第3章 1ヶ月ぶりの再会
「今週末の飲み会は参加する?俺はするよ。空いていたら亜美ちゃんもおいでよ。」
克彦からお誘いメールがきていた。
飲み会当日。
仕事で少し遅れそうだった亜美は克彦にメールをしておいた。
お店に到着して店内を見渡すと、手を上げて亜美を手招きしてくれている克彦の姿が、
すぐに目に入った。
克彦は、亜美の分の席を隣に確保し、待っていてくれていたのだ。
「あ〜、ありがとう」と言いながら、亜美が席に着くと、
「久しぶりだね〜会いたかったよ。」と、克彦がとびきりの笑顔を見せながら歓迎してくれた。
その姿に、なんだかホッと安心感というか、居心地の良さを感じた亜美だった。
そうそう、この感覚。出会ったあの日にも感じた感覚だった。
「久しぶり。でも、一ヶ月ぶりっていう感じがしないね〜。」
メールのやり取りを通じて、すっかり打ち解けていた二人だったが、
会うのは、今日が2度めで、出会ってから、約1ヶ月が過ぎていた。
「亜美ちゃんって彼氏いるの?」
「いないよ〜。」
「どんな男が良いの?」
「ん〜そうだなぁ。やさしい人が良いかな。」
「俺、めちゃめちゃ、やさしいよ。」
お酒の席でよくある男女の会話を、二人は楽しんでいた。
「克彦君は彼女いないの?」
「俺?!俺もいない。じゃ、ホテル行く?」
「えっ?!」あまりにもいきなりだったので、耳を疑った亜美だったが、
「じゃ、って何???じゃ、って」と心の中で思いながら、とりあえず聞こえないふりをしてみた。
すると克彦も何事もなかったかのように、そのことには触れずに話を続けた。
この日も亜美は、ほとんど克彦としか話をしていないような状態だった。
「まだいいでしょ。もう一軒行こうよ。」
「でも電車なくなっちゃうし。そうそろそろ帰らないと・・・。」
「いいじゃん。タクシーで帰れば。」
どうしようかと亜美が迷っていると、克彦は自分の両手を合わせ、
「まだもっと話したいし、もう少し。お願い。まだいいじゃん。」と、
お願いポーズをしてきた。
そのうちに終電の時間も過ぎてしまったので、
今日はタクシーで帰るかと、亜美は、電車での帰宅を諦め、
次の店に移る事はしなかったが、そのまま話をしていた。
それからしばらくすると、飲み会もお開きとなった。
皆で店を出て外にでると、それぞれが「じゃ〜ね〜」「気を付けて」など挨拶を交わし、
今日の飲み会は、解散となった。
克彦と亜美も、それぞれの知り合いと挨拶を交わし、
亜美は目の前に停まっていたタクシーに乗り込んだ。
タクシーで家に帰っていると、克彦から「今、どこ?」と電話がきた。
「今、タクシーで家に帰っているところ。」
「なんだ〜、もう乗っちゃったんだぁ。わかった。気を付けてね。」
酔っ払っていた亜美は、家に着くと化粧も落とさずベットになだれ込んだ。
すっかり爆睡モードに入っていた亜美の携帯から、メールの受信を知らせる着信音がなった。
びっくりして寝ぼけながら携帯を開けると、それは克彦からのメールだった。
「今日も話が出来て楽しかったです。もしよければ僕と付き合ってみませんか?」
いつも考えてしまい過ぎのところがある亜美だったが、
寝ぼけていたせいもあったのか、それともそれが素直な本心だったのか・・・
深く考える事もなく、感情のままに、勢いで一言「うん」とだけ書いて、返事を返した。
すると克彦から「すごいうれしい。ありがとう。明日、改めて連絡します。おやすみ。」
と、すぐに返事が返ってきた。
すでに半分、思考能力が停止してしまっていた亜美は、その返事を読むのが精一杯で、
返事を返すことなく、読んだままの状態で、携帯を握り締めながら、眠ってしまった。
翌朝、亜美は目覚めてから、すぐにメールを確認した。
お酒も入っていたし、寝ぼけていたし、現実の出来事か、夢の中での出来事だったのか・・・。
夢じゃなかった・・・。
亜美が送ったのは「うん」という、たった一言ではあったが、
確かに、メールのやり取りをしていた。
私達、付き合うことになってる・・・?!。