第1章 出会い
小さなダンボールに入った荷物が亜美の元に届いた。
ここにやってくるまで随分と遠回りをしてしまったようだが、
今、亜美の腕の中には確かに小さなダンボールが一つある。
その小さなダンボールのガムテープをはがし蓋を開けながら
亜美は、頬に自然と涙が流れ落ちているのがわかった。
そして、後から後からあふれてきて止まらない涙で
あらためて実感している。
「私、やっぱり大好きだったんだ・・・」
二人の出会いは今から3年前・・・
1ヶ月に1度くらいのペースで開かれていた会社の飲み会。
同じ会社といっても勤務している場所はみんなバラバラで
気の会う仲間に声をかけては人が人を呼ぶ状態。
その時によってメンバーも違うし、初めて見る顔も少なくない。
飲み会ではよく見かけるが仕事では何の接点もなく
顔を会わせたことすらないという人もいる。
そんな同僚が集まっては、最近の近況報告や
それぞれの会社での愚痴や噂話をするのが恒例となっていた。
「はじめまして!」
この日、着いたばかりの亜美の隣に
ものすごく自然にすっと近づいてきたのが近松克彦だった。
あまりに自然だったので亜美も初めて会ったような気がしないくらい打ち解けて
気が付けば二人で話し込んでいた。
ただ話し込んでいるといっても何を話したという訳でもなく
他愛のない話をしていただけだったが、
2件目、3件目と場所をかえても、亜美の隣にはずっと克彦がいた。
この日は、他の人とは挨拶を交わした程度で
まだ誰とも話という話すらしていなかったが、
終電の時間も近づいてきたので、もうそろそろ帰ろうかなと亜美は思っていた。
その様子を察したかのように克彦から
「電話番号教えてよ。」と聞いてきた。
これだけ話をしていたのだから、これはこれで普通なのかもしれない。
実際、亜美も流れで自然に教えてしまいそうになるところだった。
でも、なぜだろう??亜美の中で、今までの空気感が一瞬止まってしまったのだ。
それは、あまりに女の扱いが上手い克彦に対して
亜美が初めて警戒心を抱き、我に返った瞬間だったのかもしれない。
そして亜美は克彦の顔を見た。
「・・・・・。」
一瞬変わってしまった空気を克彦も察したようだったが
気にする風もなくサッと元の空気に戻してしまうところはさすがだった。
「いいじゃん教えてよ。」
「わっ軽っ」
「イタ電とかしないし」
「そうやってさらっと聞けちゃうんだね〜??」
「あれっ嫌だった?嫌じゃないでしょ」
「嫌じゃないけど・・・」
彼の隣は正直とても居心地が良かった。
それに連絡先を教えたくない訳でもない。
そして今はつい数分前に一瞬感じた空気感さえ忘れ、
このやりとりさえも楽しんでいた。
「じゃ掛けるから番号言って。」
亜美は携帯を開き彼の言う番号を押した。
場所によっては辛うじて電波が立っているのだが
いざとなると電波が弱く圏外になってしまって繋がらない。
電波の良さそうなところを探しては携帯を傾けてみたがやっぱり繋がらない。
「お店出たら後で掛けるね」
「じゃ俺の登録しておいてよ」
言われた通りに克彦の番号を登録していると
「じゃあ、とりあえずメアドだけでも教えておいてよ。メールは俺から送るからさ」
「信用してないなぁ〜。電話しないと思ってるでしょ?」
「そうじゃないよ、そうじゃないけど一応ね」
亜美が店を出て駅に向かっていると、早速克彦からメールが届いた。
「今日は楽しかった。もっと色々と話したかった。まずは電話待ってます。」
しかし、この短い文章が、亜美の気持ちを迷わせることとなってしまったようだ。