど」


尾上はあの短い会話で、真一郎の人となりをすっかり看破していた。


「どうすればあれくらい、意地を張れるのか。

ちょっと気になるところではあるけどね」

そう言って、ジャケットの裾に手を入れた。

彼の懐から取り出されたのは、L字の鉄塊。

グリップに当たる部分から棒を引き抜き、棒の中身を確認してから戻した。

そして、L字棒のスライドを引いた。丁度T字になる。

金属がこすれ合う音がした。

尾上雄大は鉄塊、すなわち拳銃の具合を確かめた。


四人はクラウスを先頭に、深い森を抜けて行った。途中仕掛けられた

害獣用の罠を避けながら、彼らは島の中心部へと進んで行った。

クラウスは島のことを知っていた。


「……俺が生まれるより前、この村が炭鉱として栄えたことがあったそうだ」

「炭鉱……石炭を使っていたのか。いまは使われていないのか?」

「魔法石文明が発達すると同時に廃れて行ったとされている。

俺が生まれる頃には、この村はすでにのどかな農村になっていた。

だが、その名残は残っている」

「廃棄された炭鉱……ねぐらにするには、もってこいの場所だろうな」


思えば、設置されていた罠もかなり古ぼけていた。

オークたちも、その存在には気付いていないのだろう。

数十年前に廃棄されたものが、いまも使えるとは驚きだ。


少し進んで行くと、視界が急に開けた。クラウスが手で制する。

見ると、そこは崖になっている。傾斜はそれほどきつくないし、

足場もしっかりしているので、滑り落ちるようなことはなさそうだった。

真一郎は更にその先、炭鉱の入り口辺りを凝視しした。


かつては採石場としても使われていたのだろう、目の前にはすり鉢状の

広場があった。そこにはいくつも火がくべられており、夜だというのに

昼間のように辺りを照らしていた。その周辺には歩哨と思しき何体もの

オーク、隊長らしき巨大なオーク、金属鎧で武装したオークなど、

多くのオークがいた。まるでオークの見本市のようだった。


「……いまはあそこの入り口を使っているようだな」

クラウスは炭鉱の入り口を指さした。二体のオークがそこを守っていた。

「うーん、このままじゃあそこには近付けそうにありませんね」

「なら、ここから先は俺の出番というわけだな。クラウス、二人を頼んだぞ」

「承知した。そちらこそ、無理だと思ったら退け。俺たちもすぐに片付ける」


真一郎は頷き、立ち上がった。

シルバーウルフのグリップをギュッ、と握り締める。

そして、勢いよく斜面に飛び出した。ガラガラと派手な音を立てて、

彼の体は斜面を下って行った。歩哨のオークたちが、一斉にそちらを見た。

同時に、三人は移動する。


「なに! なんだぁ、貴様! いったいどこから来やがったァッ!」


真一郎は無言でトリガーを引いた。

オークの体に風穴が空き、続いて脳天が弾けた。

真一郎は走り、広場の中央まで行く。なるべく目立つように。

なるべく派手に。走りながらシルバーウルフのトリガーを何度も引き、

発砲音を何度も響かせる。


「バカが! たった一人でここに来るとはなぁ! ええい、出会え! 出会え!」


オークリーダーが叫ぶと、炭鉱の入り口上に設置されていた銅鑼が鳴った。

警報代わりなのだろう。呼び出してくれるなら無駄な手間が省ける、

真一郎はそう思った。

オークの剣が勢いよく真一郎に振り下ろされた。

彼はシルバーウルフのグリップガードでそれを受け、いなした。

真一郎の身体能力を持ってしても、オークとの力比べは身に余る。

いなし、体勢が崩れたオークの顔面にシルバーウルフのグリップガードを

叩き込んだ。鼻骨と歯が折れ、砕ける嫌な感触が、真一郎の手に伝わって来た。


背後から斧を持ったオークが突撃し、斧を薙いだ。

真一郎はそれを冷静に観察、オークの懐に入り、腕を受け止めた。

そしてその場で反転、オークの腕を捻りながら自分の背中を

オークの胴に打ち付けた。出来そこないの鉄山靠のような形に

なったが、効果はあった。勢いよく叩きつけられた体の衝撃を受け、

オークがたたらを踏む。捻り上げた腕に握られていた斧を使い、

正面から迫ってきていたオークの剣を受け止めさせる。


掴んでいたオークの手を放し、正面のオークのたるんだ腹に

蹴りを入れる。両者から距離を取り、その頭に一発ずつ弾丸を

くれてやった。だがオークたちは決して怯まない。その瞬間にも、

一体のオークがジャンプ斬撃を仕掛けて来る!

真一郎は空中からの斬撃をサイドステップで回避し、

着地したオークが薙いだ剣を下から蹴り上げた。

予想外の衝撃にオークの剣が頭上に飛んだ。

呆然としたオークの顔面をアッパーカット気味にグリップガードで

殴りつける。オークが吹っ飛ばされる最中にも、他のオークが

迫ってくる。真一郎は空中で回転する剣をキャッチし、オークに向ける。


一瞬、オークたちの動きが止まった。真一郎はその隙に剣を投げ捨て、

コートの下に隠した《スタードライバー》を抜いた。

視界の端で、クラウスたちが門番たちを排除し、廃坑の中に入って

行くのが見えた。第一関門はクリア、真一郎は鼻を鳴らした。


「その余裕……気に入らねえなぁー! 貴様ァ、いったい何者だ!」

オークリーダーは巨大な剣の切っ先を真一郎に向けた。真一郎は答えなかった。


「……変身」

真一郎はシルバーキーを捻った。

奇怪な音声が《スタードライバー》からした。

同時に、彼の体に漆黒のラインが刻まれ、そこからせり出すように

装甲が展開された。


「俺の名はシルバスタ。貴様らに死をもたらすものだ」

「シルバスタだとぉ? 下らねえ! やっちまいなぁ!」


オークリーダーの怒号とともに、オークたちが一斉に攻撃を仕掛けて来る。

真一郎はシルバーウルフの刀身を展開し、オークたちの軍勢を迎え撃つ!


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