「星々を喰らう蛇」 - 6
職員室でのシーンです。
職員室のドアを開けた。
数名の先生達がデスクワークをしている。
部活の顧問を担当している先生たちは、それぞれの部活を見回りにいっていていないようだ。
ヨシノブ先生を探して、職員室の中を見渡す。
(手前から体育のカズヒサ先生、数学のチエコ先生・・・ いた!ヨシノブ先生だ。)
ヨシノブ先生はお茶を飲みながら、小テストの採点をしていた。
イオリちゃんと一緒に先生の机まで行き、先生に声をかける。
「ヨシノブ先生。すいません、今よろしいですか。」
ヨシノブ先生が情報端末の操作を止めて、こちらを見上げた。
「おや、Cクラスのユキヒト君とイオリさん。私に何か用ですか?」
「ちょっと先生にお願いがあって来ました。」
実は午後の授業の間中、ジュン、マキ、僕(イオリちゃんは除く)で情報端末のアプリ「文字チャット」でずっとどうやってヨシノブ先生を説得するか話していた。後はうまくいいくるめることができたらきっとOKだ。
イオリちゃんにもさっき内容を伝えた。
イオリちゃんが手はず通り、切り出す。
「私達、今度オールドジェネレーションについての研究を自分達ですることにしたんです。授業で学ぶだけじゃなくて、オールドジェネレーションのことで特に興味がある分野についてもっと知りたいなぁと思って。4人それぞれでテーマを持って研究しようと思っています。」
「ユキヒト君はいつも私の授業を退屈そうに受けていますが、本当にそう思っているんですか?」
「はい、僕はオールドジェネレーション達が何を食していたのか、僕らが常日頃から摂取している食べ物と成分的に何が違うのかを調査してまとめようと思っています。」
「ふむふむ。イオリさんはどうですか?」
「私はオールドジェネレーションの歴史の中でも、彼らの娯楽や娯楽施設について情報収集してまとめ、クラスで自分の考察を発表しようと思っています。」
「ほうほう。それで、私に最近UFOが出ると噂されているオールドジェネレーションの元居住区に引率で来て欲しいと。そういうことですか?」
「う・・・」
言葉に詰まってしまった。ヨシノブ先生には僕らが本当は何を望んでいるのかよくわかっていた。
離れた席から体育教師のカズヒサ先生がふんぞり返りながら口を出す。
「オールドジェネレーションの元居住区!?だめだ、だめだ。ヨシノブ先生、こいつらUFOが目的なんでしょ?
OKしちゃダメですよ。それに禁止区域に入ったことがPTAにバレたら大問題だ。」
「まぁまぁ。いいじゃないですか。勉強が目的だと彼らが言うのなら、ちゃんと授業の時間に彼らがまとめた内容を発表してもらえばいいじゃないですか。今時オールドジェネレーションについて自分たちで学ぼうという姿勢をもった生徒はそうはいません。
そうですね、発表内容の出来によっては、今期の成績も多少考慮しましょう。
今日は木曜日でしたね。では今週の土曜日にでもいきましょうか。
詳細な予定は明日決めるということで。
」
「やった。ありがとうございます。」
僕とイオリちゃんは顔を見合わせた。
するとカズヒサ先生が
「ヨシノブ先生!甘やかしちゃダメですよ。まったく、あなたは生徒に甘過ぎます。」
と気に入らないといった口調でヨシノブ先生の机に近づいてきた。
ヨシノブ先生は「君らはもう行きなさい」と僕とイオリちゃんに顔で合図をくれた。
僕らがその場を離れていくと、カズヒサ先生がヨシノブ先生を注意しながら色々言っていた。
(カズヒサ先生は真面目だからなぁ。でも、ヨシノブ先生は何とかついてきてくれそうだぞ。)
職員室から出てイオリちゃんと廊下を歩く。
「断られるかもって思ったけど、案外すんなり付いてきてくれそうだね。」
「そうね。でも私はユキヒト君が言ってたみたいにオールドジェネレーションが食べていたものにも興味があるわ。」
「僕も彼らの娯楽には興味があるよ。」
「私は本で見た『遊園地』にいってみたいな。」
「え、それって何?興味あるなぁ」
ジュンとマキにヨシノブ先生のこと話したら居住区に入れるし、歴史の成績も上げてくれるかもって喜ぶだろう。
僕とイオリちゃんは二人でまた色々話ながら学校を出て、彼らと待ち合わせの約束をしている街中のカフェへ向かった。
カフェにつくころには、もう帰宅のために公共交通機関のVTOLと自家用VTOLが空に群れを成して飛んでおり、地上には電気自動車が渋滞を作っていた。
電気自動車は自家用VTOLよりも安価で、維持費が少なくて済むらしく電気自動車と自家用VTOLの数を比べると電気自動車の方が所有者が多いとニュースで言っていた。
電気自動車を見ていると僕はこう思った。
電気自動車を発明したのはオールドジェネレーションらしいけど、彼らが絶滅した3000年後でも存在しているってことは、彼らが僕らに対して劣っているわけでは無いということにならないだろうか。
そう思えた。
続きます。