三題噺 [置物] [小鳥] [八百屋]
ある商店街に、とてもやせ細った男が訪れた。
男は、彫刻家だったが、いつまでも売れることがなく、
収入が殆どなかったため、今にも餓死しそうなぐらい飢えていた。
商店街の様々な店を回って、
「余りものでも――――、
残飯でもいいから、食べるものが欲しい」
と、必死に頼んで回ったが――――。
店同士での、客の取り合いが激しくなったこの時代に、
身なりも汚く、見返りの期待できそうにない男に、
食べ物を恵む店など、一つもなかった。
そして最後に訪れたのは、営業しているかどうかも分かりづらい、
老夫婦が趣味で営んでいるような八百屋である。
彫刻家は老夫婦に必死に頼んだ。
「お腹が空いて死にそうなんです。
虫に食われて捨てるような葉でもいい、腐ったカブでもいいから――」
その、あまりにも痛々しい姿を見た老夫婦は、
彫刻家に、残飯どころか、売り物である新鮮な野菜を持てるだけ恵んでやった。
その優しさに、泣いて感謝した男は、
「店の脇にあった薪を一つ使って彫刻を彫るので、
それをお礼として受け取ってほしい」と言う。
老夫婦は別にお礼など必要として無かったが、
男が「どうしても」と言うので、受け取ることにした。
空腹が満たされ、元気を取り戻した彫刻家は、
三日三晩、休まずに、老夫婦への感謝の一心で彫り続けた。
そうして男が彫ったのは――――――、
一羽の小鳥の姿をした、木彫りの置物。
羽毛の一つ一つ、くちばしの皺一本、細部まできっちりと彫られたその彫刻は、
今にも羽ばたき、飛び立ちそうなほどである。
それを受け取った老夫婦は、
「とてもじゃないが、そんなに素晴らしいものを、あれだけの野菜の対価として受け取れない」
と、前回渡した量より更に多くの野菜を彫刻家に渡した。
彫刻家は、苦笑しながらも、その野菜を受け取る。
そして――――――
「あなたたちに野菜を貰わなければ、あなたたちからでなければ、
ここまでのものは彫れなかった」
と言い残すと、どこかへ去っていってしまった。
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その八百屋には、小鳥がいる。
正しく言えば、まるで生きているかのような、
とても精巧な小鳥の置物がある。
その精巧さ故に、仲間と間違えた他の小鳥が集まってきて、
商店街を訪れた客に、美しい囀りを聞かせるのだ。
客たちはその囀りのために、八百屋へ訪れ、野菜を買っていく。
老夫婦が営んでいた、今にも潰れそうだった八百屋は、
たちまち商店街一の名物となり、二人は終生まで幸せに暮らしたそうな。
リハビリ三題噺第七弾
[置物][小鳥][八百屋]
昨日の夜に、友人とだらだら話しながら書いたものです。
お互いにランダムに決めたお題で小説を書こう、ということで。
ファンタジーものにしてやろうと思ったのに、
いつの間にやら、ジャンルのよくわからないものになりました。シカタナイネ。
強いて言うなら童話かな?
童話とその他の中間ぐらいでしょうか。
約千文字という、少ない情報量で、
面白いものを作るというのは難しいものですね……。
展開に起伏をつける技術が足りない。お題にもよるけど。
八百屋の商品を食べにくる小鳥を、
野菜の置物で騙す話でもよかったかもしれないと、
投稿のためにあらすじを書いている途中に思いました。