第5章 衝撃
きっと、克彦は、カミングアウトするタイミングをうかがっていたのだろう。
なので、今日一日、様子がいつもと違っていたのかもしれない、
亜美は今日一日の行動を振り返り、そう思った。
かなりの衝撃を受けた亜美だったが、冷静に大人な対応が出来たと思う。
心の動揺も、だぶん、たぶんだけれど、克彦には気づかれてはいないはず。
克彦も、亜美の反応がすごく気になって、横目で必死にその様子を感じ取ろうとしているようだったが、
あえて亜美を直視してこない。
お互いに、何から話そうかと言葉を探していた。
そんな時、亜美は、一瞬、その存在さえ忘れてしまっていた、
手の中にあるジュースに気づき、克彦に「お茶とコーヒー、どっちが良い?」と尋ねた。
あまりの衝撃で、あやうく独り占めするところだった。
レストランでのコース料理は、ホークとナイフが出され、
かしこまった雰囲気の中で、ぎこちなく過ぎ去った。
衝撃的なカミングアウトから、なんだか、お互いに変に気を使っているというか
相手の出方を、探っているような感じがしていた。
こんな時には、ちょっとにぎやかなぐらいの場所の方が良かったかな、
そんなことをお互いに考えていた。
食事から戻ってきてからも、例のことには一切触れずに、重苦しい雰囲気が続いていた。
会話も弾まないので、ちょっと早かったが、シャワーに入り、寝ることにした。
ベットに入り電気を消すと、克彦から、
「こんな俺で良かったら、付き合ってもらえませんか?」と改めて聞いてきた。
このタイミングで?!ですかっと亜美は思ったが、
「もちろん。付き合ってるから、今もこうしているんだよね。」と答えると、
「でも、気持ちが変わったかと思って。本当に良いの?」と、またまた聞いてきた。
「もう、良いから一緒にいるの。」と、半分笑って答えると、やっと、空気が和んだようだった。
「抱きしめても良い?」
「うん。」
克彦の手は少し震えていて、遠慮がちに亜美を抱きしめた。
克彦の心臓が、ドキドキと大きな音で鼓動し、
すごく緊張しているのが、亜美にも直に伝わってきた。